"なんだか変な文章"を数学視点で改善する

写真拡大

■「近いものから遠いもの」という順序が大事

作家をはじめ文章のプロが著した文章術の本は数多くあるが、今回は数学の視点から「読みやすい文章」の技術をご紹介したい。

ポイントは、数学の基本概念のひとつである「距離」を用いることで、注意するのは次の2点だけである。

技術(1)「いままでに書いた話題に近いものから遠いものへという順序で言葉を並べる
技術(2)「書き手に近いものから遠いものへという順序で言葉を並べる」

2つのうち、(1)が(2)に優先し、(1)の「いままでに書いた話題に近い」言葉が複数あった場合に、(2)を適用する。どういうことか、具体的に見てみよう。

例文:「いま、私は、A社の資料を読んでいます。A社のB課長から、部下のCが、昨日、その資料を送ってもらいました」

この第1文の「いま」「私は」「A社の資料を」は、すべて「読んでいます」にかかる言葉だが、3つの順序を入れ替えても日本語の文法には反しない。第2文も同じく、「A社のB課長から」「部下のCが」「昨日」「その資料を」は、「送ってもらいました」にかかる言葉だが、4つをどの順序に並べても文法には反しない。

したがって、この例文は文法的に間違いではない。しかし、なんとなくわかりにくくはないか。この違和感を、先述した2つの技術で解消していこう。

まず技術(1)の適用から。第1文は最初の文だから、すべてが新しい内容であり、「いままでに書いた話題」が存在しない。つまり、技術(1)を適用できず、文法的に合っていれば、とりあえずどの順序に言葉を並べ替えてもよい。

■距離の遠近で大小(順序)関係が決まる

次に第2文だが、「A社のB課長」「部下のC」「昨日」の3つは新しい情報であり、第1文の話題との間で距離が生まれる。そこで技術(1)を適用し、4つの言葉のなかで、第1文の話題に最も近い情報を探す。すると「その資料」は、第1文に既出している同じもので、最も近い。従って、第2文の最初には「その資料」を持ってくる。

この段階で、「いま、私は、A社の資料を読んでいます。その資料は、A社のB課長から、部下のCが、昨日、送ってもらったものです」となる(日本語として自然になるように、少し直している)。

そして、技術(2)を適用する。第1文の「私」はこの文章の書き手自身であり、「いま、私は」ではなく、「私は、いま」の順序にする。第2文の「A社のB課長」と「部下のC」は、書き手の私から見て、「部下のC」のほうが「B課長」より近い距離におり、「部下のCが、A社のB課長から」とする。

以上をすべて適用すると、「私は、いま、A社の資料を読んでいます。その資料は、部下のCが、A社のB課長から、昨日、送ってもらったものです」となる。第1文と第2文が滑らかにつながり、さらに各文のなかも読みやすくなったのではないだろうか。

今回のように数学的なものの考え方は、具体的な数値がなくても、2つの距離の遠近という大小(順序)関係が決まるだけで、いろいろと役立てられるのだ。

(明治大学特任教授 杉原 厚吉 構成=田之上 信)