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親は子供の勉強にどの程度関わるべきだろうか。中学受験専門塾ジーニアス代表の松本亘正氏は「時には親が積極的に介入すべきだ。たとえば日本銀行・黒田東彦総裁のやり方が参考になる」という。5年前、黒田日銀が「異次元緩和」を始めるにあたり、市場に宣言したこととは――。

■「日銀の金融緩和」と「親の勉強介入」の共通性とは?

私は塾講師として、よく「親は子供の勉強にどの程度関わるべきか」と聞かれる。最近は「子供の自主性に任せる」という子育てをよしとする風潮があるが、私はそれだけがいいとは思わない。

子供の自主性に任せたいが、まるで勉強に取り組まないので見ていられない。テストで結果が出ないので、春に新学年を迎えるまでに何とかしたい――。親としてそんな悩みを抱える人は、一度ぜひ子供の勉強に関わってほしい。特に、成績が下降線をたどっている時にはそうすべきだ。

▼大事なのは「目標を定めること」と「期限を決めること」

重要なポイントは「目標を定めること」と「期限を決めること」の2つ。参考になるのは日本銀行の黒田東彦総裁だ。

「親の介入」にはコツがある。

2013年4月、黒田総裁は「量的・質的金融緩和」の導入を発表した。日銀によれば、「消費者物価の前年比上昇率2%の『物価安定の目標』を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現する」「このため、マネタリーベースおよび長期国債・ETFの保有額を2年間で2倍に拡大し、長期国債買入れの平均残存期間を2倍以上に延長するなど、量・質ともに次元の違う金融緩和を行う」というものだ。

この方針が正しいかどうかの是非はここでは問わない。ポイントは「目標」と「期限」について数字を掲げたことだ。子供に介入する親は、ぜひ黒田日銀のスタイルを参考にしてほしい。

■「来月の全国模試」で「偏差値を3上げよう」が正しい

▼黒田日銀の「方法論」をわが家の教育に生かす
●黒田日銀
「目標」設定:物価目標2%
「期限」設定:2年を念頭
●子供の勉強に介入する親がすべきこと
「目標」設定
例1 偏差値を3上げる
例2 算数は平均点まで戻す
例3 確認テストで満点を取る
「期限」設定
例1 来月の全国模試
例2 来月の塾内模試
例3 2週間以内

子供の勉強面にテコ入れしたいなら、このように言ってみてはどうだろうか。

「来月の模擬試験で4教科合計の偏差値をまずは3上げる目標の達成に向けて、勉強時間を毎日1時間増やす」
「その間、いつ、何をやるかのリストを親が書き出し、その進捗もチェックする。覚えたかどうかの確認までする」

▼スケジュールだけ決めて後は子供任せは最悪

よくスケジュールだけ決めて後は子供任せということがあるが、それは一番良くない。やるからには、「1カ月間」など期限を決め、自分の時間を割いて積極的に関わる。そして、結果を出しにいく。

このとき、3つの点を意識してほしい。

 

(1)達成可能な、現実的な目標設定をすること
(2)できるだけ短期間に目標達成をさせること
(3)子供との対話を重視すること

■偏差値デフレのわが子の学力をテコ入れする3つの法則

まずは(1)「達成可能な、現実的な目標設定をすること」から解説しよう。親の本音は、「偏差値は5でも10でも上がってほしい」だろう。現在小学校5年であれば、来年の中学受験に向けて、それくらい上げないと志望校に合格できないという焦りがあるかもしれない。

しかし、現実から乖離した目標設定をすると、無理が生じる。親の期待値が高すぎて子供の現実との乖離が大きくなれば、その差を不正で埋めようとカンニングや宿題のごまかしが起きる。

また、目標設定が現実から乖離すると、子供が自信をなくすなど精神的な不調に陥り、負のスパイラルに陥るかもしれない。「達成可能な、現実的な目標設定をすること」を意識してほしい。

次に(2)「できるだけ短期間に目標達成をさせること」である。金融緩和は10年も続けるものではないように、親の介入はあくまでも「偏差値デフレ」「成績デフレ」から脱却するために行うものだ。本来は、自発的に勉強し、結果を出せることが望ましい。だからこそ、期限を決めてそこまでは積極的に関わり、早期に目標を達成したい。

また、目標を達成したら、次は自分の力で勉強させたい。親の介入によって結果を出せたかとしても、さらにそれを続けていくと“バブル”状態を招くことになる。そうしたバブルはいずれはじける。親の介入なしに壁を乗り越える力をつけさせなくてはいけない。

親が関わらなければ、テストの結果が悪くなってしまうのではないかと思うかもしれない。成績が下がってもいいのだ。結果が出なければそこで子供と相談する。その結果、場合によってはまた親が関わればいい。

この「緩和と引き締めの繰り返し」によって、子供は自学自習の方法を身に付けることができる。これができる子は、中学受験の後にも成績が伸びていきやすい。

▼目標を達成したら親は「介入」を止めるべし

最後は(3)「子供との対話を重視すること」だ。黒田総裁は政策の実施にあたって、「市場との対話」を重要な要素としてあげている。子供の教育においても、親子の対話は重要だ。

小学校高学年にもなると、そろそろ親の介入を嫌う子が出てくる。中途半端に叱ったり、勉強を促したりすると、「うるさい」「やろうと思っていたのに」とへそを曲げてしまう。だからこそ、関わるときにはしっかりと子供に向き合う場を設けて、誠心誠意、次のことを説明したい。

・具体的な目標、期限を定めること。
・目標を達成することが子供の人生にとって大事であること
・親が積極的に関わるが、目標を達成したら介入は止めること

これらを事前に説明して、子供が納得できる方向にもっていきたい。こうあるべきだという「規範」や「定形」だけでは子供は動かない。心に訴えかけ、納得感を持たせることが大切なのだ。

子供の自主性を尊重することは重要だ。ただ、私個人としては、現実の成績といったファクトやその子の精神状況を考えて、介入が必要であればそうすべきだと思う。経済政策であれ、子供の勉強であれ、状況を好転させるには機動的な判断が求められるはずだ。

(中学受験専門塾ジーニアス代表 松本 亘正 写真=iStock.com)