引っ越すと墓地の永代使用料はムダになる

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■すでに墓地経営は儲からない商売に

お墓参りにいったときを思い出してほしい。もし民営霊園で、園内の荒れが目立っていたら要注意だ。

墓地は自治体が管理するもの以外に、宗教法人などの公益法人が経営するものがある。公益法人は財政基盤や実績等を審査されるため、従来は倒産のリスクは低いと考えられてきた。しかし、それは本当なのか。小松初男弁護士は次のように解説してくれた。

「公益法人は、新しい墓地を造成すると、各区画の永代使用権を販売する権利を石材店に売ります。石材店は消費者に永代使用権と自社の墓石をセットで販売して利益を得ます。ただ、区画を売り切った後、墓地は管理料しか収入がなくなる。うまみがあるのは最初だけです」

少子化の影響も無視できない。一人っ子同士が結婚すると一家族なのに先祖代々のお墓が2つあることになり、1つは墓じまいする人も多い。空いた区画の墓地使用権は再販売できるが、最近は無縁化することを恐れ、自分専用のお墓ではなく共同の永代供養墓を選ぶ人も増えている。墓地経営がおいしいと言われていたのは、いまや昔の話だ。

■「引っ越し」をすると使用料は戻らない

もし、民営墓地の経営母体が倒産したら、高い永代使用料を払って手に入れたお墓はどうなるのか。

「墓地使用権は物権的性格を持つとされています。ですから、墓地の倒産後、土地を競売で手に入れた人がいて、更地にしたいから出ていけと言ってきても、拒否してお墓を使い続けることは可能です」

他の用途に使えないなら、異業種の事業者は入ってこない。現実的には、他の宗教法人や公益法人が経営を引き継ぐことになるだろう。その意味では安心だが、新事業者が引き継いだ場合、経営の安定化のため、管理料が値上げされるおそれもある。

こうしたリスクを避けるため、倒産前に安全な墓地に引っ越す選択肢もある。ただ、問題は墓地購入時に支払った永代使用料だ。これは、永代にわたってお墓を使う権利の対価。途中で使用をやめるのだから、代金の一部は返還してくれてもよさそうなものだ。

しかし、現実は甘くない。墓地購入後、未使用のまま14年後にお寺に契約解除と永代使用料の返還を求めた訴訟で、「返還の必要なし」という判決が出た(京都地裁、平成19年6月29日)。永代使用権を認め区画を引き渡した時点で、お寺は義務を果たしたという判断だ。未使用でも返還義務なしとなると、いったん使用しているお墓はなお厳しい。

「逆にお寺から抜魂式の費用や離檀料を要求されることもあります。遺骨や墓石を自分で収去するならともかく、お墓の撤去のために業者を入れるなら、やはりお寺の許可がいる。いくらかは包まざるをえないのが実情です」

あとから引っ越すのは何かとハードルが高い。あらかじめ経営に不安のない墓地を選ぶべきだろう。

(ジャーナリスト 村上 敬 答えていただいた人=弁護士 小松初男 図版作成=大橋昭一)