ボルボSUVとしては最もコンパクトな「XC40」(写真:ボルボ・カー・ジャパン提供)

世界的な自動車再編の流れで一時はフォードグループだったスウェーデンの自動車メーカー、ボルボ・カーズが中国の浙江吉利控股集団に傘下入りしたのは2010年。当時は中国資本の下でその先行きが不安視する向きもあったが、ところがどっこい。2017年は営業利益、販売台数とも過去最高を記録するなど、今、ボルボは世界の自動車メーカーの中でも躍進が目立っている。


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ボルボはフラッグシップSUV(スポーツ多目的車)の「XC90」からSPAと呼ばれる新世代のプラットフォームを採用しているが、それに伴った完成度の高いデザイン、安定した操縦性、安全運転をフォローする運転支援システムの充実などによって、世界の名だたる賞を総ナメにしている。

日本でも昨年、「年クルマ」を選出する「2017-2018 日本カー・オブ・ザ・イヤー(略称:COTY:Car of the Year Japan)」のイヤーカーを受賞したのは、ボルボのクロスオーバーSUV「XC60」だった。

欧州カー・オブ・ザ・イヤーを受賞

そんなボルボに最もコンパクトな都会派SUVとしてラインナップに加わったのが「XC40」だ。今年3月末に日本で発売。すでに欧州カー・オブ・ザ・イヤーを受賞している。最新のボルボの一連の流れを上級モデルから受け継いだスタイリングに最新のインフォテイメントシステムもさることながら、全体としては軽快でカジュアルなイメージ。それでいて、品格も備わっている。

このXC40に発売前後で触れた日本人のモータージャーナリストや自動車評論家などの専門家は声をそろえて絶賛している。悪い評判を聞くことがほとんどない。

それもあってか日本上陸前から、XC40を心待ちにしていたファンは少なくなかった。300台限定で日本に導入された「XC40 T5 AWD 1st Edition」はわずか2週間という、予想をはるかに上回るスピードで完売してしまったという。今後は四輪駆動だけでなく、燃費性能に期待できる前輪駆動や、内外装のカラーやスペックが異なる仕様が登場するようだ。

車両本体価格は389万円からの設定だ。日本の道路環境で走らせることを考えると、ボディサイズや取り回しやすさが気になるところだ。具体的に見ていくと、全長はミドルクラスのSUVとなるXC60よりも265mm短い4425mm。全高は1660mmで同じだが、全幅は1875mmで、25〜40mmほど幅が狭い。


リアスタイルもひと目で見てボルボ車とわかる雰囲気を出している(写真:ボルボ・カー・ジャパン提供)

ただし、この車幅はメルセデス・ベンツ「GLA」やアウディ「Q3」といった同クラスのコンパクトSUVが1800mm前半の数字であるのと比べて結構広め。マンションや商業施設の機械式駐車場に収まりきらないケースは結構ありそうだ。自宅の駐車場の広さに制限がある人の場合は買いたくても買えないかもしれない。これは日本人が抵抗を覚える数少ない要因といってもいい。

XC40は、今後の40シリーズに展開されるコンパクト系のプラットフォーム「CMA(コンパクト モジュラー アーキテクチャー)」が採用された最初のモデルとなる。

驚かされてしまったのは、優れた操縦性。試乗したのは、20インチのタイヤを装着した「XC40 T5 AWD R-DESIGN 1st Edition」だが、強固な骨格構造としなやかに動く足回り、走る、曲がる、止まるといった基本性能を磨き込むことで、SUVでありながら、走行時に路面から受けた衝撃でウワつくような不安定な動きを感じさせない。

ペダル操作やハンドルの切り込み具合から、車両は常にドライバーが意図する走行ラインを丁寧に辿る走りで、狭い峠道を通過する際も、クルマを自分のコントロール下に置いている安心感を与えてくれる。

まるで一筆書きで描くように

今回の限定車に搭載されたT5のパワートレーンは、直列4気筒、排気量2Lエンジンの出力を252馬力まで高め、8速ATとの組み合わせとなるが、アクセルペダルは足底に力を込めたぶんだけ、丁寧にタイヤが転がり出して、車速がコントロールしやすい印象。車体が前後に揺すられにくいので、同乗者も快適に移動することができそうだ。

ハンドルは僅かな切り込みから、ドライバーの意図を察してくれるもので、連続するカーブでは、車体全体の動きをまるで一筆書きで描くようにして走らせていける。狭い道幅の道路でも身のこなしにもたつきを感じにくく、広めの車幅を持て余す不安を感じにくい。

狭い場所では標準装備となる360度ビューカメラが強い味方。4つのカメラが捉えた映像を、まるでクルマを頭上から見下ろしたような映像としてモニターに映し出す。自車と障害物との位置関係や車庫入れ時の駐車枠を感覚的に捉えられるので、クルマをぶつけるリスクが減らせそうだ。


「XC40」のインテリア(写真:ボルボ・カー・ジャパン提供)

快適な移動環境を提供することも忘れてはいない。軽快に身を翻すリズミカルな走りとともに、路面から受ける入力をいなす、しなやかな走りを披露する。走行中に車内に侵入しがちな耳障りなノイズは上手に封じ込められていて、同乗者との会話をする時もストレスを与えない。

ほかにも、快適性を支えるのがインテリア。運転席は背もたれが背中の中心あたりにフィットして、正確な運転操作が行えるだけでなく、身体の納まりがいいので不用意に揺すられにくい。後席は大人の男性が十分に座れるだけのスペースを確保しているだけでなく、荷物をたくさん積み込みたい時は、荷室壁面のスイッチ操作を行えば、60:40分割可倒式でシートアレンジが可能だ。

欧州車の弱点である収納装備も充実

欧州車が二の次にしてきた収納装備を見てみよう。ドアの内張りに設置されるはずのスピーカーはダッシュボード内部に内蔵したことで、ドアポケットは広い収納として使うことができる。さらに、センターコンソールは、ドリンクホルダーのほかに、ゴミ箱やティッシュボックスの収納スペースがある。USBの充電ソケット、スマホの非接触充電機能といった現代人のライフスタイルを考慮した装備も充実。運転席からストレスなく使いこなせることが安全運転に繋がるという考えかたもボルボらしい。

このように、洗練されたスタイリング、居心地のよいインテリア、操縦性に優れた快適な走り、機能性に優れたユーティリティを備えたのが「XC40」だ。

今では多くの車両が採用してきた衝突被害を軽減する自動ブレーキ機能を日本で最初に市販車に搭載してきたボルボらしく、最もコンパクトなSUVにも最新世代の先進安全・運転支援技術を全車に標準装備してきた。高速移動で重宝するアダプティブクルーズコントロールは前走車との車間を維持しながら追従する機能がある。

一連の身のこなしに違和感を持ちにくい仕上がりなので、長距離移動などの際のストレスを軽減してくれるだろう。都会に似合うスタイリングとカジュアルなキャラクター。ヒットの予感がムンムンと伝わってくる。