先月、ディーン・フジオカさんが新番組「サタデーステーション」(テレビ朝日系)に出演したことが話題を集めました。さらに、船越英一郎さんが新番組「ごごナマ」(NHK)、ホラン千秋さんが「Nスタ」(TBS系)、原田龍二さんが「5時に夢中!」(東京MX)の新メンバーとしてラインナップされています。

 これまで、報道・情報番組への出演は芸人とジャニーズ事務所のアイドルが大半でしたが、今回起用されたのは俳優と女性タレントの計4人。つまり、出演者のジャンルが広がっていることになります。番組側と芸能人のそれぞれには、どのような狙いや勝算があるのでしょうか。

日テレの成功パターンに他局が追随

 まず起用する番組サイドの狙いから。最大の起用理由は、お堅いイメージのある報道・情報番組に「ルックスのさわやかさや、親しみをもたらす」ため。多くの人々がその顔を知っているという知名度と、穏やかな笑顔を想像できる安心感があり、新番組のスタートや番組のリニューアルに最適なのです。

 また、視聴者層の拡大も狙いの一つ。彼らのファンを中心に、「普段、報道・情報番組を見ない視聴者を連れてきてほしい」という思惑があります。

 これらはいずれも、局アナには出せない存在感とメリット。思えば、「NEWS ZERO」(日本テレビ系)が、曜日キャスターに櫻井翔さんや桐谷美玲さんを起用して成功したのも同じ理由でした。

 さらに日本テレビは、「ZIP!」の総合司会に関根麻里さん、北乃きいさん、川島海荷さん、メインパーソナリティーにMAKIDAIさん、鈴木杏樹さん、「スッキリ!!」のコメンテーターにウエンツ瑛士さん、大沢あかねさん、本上まなみさんなど、幅広いジャンルの芸能人を報道・情報番組に出演させてきました。今春は、そのような日本テレビの戦略に他局も続いた、とも言えるでしょう。

 もちろん制作サイドは、資質のない芸能人を起用するわけにはいきません。「端的でタイミングのいいコメントができる」、または「幅広い知識か得意分野を持っている」など、生放送に対応できるスキルの持ち主を選んでいます。

厳しい現場で培った経験値と表現力

 ディーンさんは、アジアや米国に精通するなどグローバルな視点を持ち、語学や音楽、スポーツにも詳しく、父親としての顔も持つハイブリッドな存在。エンディングテーマも任せられるなど、新番組の目玉にふさわしいキャスティングでした。

 ホランさんは自分の言葉で話す度胸がある上に、バラエティー番組で鍛えた反応の早さが持ち味。現在も生放送の「バイキング」に出演するなど、メインキャスターを支える女子アナのような立ち位置ではなく、時には討論もいとわない、前のめりのスタンスが期待されています。

 船越さんは、「2時間ドラマの帝王」としての実績に加え、「ぐるぐるナインティナイン」(日本テレビ系)で見せた気さくな一面も魅力。番組プロデューサーが「紳士で大人の対応ができる感覚の持ち主」と語るように、豊富な人生経験と博識が決め手となったようです。

 原田さんは、俳優としてのクールな演技と、バラエティー番組での脱力キャラが受けていましたが、起用を後押ししたのは、大みそかに放送された「絶対に笑ってはいけない科学博士24時」(日本テレビ系)。アキラ100%さんの全裸お盆芸に挑戦したことで、下ネタも辞さない過激さが売りの「5時に夢中!」のMCにピッタリの存在となりました。

 各番組のスタッフは、ドラマ・映画やバラエティー番組などの、「競争の激しい現場を生き抜いてきた経験値と表現力があれば、生放送のキャスターとして即戦力になれる」と見ているのです。

芸能界で加速する“ボーダーレス化”

 一方、出演する芸能人の狙いは、芸能界で加速する“ボーダーレス化”への対応。近年、芸人やアイドルが報道・情報番組に出演するだけでなく、ドラマや映画に芸人の出演が増えるなど、活動フィールドのボーダーレス化が進んでいます。

 とりわけ影響を受けているのが俳優です。たとえば、現在放送中の「小さな巨人」(TBS系)には、春風亭昇太さん、児島一哉さん、桂文枝さん、好井まさおさんら芸人に加え、堀尾正明キャスターがレギュラー出演しています。キャスターがドラマ出演するほど芸能界全体がボーダーレス化しており、“働き場”を奪われている俳優が報道・情報番組に出ない理由はありません。

 もう一つの狙いとしては、表現者として“伝える”ことへの欲求。ドラマ・映画にしろ、バラエティー番組にしろ、報道・情報番組にしろ、“伝える”という役割に関しては同じであり、「一つの形にこだわる必要はない」と柔軟に考える芸能人が増えているのです。かつての「俳優の本分は演じることのみ」「芸人がまじめにコメントしちゃいけない」という考え方は、もはや時代錯誤とも言えるでしょう。

 そのほか、「報道・情報番組での伝える経験を本業に生かしたい」「報道・情報番組への出演はクリーンなイメージが定着しやすいから、CMのオファーが増えるかも」などの狙いもあります。

今後キャスター進出する芸能人は?

 ただ、生放送の報道・情報番組への出演は、メリットばかりでなく、失言などのリスクも高いだけに、成否の差は紙一重。無難にこなすだけでは評価が上がらないため、注意しながらも“自分ならではのひと味違うコメント”を模索しなければなりません。また、番組の外でも清廉潔白さを求められる分、週刊誌からのマークが厳しくなり、「交友関係や夜遊びなどに気をつけなければならない」という苦労もあります。

 それでも報道・情報番組に出演したい芸能人は多く、次の大型改編期である秋以降も増えていくでしょう。今後、キャスター進出する可能性が高いのは、視聴者層の広いNHKの朝ドラや大河ドラマに出演したイケメン俳優のほか、遠藤憲一さんや松重豊さんら、酸いも甘いもかみ分けたベテラン俳優、ホランさんのようにブレイクまでに時間がかかり苦労を重ねた若手タレントの3パターン。平日の朝から夕方までのテレビ欄が、生放送の報道・情報番組で覆い尽くされているだけに、活躍の場には事欠きません。

 今日も各局のテレビマンたちは、「新たなキャスターになれる芸能人はいないか」と目を凝らしており、芸能人たちは経験と知識を積み重ねながら、そのオファーを待っているのです。

(コラムニスト・テレビ解説者 木村隆志)