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●クラウドとオートモーティブの親和性

タクシーの配車アプリや、カーシェアリング、ライドシェアなど、次世代型の交通サービス「MaaS(Mobility as a Service)」の発展が世界的に期待されている。

MaaSは「モビリティのサービス化」とも言われ、移動手段を自動車や自転車という"モノ"としてではなく、人やモノを運ぶ"サービス"として提供することを意味する。MaaSは、既存の業界の枠組みを超えた新たな連携を生み、人やモノの移動手段のあり方を大きく変えるポテンシャルを持っており、日本でも各業界の企業がこの市場に参入し始めている。

MaaSのサービスプロバイダとしての立ち位置を確立すべく、この領域に進出したDeNA。オートモーティブ事業を新たに立ち上げ、次世代物流サービス「ロボネコヤマト」やタクシー配車アプリ「タクベル」などさまざまなサービスを展開している。

特集3回目は、DeNAのオートモーティブ事業にとって必要不可欠なクラウドサービス アマゾン ウェブ サービス(AWS)の日本法人であるアマゾン ウェブ サービス ジャパン 事業開発本部 事業開発部マネージャーの高橋 修平氏と、同 技術統括本部部長 榎並 利晃氏に、オートモーティブ業界に対するAWSの取り組みについて話を聞いた。

○AWSからみたオートモーティブ事業におけるDeNAの強み

クラウドコンピューティングの代表格であるAWSは今や、IT業界だけでなく製造業やサービス事業など業種・業界を超え、活用の広がりを見せている。もちろん、オートモーティブ業界とて例外ではない。

AWSは特に、コネクテッドビークルや自動運転システムの開発環境、音声認識AIアシスタント「Alexa」を利用したコンシューマー向けサービスなど計6つのエリアにフォーカスし、オートモーティブ業界に対する取り組みを進めている。たとえば独BMWは、自動車のセンサデータを収集し、地図情報を動的にアップデートしていくという新たなコネクテッドカー向けのアプリケーションにAWSを採用している。

小さなサービスを組み合わせて利用するマイクロサービス アーキテクチャのAWSだが、そのサービス数は現在100を優に超える。いかに効率良く、そして使いやすく組み合わせてシステムを構築できるかが肝要になるが、コネクテッドカーなどの複雑なビジネスロジックを考えていくうえでは、どう実現したらよいかわからないという声もあるそうだ。

そこでAWSは、昨年12月からコネクテッドカー向けのクラウド環境を簡単に利用できるコネクテッドカー・リファレンスアーキテクチャの提供も開始している。Fintechやセキュリティといった時流に合わせたものはもちろん、ECサイト運用やログ解析といった従来はIaaSで運用してきたサービス向けまで幅広くリファレンスアーキテクチャを提供しているAWSだが、まだ未熟な領域に対しても迅速に提供しているのはAWSならではといえよう。

こうしたなかでDeNAのオートモーティブ事業部は、各サービスにおける車両情報を集約する基盤に「AWS IoT Core」を採用している。AWS IoT Coreは、さまざまなデバイスをAWSクラウドへ簡単かつ安全に接続するためのIoTプラットフォームで、数十億個という大量のデバイスに対してスケーラブルに利用できるのが特徴だ。

「特にコネクテッドカーなどオートモーティブ領域では、大量のデバイスから接続が想定されます。スケーラビリティがあり、なおかつ安全に相互通信できるAWS IoT Coreの特徴は、重要なポイントになっていると思います」(榎並氏)

オートモーティブ業界全体が今、これからの方向性やマネタイズについて模索している状況のなか、「トライ&エラーでさまざまなビジネスを検討しやすいクラウドの環境は、現在のオートモーティブ業界に適しているのでは」と高橋氏は話す。

特にIT大手であるDeNAは、もともとクラウドの価値に対する理解があり、クラウドを利用してトライ&エラーを繰り返しながらシステムを開発していくための土壌がある。これは、数年単位の時間をかけて製品開発を行う自動車メーカーに対して強みとなる部分だろう。

●IoTデータの活用は、課題設定が重要

コネクテッドカーを含め、IoTシステムを実現するためには、モノそのものだけでなく、モノからクラウドへの接続、さらにはクラウド上に収集されたデータを活用するインテリジェンスも含めて考えていかなければならない。IoTにおけるデータ活用について、榎並氏は「課題設定が非常に重要です。今あるデータをどう使うかという発想では、イノベーションは起きにくい」と指摘する。

「たとえば、『気温と湿度のデータを使って何をやるか』と考えるのと、『居心地の良い環境を作るためにはどのようなデータを取るべきか』と考えるのとでは、結果が大きく異なってくると思いませんか。前者では想像の範囲を超えるものは生まれてきません。IoTにおいては特に、何を実現したいのかきちんと課題設定をして、インテリジェンスの部分を設計していくアプローチが適していると思います」(榎並氏)

DeNAも、今後はGPSなどによる経路情報や車載センサーのデータといった、あらゆるソースを活用して、オートモーティブ事業の各サービスを発展させていくとみられる。そこには、MaaSを実現し、日本の交通問題を解決していきたいという目的がある。データから価値を生み出し、目的を達成するという意味でも、やはりクラウドのメリットを生かしてトライ&エラーの精神で取り組んでいくことが重要となる。

○AWSとしての今後の取り組み

一方でAWSとしても、車載、ネットワーク、クラウド、アプリケーションという4つのレイヤーにおいて、コネクテッドカー・車載サービスの実現に向けて取り組んでいるが、今後オートモーティブ業界に対してどのようにアプローチしていくのだろうか。高橋氏は次のように語る。

「安心・安全に関わる車の制御の部分は、我々としてはタッチするのが難しい領域ですが、Alexaを用いたインフォテイメントなどコンシューマ向けのサービスは、クラウドとの親和性が非常に高く、早い段階からお客様とともに取り組みを進めています。また、自動運転システムの開発領域においても我々がサポートできる部分は大きいと考えています。一方で、将来的に自動運転の運用に関わる領域については、我々としてはまだ見えない部分が大きいです。お客様のフィードバックをいただきながら、AWSとして価値提供できるのはどこなのか、今まさに検討を始めているところですね」(高橋氏)