特定の顧客だけに値上がり予想銘柄のレポートを先に公表していた岩井コスモ証券。証券取引等監視委員会は「指摘されて初めて不適切だと認識したというお粗末さ」と断罪した(撮影:編集部)

12月12日、証券取引等監視委員会は証券会社への定期的な検査の結果を受け、岩井コスモ証券への行政処分を行うように金融庁に勧告した。

岩井コスモは、自社のアナリストによる個別銘柄のレポート内容を、公表前に特定の顧客に知らせ、株の買い付けを勧誘していた。他社のアナリストの調査範囲外、つまりレポートを発行していない銘柄ばかりだった。

これが金融商品取引法第51条に規定する「業務の運営に関し、公益又は投資者保護のため必要かつ適当であるとき」に当たり、監視委は行政処分が適当と判断した。

アナリストレポートを特定顧客に事前周知

今回の処分勧告の対象になったのは、2017年2月〜3月の間に、延べ26人の顧客に対する6銘柄の勧誘行為だ。岩井コスモでは午前7時45分頃に社内放送で、「投資判断A(今後半年以内に株価の上昇幅がTOPIXを15%程度以上上回ると予想)」のアナリストレポートが発表されることを周知。それを聞いた営業マンが顧客に電話をかけるなどして、株式購入を勧めていた。

レポートは通常、株式市場が取引を終えた1時間後の午後4時に全顧客向けに公表されていた。岩井コスモの顧客にしてみれば、レポートを事前に教えてもらえる一部の者とそうでない者に選別されていたわけだ。監視委によれば、処分勧告の対象となった「投資判断A」の6銘柄は、翌日には平均10%弱値上がりしていたという。

岩井コスモは勧告と同じ日、「今般の勧告を厳粛かつ真摯に受け止め、内部管理態勢のより一層の強化に取り組み、役職員一同全力で再発防止に努めて参る所存です」との声明を発表。同社に今回の処分勧告の背景を問い合わせたところ、担当者はこの文面を繰り返すばかりだった。役職員の処分や具体的な改善策はまだ発表されていない。

監視委によれば、勧誘を受けた顧客は今回”お咎めなし”だという。短期で売り抜けた形跡がないばかりか、売ることなくいまだに持ち続けている顧客もいるからだ。アナリストレポートにインサイダー情報が含まれていなかったことも確認。インサイダー取引で処分勧告する可能性もない。

岩井コスモは2006年10月から、「A銘柄」をレポート公表前に一部顧客にのみ推奨する不適切な株式営業を続けていた。しかし同社は「不適切な営業をしている」という認識はこれまでなく、「今回指摘されて初めて不適切だと認識したというお粗末さ」(監視委)なのだという。

加えて監視委は「不適切な勧誘が容易に行われる状態だったのに、そのことに問題意識を有することなく長期間にわたって容認しており、内部管理態勢は著しくずさん。経営者は営業態勢を積極的に整備する一方、実効性のある法令遵守や内部管理の態勢は整備してこなかった」と岩井コスモを断罪した。

監視委が野放しにした責任はないのか

一方で、今回の通常検査まで11年強にわたって不適切営業を野放しにしてきたことについて、監視委側は「これまで重点的にチェックしていなかったから」と述べるにとどまっている。

旧コスモ証券を旧岩井証券が吸収合併したのは2012年。今回のような不適切な営業は、合併の6年前にコスモ証券が始めたものだった。合併後に旧岩井証券の出身者が違和感を覚えなかったのだろうか。監視委は「岩井はアナリストを抱えておらず、そういうものなのかと錯覚していたようだ」と説明する。

規模は比べるべくもないが、今回の処分勧告は、資産バブル時代の「シナリオ営業」や「VIP口座」を彷彿とさせる。シナリオ営業は、たとえば大手証券の株式部長が「鉄鋼相場が始まる」というシナリオを作り、数十の系列証券に伝達する。すると、多くの顧客が鉄鋼株を買い、結果的に鉄鋼相場になるという予定調和的な営業スタイルだ。相場が終わる間際に買った者が大きく損をすることが多く、現在は行われていない。

VIP口座は、富裕層の個人顧客を必ず儲けさせる仕組み。事実上証券会社が運用し、損が出ると損失補てんまで行い、社会問題になった。今回の監視委の勧告により、そのような一部の顧客を優遇する発想が岩井コスモには今もなお息づいていることを露呈した。

他の証券会社でも同様のことが行われていないか。監視委や金融庁の証券会社検査が、よりシビアになる可能性も考えられる。