浦和でチーム史上最長6年目の指揮を執るペトロヴィッチ監督。長期政権にはメリットとデメリットがあるが、今は悪循環に陥っている。写真:徳原隆元

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 浦和レッズのペトロヴィッチ監督が1-2で敗れた6月25日の鳥栖戦後の記者会見の終わり、次のように切り出した。

「ヨーロッパで浦和のような大きなクラブが3連敗を喫すれば、監督の進退を問う質問が出ても不思議ではありませんが、皆さん遠慮されているのでしょうね。分かっています、すべての責任は私にあります」

 そのように自ら進退問題について触れるコメントを残したのだ。
 
 鳥栖に敗れてリーグ3連敗。4月30日の大宮戦(●0-1)からは1勝1分5敗と、2節から7試合負けなしだった頃の勢いは止まった。一時は首位に立っていたものの、1試合消化試合が少ない暫定ながら、順位を9位まで落としている。
 
 一方で、ちょうど今から1か月前、アジア・チャンピオンズリーグ(ACL)では韓国の済州からホームで3ゴールを奪って2戦合計スコア(3-2)で逆転に成功。9年ぶりのベスト8進出を決めた。
 
 指揮官は「ホームでの済州戦をピークに、チームのパフォーマンスが徐々に落ちている」とチーム状況を受け止める。確かに主力のラファエル・シルバ、宇賀神友弥らを欠く間に、リーグ戦で星を落としてしまった。ただし、ACLでの成功が、逆にJリーグの悪い流れの遠因になっているように感じる。
 
「ACLでは相手選手がボールに食らい付いてくれるので、僕らの狙っているサッカーを展開しやすい」とFW興梠慎三は語っていた。それぞれのチームが最大限のパフォーマンスを発揮することに重きを置くACLでは、ミシャ(ペトロヴィッチ監督の愛称)スタイルのメリットを生かして相手のギャップを突き(4バックに対し数的優位を作れるなど)、加えてここ数年のACLでの経験も生かして、勝ち進んできた。
 
 実際、撃ち合いになるACLは、観ていても面白い。そのなかで特殊なミシャスタイルを貫けば、浦和はアジアの頂点を狙えるはず。さらにその先の「世界」まで視野を広げられる。

 一方、Jリーグでは、6年目に突入しながらも基本布陣3-4-2-1と中心選手が固定化された浦和のサッカーは、対戦相手に綿密に対策を練られている。浦和の特長を消され、守備の弱点を徹底的に狙われている。
  
 攻撃のメカニズムが、他チームの監督や選手に熟知されていることを物語るような、最近の2連敗でもあった。名波浩監督が率いる磐田、マッシモ・フィッカデンティ監督の鳥栖、いずれも時間帯や状況に応じて戦い方を細かく変える「浦和対策」を施され、見事にハマってしまった。
 
 JとACLは別もの。しかし、済州戦と同じようにやれば勝てるはず、というスタンスでJの試合に臨み、返り討ちにあい続けている。そのため、全員でビジョンを共有できず、それぞれが頑張っているものの、意思統一されずバラバラになっている感じだ。
 ペトロヴィッチ監督は好戦的だ。今季はより攻撃的に、「できるだけ敵陣で試合を進める時間を増やしたい」と、ハーフコートゲームに持ち込む展開を理想に掲げて取り組んできた。実際、4-1の甲府戦、7-0の仙台戦など、ハマった時の爆発力はすさまじかった。
 
 近年、浦和相手にとにかく守備を固めてくるチームが相次いだ(浦和のホームゲームが『つまならい』と言われてきた理由のひとつでもある)。そういったチームを攻略するために、今季、指揮官は力で攻め倒す――という戦い方を選択した。
 
 しかし、4月22日の札幌戦(〇3-2)以降、雲行きが怪しくなった。延長を含め40分間を数的優位で戦ったホームの済州戦以外、全12試合で失点している。

 高いライン設定は、リスクを伴う。森脇良太の背後にロングボールを放ち、スピードのあるアタッカーを走らせる。また、槙野智章はゴール前でディレイの守備をする癖を見抜かれ、ドリブラーをあてがって打破してくる。その攻略パターンに屈し、失点が止まらずにいる。 西川周作や遠藤航のミスからの失点も、そういったハイラインを保とうとする守備が背景にある。