砂漠を舞台にしたカーニバルで、今年も国際競馬の幕が開く。

 サラブレッドの国際GI競走5つを含む9つの国際競走開催ドバイワールドカップ(以下、ドバイWC)カーニバルが、現地時間3月31日(土)、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイにあるメイダン競馬場で行なわれる。

 5つのGIのうち、今回日本で馬券が発売されるのは、日本調教馬の出走するGIドバイゴールデンシャヒーン(ダート1200m)、GIドバイターフ(芝1800m)、GIドバイシーマクラシック(芝2410m)、そしてメインのGIドバイWC(ダート2000m)の4競走。このほかに馬券発売のないGII UAEダービー(ダート1900m)、GIIゴドルフィンマイル(ダート1600m)を含めると、過去最多の合計14頭が日本から参戦する。


昨年、ドバイターフを制したヴィブロス。連覇なるか?

 かなり冷涼だった昨年のドバイワールドカップウィークと打って変わって、今年は砂漠気候ならではの強い日差しが照りつけている。ただ、日本調教馬の大半が調教を行なう夜明け前の5時前後は長袖のシャツだけでは肌寒いほど。そういった意味では、日本調教馬にとっては昨年よりもいい環境で調整が行なわれていると言って差し支えないだろう。

 また例年、これだけの頭数がいれば、コースに入っての調教ができないなど、明らかな不安要素を示す馬が1頭くらいはいるものだが、今年は14頭各馬がきっちりとコースでの調教をこなしている。このまま全馬が順調にレース当日を迎えることを祈りたい。

 月曜日の最終登録で1頭追加されて10頭が出走することとなったゴールデンシャヒーンには、1000万条件(1月21日/中山・ダート1200m)、1600万条件(2月17日/京都・ダート1200m)と連勝中のマテラスカイ(牡4歳)が出走する。3歳の3月に2勝目を挙げた以降は、なかなか1000万条件を抜け出せずにいたが、スピードを活かして先行するようになった今年1月のレースで2着になった後、鞍上を武豊騎手にスイッチして連勝となった。重賞は2歳時にGII京王杯2歳S(東京・芝1400m)に出走して以来で、ダートの重賞には初出走となる。

 ドバイのダート短距離は日本調教にとって凱旋門賞以上に厳しい条件で、ダート重賞の出走すらないマテラスカイは厳しい戦いになると見られている。何しろ相手は、過去にこのレースを制した馬が3頭、2着になった馬が1頭、昨年のブリーダーズカップ(BC)スプリント(デルマー・ダート1200m)の勝ち馬もいて、かなり強力だ。是が非でも先行したい馬もそろい、10頭立てながら厳しい流れになることが容易に予想できる。

 ところが、意外なところからマテラスカイを警戒する声が聞こえてきた。BCスプリントの勝ち馬で3連勝中のロイエイチ(せん6歳)を管理するピーター・ミラー調教師だ。

「あの馬は父がスパイツタウンでアメリカの生産馬。だから、本質的にはアメリカの馬で、日本でなかなか勝ち上がれなかったのは仕方がない。むしろ、アメリカ流のスピードの血を持っているはずで、アメリカのダートと似ているこのコースで本領を発揮するかもしれないよ」

 ロイエイチは逃げ馬の直後を追走する脚質で、「レースではマテラスカイがキーになる。枠順次第では、あの馬を目標にレースをするかもね」と具体的なプランを示したことからも、ただのリップサービスとは考えにくい。

 続いて行なわれるドバイターフには、出走馬15頭中、なんと5頭も日本調教馬が出走する。逃げ、先行、差し、自在の脚質の馬がそろい、しかも、このうちの2頭が過去のこのレースの勝ち馬とあって、期待が高まらないわけがない。

 このレースでのひとつのポイントとなりそうなのは、登録時に繰り広げられたジョッキーを巡る駆け引きだ。日本調教馬の中で、もっとも早く騎乗予定騎手を明らかにしたのは、一昨年の勝ち馬リアルスティール(牡6歳)で、欧州の名手ランフランコ・デットーリ騎手をブッキングしたと早くから報道された。ところがレース半月前に、追加選出されたイギリスのモナークスグレン(せん4歳)にデットーリ騎手が騎乗することとなり、鞍上が空白となってしまったのである。

 その後、消息筋によると、オーナーのサンデーサラブレッドクラブと縁が深いクリストフ・スミヨン騎手などから売り込みもあったようだが、最終的にミカエル・バルザローナ騎手に決定。バルザローナ騎手といえば、フランスにおけるゴドルフィンの主戦で、このレースにも4頭のゴドルフィン所有馬が出走するのにこれに騎乗せず、一方でゴドルフィンのレシュラー(牡4歳)にはスミヨン騎手が騎乗するというややこしい状況となった。

 さらに、昨年の勝ち馬ヴィブロス(牝5歳)と昨年の香港クイーンエリザベス2世カップの勝ち馬ネオリアリズム(牡7歳)の間でも、双方で勝利したジョアン・モレイラ騎手が板ばさみとなった。結果、モレイラ騎手はネオリアリズムを選び、ヴィブロスにはクリスチャン・デムーロ騎手を迎えることとなった。

 こうした混乱をよそに虎視眈々と一発を狙っているのがクロコスミア(牝5歳)の陣営だ。オーナーの大塚亮一氏によれば、昨年1000万条件を勝ったばかりの次走、GIIIクイーンS(札幌・芝1800m)のパドックで、西浦勝一調教師からドバイターフ挑戦を打診されたのだという。西浦調教師の思惑はきっちりとその後の結果へと繋がり、ドバイターフへの切符をモノにした。父はかつてドバイで勝ったステイゴールド。大仕事の下地は整った。

 さらに昨年のヴィブロスを彷彿とさせるのがディアドラ(牝4歳)である。秋華賞(10月15日/京都・芝2000m)を勝って、翌春にこのレースに挑戦するのはまさにヴィブロスと同じ。滞在する厩舎でもヴィブロスの目の前の馬房に入って、その存在が大きな助けになっているとのことだが、レースでは「ひと足お先に」とばかりに先にゴールに飛び込むシーンがあってもおかしくはない。

 昨年は人気2頭がともに連対を外し、波乱の決着となったシーマクラシックには、レイデオロ(牡4歳)、モズカッチャン(牝4歳)、サトノクラウン(牡6歳)という昨年のGI勝ち馬3頭が出走する。

 この中で意欲的に調教が行なわれているのが、レイデオロとサトノクラウン。ともに強めではないものの、毎日芝コースで乗り込まれており、しっかりと馬場にフィットした動きを見せている。

 レイデオロに関していえば、前走の京都記念(2月11日/京都・芝2200m)は馬場も合わなかったうえに、かかってしまって自爆のような形になってしまった。ドバイと同じ芝質の香港でキングカメハメハ産駒は好成績を残しており、また、キングマンボの血とミスタープロスペクター(キングマンボ自身にも入っているが)の血の配合も、メイダンの芝コースでは相性がいい。一度使ってガス抜きがうまくできていれば、昨年のジャパンC(11月26日/東京・芝2400m)のパフォーマンスからも期待は大きい。


昨年のダービー馬、レイデオロ。順調に調教を消化している

 サトノクラウンは不良馬場だった昨年秋の天皇賞・秋(10月29日/東京・芝2000m)で激走した反動が根深かったのか、続くジャパンC、有馬記念(12月24日/中山・芝2500m)は本来の走りを見せることができなかった。今回はオーバーホールをしての出走。もとより、戦績からも休み明けは苦にしないタイプで、加えてこちらも芝の質が同じ香港で実際に勝利を収めている。当日までに雨が降る予報もなく、このまま良馬場で迎えられれば、本領を発揮できるはずだ。

 モズカッチャンも脇役で終わるつもりはないだろう。担当する梛木(なぎ)孝幸調教助手は「輸送で全然へこたれないんですよ。去年の春も小倉、中山、東京、東京と輸送競馬が続いても、最終的にオークスでも2着ですからね」とそのタフぶりを絶賛する。ここドバイでもハービンジャー旋風を吹かせるか注目だ。

 メインのドバイWCには昨年5着と健闘したアウォーディー(牡8歳)が、リベンジを期して再挑戦する。どちらかといえば不向きといえる昨年の馬場で、勝ったアロゲートには大きく離されたが、叩き合いを制して5着は確保した。今回は乾いた馬場で、よりこの馬にとって力を出しやすい条件となりそうだ。さらに、昨年1、2着だったアロゲート、ガンランナーは不在。この2頭を物差しにした場合、今年のメンバーなら昨年ほどの差を感じさせない。近況こそ今ひとつだが、騎乗予定の武豊騎手も「しばらく勝ち星から遠ざかっていますけど、ポテンシャルは高いので力を発揮できればチャンスはある」と、早々に現地に駆けつけ、調教から跨(またが)って本番に備える。

 馬券発売がないところでは、UAEダービーにはルッジェーロ(牡3歳)とタイキフルヴェール(牡3歳)の2頭が出走し、一昨年のラニや、昨年のエピカリスの再現を狙う。ともに500万条件までを勝っただけで、エピカリスらと比較すると戦績的に見劣りはするものの、ふたを開けてみないと判らないのが競馬だ。

 また、ルッジェーロはカトレア賞(11月26日/東京・ダート1600m)を勝利、タイキフェルヴールはヒヤシンスS(2月18日/東京・ダート1600m)で2着に入り、ケンタッキーダービー出走権を競うポイントを保有している。ここでの結果次第でさらに先が拓けるし、今年のUAEのこの路線は例年と比較して層も厚くない。

 第1レースとして行なわれるゴドルフィンマイルにはアディラート(牡4歳)と、アキトクレッセント(牡6歳)が出走する。アディラートは昨年UAEダービーで果敢に先行し見せ場を作った。アキトクレッセントも過去6勝中5勝が1番人気でなく、昨年の武蔵野S(11月11日/東京・ダート1600m)でも15番人気で3着となったように、典型的な穴馬だ。地元勢を筆頭に相手も強力ではあるが、日本調教馬に勢いをつけるためにもいい競馬を見せたい。

 昨年もヴィブロスが下馬評を覆して勝利したように、ここ数年、ドバイワールドカップデーでは日の丸が掲げられるシーンが続いている。果たして、今年もその歓喜の瞬間が訪れるか。

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