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●ファン以外に知ってもらいたい気持ちで作る

注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて"テレビ屋"と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。

今回の"テレビ屋"は、日本テレビで『AKBINGO!』『NOGIBINGO!』『KEYABINGO!』シリーズ(きょう17日深夜に『KEYABINGO!3』スタート)といったアイドル番組をプロデュースする毛利忍氏。アイドルたちに慣れないバラエティ番組を挑戦させるにあたって取り入れたのは、自身がかつて携わっていた伝説の番組『電波少年』の手法だという。

――当連載に前回登場したテレビ朝日の保坂広司さんが、アイドル番組が好きだということなのですが、アイドルには絶対的な顧客であるファンがいる中で、テレビ番組として大衆にも届けなければいけない使命を両立することの葛藤や、企画の上で気をつけていることなどを知りたいとおっしゃっていました。

もちろん、アイドル番組はファンの方に楽しんで見てほしいというのは絶対あるんですけど、僕がやってるAKBや坂道グループの地上波番組は、ファン以外の人が見ても楽しめる番組じゃないといけないと思ってます。でも、ファンとそれ以外の人が楽しめる内容が異なるというのをあまり感じたことはなくて、僕はAKBの子や坂道の子たちの良いところを、ファンじゃない人に知ってもらいたいという気持ちで作ってるんです。

グループとしてはみんな認識されているかもしれないけど、1人1人のパーソナルなキャラクターってご存じないじゃないですか。だからなるべく番組を通して、この子にはこういう魅力的なところがあるんですっていうのを、テレビを通してお伝えしているつもりなんで、ターゲットが乖離してるというストレスを感じたことはないですね。

――ファンを広げてもっと魅力を引き出すことで、それがファンへのサービスになるということですね。

もちろんファンの方に嫌われちゃう番組になってはいけないと思うんですけど、まあでもよくお叱りは受けますよ(笑)。番組内でメンバーを泣かしてしまうことも多々あるんですけど、それは決してそのメンバーが憎くいんじゃなくて、その子の良いところを出すためにやって、プラスになるんだよっていうことを主張したいです(笑)

――本番では厳しく当たっているウーマンラッシュアワーの村本大輔さんは、『AKBINGO!』のMCになった時の会見で、メンバーから「裏ではめちゃくちゃ優しい」と慕われてましたね。

あれは営業妨害です(笑)。嫌われてた方が良いんですよ。僕がアイドル番組のMCを決めるときは、なるべく視聴者の目線に近い人にしたいと考えていて、そのためには、あんまりアイドルを好きすぎない人がいいなって思ってるんです。彼らもメンバー1人1人のキャラクターは知らないから、知識ゼロから知っていく過程が、ファンではない視聴者が知っていく過程とマッチしていくんですね。また、『AKBINGO!』もウーマンの前はヤンキーのバッドボーイズにやってもらっていて、"アイドルと暴走族"っていう真逆の組み合わせでしたが、ウーマンもすごいゲスい部分を出していて、うまく化学反応が出てきてます。

――『NOGIBINGO!』のMCをされているイジリー岡田さんなんて、清純派アイドルと真反対ですよね(笑)。テレ朝の保坂さんは、芸人さんはみんな「俺が俺が」というのが基本ベースにあるのに、アイドル番組のMCをやってる人みんなから「あの子たちのためにやってるんです」と聞いて驚かれたとも言っていました。なぜそうした心境になるのでしょうか?

もちろん芸人さんですから、自分たちがオイシイようになりたい気持ちはあるんでしょうけど、一緒に仕事をしていると、彼女たちのことがどんどん好きになって、「僕たちが知っているこの子たちの魅力を伝えたい」という心理になっていくと思うんです。それはテレビの基本でもあって、アイドルじゃなくても、最近聞いた面白い話や、おいしいラーメンを誰かに伝えたいという気持ちに似てると思うんですよね。自分が知ってて、面白かったり感動したり怒ったりすることを誰かに伝えたいっていうことなんだと思います。

――キャラを見出すと愛着がわいてくるんですね。

最初は嫌われていたイジリーさんもどんどん好きになっていって、一緒に乃木坂46のコンサートに行ったら、ライブ中に『NOGIBINGO!』でやったネタが、MCパートで出たりするんです。そうすると、「毛利さん、『NOGIBINGO!』のあれ、使ってましたね!」って喜んで(笑)。それは、僕ら制作者としてもうれしいですね。

●バラエティタレントとして一番"化けた"のは…

――アイドルの子たちは、もちろん最初はバラエティの素人ですよね。そんな彼女たちに、いつもアドバイスしていることはありますか?

よく言うのは、とにかくバッターボックスに立つ回数が大事だということですね。レギュラー番組だと、何回かバッターボックスに立てるわけです。他のバラエティにゲストで呼ばれるのは「代打」で出るようなものですから、一振りに賭けなければならず、そこでヒットを打つのはなかなか大変なんですよ。でも、レギュラー番組だと何回も打席が回ってくるので、思い切りバットを振ることもできるんです。

そこでもう1つ言っているのは「トークで振られたときに、普通のことを言うな」ということ。例えば、何かを食べてMCに「どう?」って聞かれても「おいしいです」ではダメ。「おいしいです」の先に何を言うかを常々考えなさいと。それは、別に面白くなくてもよくて、人と違う自分なりの答え、例えば「おいしいです。ママのオムライスみたい」でもいいんです。それによって、お母さんに大事に育てられている子なんだなって、個人のストーリーを感じることができるんですよね。

――そうすると、MCの芸人さんも拾って広げてくれますよね。

そうです。「おいしいです。このご飯に包まれて眠りたい」とか言うと、キャラが出てくるじゃないですか。一振りに一振りに、自分なりの答えを考えながらやっている子と、惰性でバットを振ってる子だと、成長の仕方が全然違ってきます。

――長い間アイドル番組に携わってきて、バラエティタレントとして一番化けたなと思うのは誰ですか?

峯岸みなみ(AKB48)ですね。みーちゃんも最初は普通の中学生だったんですけど、その一振りの研究が一番すごかったです。彼女は「私、OAを見て『あ、こういうコメントがしゃべりテロップに出るんだ』って思ったんです。印象的で短いコメントがオンエアで使われやすいんですね」と言ってたんですよ。そういう子は、やっぱり伸びますよね。

――いまやバラエティで独り立ちされていますもんね。

バットを振るだけじゃなくて、「なぜあれがヒットになったんだろう?」って研究できる子なんです。

――『AKBINGO!』の後に『NOGINIBGO!』を立ち上げられましたが、AKB48と乃木坂46で、それぞれの特性を生かしたすみ分けはあるんですか?

『AKBINGO!』が始まる前、秋元(康)先生に「1つだけ約束してほしい。予定調和な台本じゃなくて、とにかくガチでやってほしい。それがAKBだから」と言われたんです。それを守ってずっとやってきたので、言って見れば、僕がディレクター時代にやっていた『電波少年』の作り方をアイドルに持ち込んだんですよね。タレントさんをある一定の状況に追い込んで、どうなるのかっていうあのスキームと、全部一緒なんです。

その後『NOGIBINGO!』を作ったとき、乃木坂46はまだブレイク前だったんですが、AKB48の公式ライバルということで、「国民的アイドルのAKB48と同じことをすれば、乃木坂46は国民的アイドルになれるのか」というのがテーマだったんです。だから、『NOGIBINGO!』のシーズン1は、「ムチャぶりドッジボール」や「ショージキ将棋」など、『AKBINGO!』と同じ企画をやりました。ただ、乃木坂46は清楚なイメージで、粉とかクリーム砲を浴びたら、ファンの方からものすごくお叱りを受けて(笑)。でも、クリーム砲を浴びた白石麻衣が「ありがとうございます!」って神リアクションしたんですよ(笑)。

そうやって"荒療治"でやっていったんですが、シーズン2からはやっぱり乃木坂のいいところを伸ばしていく企画をやろうと考えて、そこで生まれたのが、「妄想リクエスト」なんです。乃木坂の子たちが、視聴者のリクエストを受けて演じるんですが、これが彼女たちのルックスと演技力の高さで見事にハマって人気が出て、シーズン8でも続く人気コーナーに成長しました。

そうやっていくうちに、『NOGIBINGO!』はビジュアルと演技力に力点を置いた企画が多くなって、逆に体を張った企画が減っていき、『AKBINGO!』とそれぞれ違う番組として育っていくんです。両方のグループのカルチャーの違いが出てくるので、まるで生き物を育てているようで面白いですね。

――メンバーが成長していくのを、まさに実感しているわけですね。

そうなんです。だから『電波少年』と似てるんですよね。

――確かに、『電波少年』は駆け出しの芸人さんがどんどん育っていくのを目撃しました。

たまに総集編をやって過去のVTRを見ると、「成長したなぁ」って思いますよ。

●ネット配信でアイドル番組は加速する

――毛利さんは2年前から、Huluに出向されていますが、その狙いはどういったところにあるのでしょうか?

やはり、AKB48グループっていうのはファンの母数が大きくて、配信サービスとしては重要な顧客になってくるんですよ。

――コンテンツにお金を払ってくれるファンですもんね。

そんな中で、基本的には日テレの地上波と連動しながら、Huluのコンテンツを作るというのが、僕の今の仕事です。

――こうして新たなプラットフォームが出てくると、アイドル番組は今後加速していくのでしょうか? 最初の話に戻ると、地上波だと大衆向けの番組づくりを意識しますが、Huluのような配信だとコアなファンに向けての番組がつくれるわけですし。

そうなると思います。Huluだとファンの方に深い満足で、お金を払っても見たくなるコンテンツを作っていかなければいけません。『NOGIBINGO!』では、「NOGI ROOM」という、メンバーがパジャマでしゃべるだけのコーナーがあるんですが、まさに配信向けのコンテンツなんです。あれは全く演出をしないという演出でやっていて、彼女たちが夜に誰かの家に集まって、『NOGIBINGO!』の放送を見てしゃべってるという感じで作ってるので、基本何も起こらないんです(笑)。司会の仕切りもなく、とにかくダラダラ話してるだけなので、地上波ではエンディングで少し流すだけで、全然持たないんですが、配信だとそれを面白がれるんです。最初の「NOGI ROOM」の収録は、乃木坂46の運営の今野(義雄)さんと一緒に見てたんですけど、今野さんに「毛利さん、これ新鮮ですね。僕もこういうメンバーの姿は見たことないです。これはいいかもしれない」と言ってくれたのを覚えてます。

――これまでに毛利さんが影響を受けたテレビ番組を1本挙げるとすると、何ですか?

僕はやっぱり『夕やけニャンニャン』(フジテレビ系、1985〜87年)ですね。当時高校生だったんですが、衝撃を受けました。テレビに出てくるそれまでのアイドルって、当時は天上人だったんですよ。でも、そこで革命を起こしていて、"隣のクラスの女の子"みたいな子が、テレビに出てるんですよね。確か秋元さんが「おニャン子クラブはカワイイ子も、お調子者の子も、元気な子も、ちょっとブスな子もいる。それが、高校のクラスのシミュレーションなんだ」と言っていて、「すげぇな! こんなのあるんだ!」ってどっぷりハマっていたのを覚えてます。とんねるずさんが、お客さんを生放送でバンバン殴るとか(笑)、ものすごいエネルギーがありましたよね。

――そこが、毛利さんのアイドル番組の原点なんですね。

そうですね。だから僕は、高校生の時にテレビ業界に入ってアイドル番組を作ろうと思ってたんですよ。

――ところが、『電波少年』や『笑ってコラえて!』など、ロケバラエティを長く担当されてたんですよね。そこからどういうきっかけで、アイドル番組を立ち上げることになったんですか?

入社17年目くらいになってキャリアも積んできて、ちょうどタイミングがハマったんですね。AKB48というグループが秋葉原の劇場にいるらしいと聞いて、行ってみたら、「これは新しいな」と思ったんです。完璧なパフォーマンスで魅せるスーパーアイドル・モーニング娘。がいる一方で、AKB48は小さな劇場でお客さんと近い距離で、その新しさは『夕ニャン』のときの感覚と似てましたね。で、これはあるなと思って、秋元さんに企画書を持っていったら「やるからにはガチで」という約束で、『AKB1じ59ふん!』(2008年)という番組を始めました。今から10年前くらいですね。

――いろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、毛利さんの気になっている"テレビ屋"をお伺いしたいのですが…。

TBSの合田隆信さん。合田さんもTOKIOで『ガチンコ!』とか、V6で『学校へ行こう!』といった、あちらは男性ですが、こちらと同じようにアイドルを起用して『電波少年』や『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』のようなドキュメントバラエティのフォーマットをはめて作られていたと思うんです。どんな思いを持ってつくっていたのか、興味がありますね。