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●8Kシステム、業務用の総額は1500万円

シャープは7月13日、大阪府堺市のシャープ本社で報道関係者を対象に8Kセミナーを開催した。ここで同社が強調したのは「シャープの液晶ディスプレイ事業は、8Kを中心に成長戦略を描く」という点だった。

シャープ 取締役兼執行役員 8Kエコシステム戦略推進室長の西山 博一氏は「シャープは、業界に先駆けて、8Kのディスプレイと受信機を開発してきた。これからも8K分野でのリーディングカンパニーであることは変わらない」と語る。

○時代を切り開いてきたシャープ

シャープが5月に発表した「2017〜2019年度 中期経営計画」では、成長戦略の中軸に「人に寄り添うIoT」と「8Kエコシステム」を掲げている。これにあわせ、AIやIoT分野における横断的組織となる「AIoT戦略推進室」と、8K事業の拡大を牽引する「8Kエコシステム戦略推進室」を6月1日付けで新設している。

前述の西山氏はNHK出身であり、放送技術の専門家。これまでNHKの立場で8Kを推進してきた人物を、シャープの8K戦略に中心人物に据えたというわけだ。7月7日には「8K戦略ステアリング委員会」を発足し、「8Kエコシステム戦略推進室とシャープの各部署を横串でつなげる組織であり、8Kに関する知恵とアイデアを出してもらい、新たな価値を生み出し続けたい」(西山氏)とする。

西山氏は、放送メディアの変遷を振り返りながら次のように切り出した。

「最初の放送は、1925年のラジオ放送。その時に使われた最初の鉱石ラジオがシャープ製だった。また、1953年にモノクロ放送が開始されたときにも、使われたテレビはシャープ製だった」(西山氏)

カラーテレビは各社が林立しておりシャープ製が第1号機とはいえないようだが、液晶テレビの第1号機はやはりシャープだった。続けて、「日本では、1995年にスーパーハイビジョン(8K)の研究が開始された。そして、2016年8月から、8Kの試験放送が開始され、2018年12月1日から、実用放送が開始される。私の資料には、すでに、2018年12月に、シャープは世界初となる8K実用放送に対応した受信機を発売すると書いてある」とジョークを交えながら、今後の製品展開を示す。

シャープは2011年5月に、世界初となる8Kディスプレイを開発。2014年にはCEATEC JAPANで、フルスペック準拠の8Kモニターを出展。そして2015年10月には、世界初となる85型業務用8Kモニター「LV-85001」を発売した経緯がある。

さらに、2016年5月には、世界初となる高度広帯域衛星デジタル放送受信機を開発。同年8月にはNHKが全国の放送局でパブリックビューイングを開始した。現在NHKは全国の放送局など、55カ所で8K試験放送のパブリックビューイングを実施しているが、ここで使用している機器はすべてシャープ製だ。

またシャープは、2017年6月には70型業務用8Kモニター「LV-70002」を発売し、従来製品の約半額とした。ただ、半額と言っても価格は約800万円であり、高度広帯域衛星デジタル放送受信機「TU-SH1050」の価格が約700万円、あわせて1500万円の価格になる。

●「One SHARP」で実現する8K、テレビだけでなく8K対応STBなども

まだまだ民生用にするには価格の乖離があるが、今回の説明会では、2018年12月1日から8K実用放送が開始されることにあわせて、2018年度から家庭用途へと展開することを強調。2019年度以降は、8K/4Kチューナー内蔵商品のラインアップをさらに拡充する考えを改めて示した。

シャープ デジタル情報家電事業本部 副本部長の喜多村 和洋氏は、「実用放送の開始にあわせて製品を投入するのはメーカーとしての責務。2018年末に発売する製品は、民生用テレビとして耐えうる価格で発売したい。また中国をはじめ、8K放送が行われていない海外市場にも、積極的に展開していきたい」とした。

さらにチューナーを内蔵した8Kテレビや4Kテレビのほか、8Kチューナーや4Kチューナーを搭載したセットトップボックス、4Kチューナー内蔵レコーダーの発売を見込んでいる。「8K液晶テレビでは、60型、70型、80型とサイズ別にラインアップを揃える」と意気込む。

また、8Kカメラについては具体的な言及こそ避けたものの、エコシステムを含めて製品化への取り組みを進めることになりそうだ。そして、ここでは「One SHARP」のビジネスとして、事業を展開する姿勢も示した。

「シャープの8Kは、液晶パネルの開発だけでなく、高画質LSIの開発、製品設計、テレビの製造、サービスまで、すべて自社で対応する。これによって、高性能と高品質を実現することになる」(喜多村氏)

●8Kの強みはリアリティ、B2Bでも多方面に展開へ

続けて、喜多村氏は、「シャープの映像商品は、顧客への感動を与えられる映像は何かを追求するものであり、感動は真のリアリティ、本物感によって実現される。これを実現できるのが8Kの高精細技術であり、8Kは本物感を目指す究極のディスプレイになる」としたほか、「現時点では、8Kによる高精細テレビを、いち早く実現できる唯一の技術が液晶であり、液晶パネルを採用した8K高精細テレビを製品化する。そして、いち早く8Kおよび4K放送の受信機関連機器をラインアップしていく」と語る。

4Kテレビでは完全に出遅れたシャープだが、8Kテレビではその反省を生かして、スタートダッシュをかけることになる。

シャープが、8Kに力を注ぐもうひとつの理由が、8Kエコシステムを活用した新たな提案が可能になるという点だ。ここでは、コンシューマ領域のビジネスチャンスだけでなく、ビジネス領域での広がりも期待している。

シャープ 研究開発事業本部 本部長の種谷 元隆氏は、高臨場映像配信システムとしての活用などによる映像配信や、8Kビッグデータを活用した解析サービス、高速検査システムや高精度3D計測機器などによる業務革新、多人数同時認識監視カメラなどを活用したセキュリティソリューション、8K映像を応用した手術装置などによる医療分野での活用などを例にあげながら、「臨場感、実物感、見えなかったものが見えるのが8Kの特徴」だと位置づける。

「8Kになって、初めて、人間の視覚能力の限界を超えた解像度を実現できる。4Kまでの時代は、人間が教師となり、視覚というものを機械に教え込んで、性能を高めてきた時代であった。だが、8K時代の到来は、人間の目では見えないものを捕らえ、記録し、分析し、見える化する時代に入ってくる。ディープラーニングやAI技術を採用した映像の認識、解析、生成がおこなれ、人が気がつかない変化や特徴を抽出し、現実の感覚を超越した体感が可能になる」(種谷氏)

例えばスポーツスタジアムや運動会の会場では、8Kカメラで全体を撮影しておき、あとからAIを活用して、好きな選手やボールの行方などを自動追尾して、4K画質で切り出して編集することも可能だ。

また、セキュリティカメラの映像を8K化することで鮮明さが増して顔認識の精度が一気に高まるほか、医療分野では手術において、肉眼では見えないような映像を映し出すことが可能になるという。「2Kではカメラと患部の距離が5cmまで近づかなくてはならなかったが、8Kであれば15cm程度まで引くことができる。手術が楽になるといった効果もある」(種谷氏)。

後編は20日に掲載します