大ヒット上映中の新海誠監督の長編アニメーション映画『君の名は。』。

新海誠監督は、もともと自主制作映画からスタートしたが、そんな新海作品の「聖地」ともいえるのが、2001年に『彼女と彼女の猫』、2002年に『ほしのこえ』が初上映された短編映画専門館「下北沢トリウッド」である。



新海誠監督を発掘した人でもあり、トリウッドの代表でポレポレ東中野の支配人でもある大槻貴宏さんは、最新作『君の名は。』を、そして原点から現在に至る活躍ぶりをどのように見ているのだろうか。

大槻さんは、原点となる『彼女と彼女の猫』を見たときの思いを、こう話してくれた。



「妻がCGアニメの上映会に出かけ、作品を見てきて『面白い作品があったよ』と言うので、作品を拝見させてもらいました。今までのアニメーションと比べて『キレイだな』というのが第一印象でした。作品そのものもそうですが、こういうアニメーションをパソコンで個人で製作できるんだという驚きの方が強く、それを知ってもらいたくて、他の3作品と合わせて上映をお願いしました」

予告段階から話題になった『ほしのこえ』


新海誠監督の名を一躍有名にしたのが、続く作品『ほしのこえ』。どんな印象を持ったのだろうか。
「もちろん途中の様々な段階で見ていましたが、実は、最終的に完成した本編を見たのは上映当日の朝で(笑)、もう涙も出るし、大興奮でした。予告編がとにかく素晴らしかったので、実際の長さになったらどうなるのか少し不安があったのですが、遥かに上回っていました。前年の秋、予告編を流し始めた時から、普段アニメーションを見ないような人たちが『あれはなんですか?』と聞いてきたのが印象に残っています」

『ほしのこえ』は、最初の土日は全回完売で、月曜日に少し下がったものの、3週目くらいからは平日も全回完売となったという。
「完売が続くようになると、次第に観客同士で『僕は3回目だからどうぞ』と未見の方に券を譲ったりしていて、『ああ、いいなあ』と。自分でこの作品を見つけた人達が、こんな凄いものをなんとか拡げたい、多くの人に知って欲しいと思う、健全な熱意というか優しさを感じました」
さらに、最終日は、見られない人がまだまだいたため、追加上映、再追加上映も行い、最終的には5回の追加上映。最後の上映時は0時を回っていたほどだったそうだ。

その後も新海監督は『雲のむこう、約束の場所』『秒速5センチメートル』『星を追う子ども』『言の葉の庭』と、数々の作品を発表。アニメ好きや映画好きの枠を超えた幅広い層に人気となっていく。こうした「変化」をどのように見ていたのだろうか。
「尺や物語の内容も含め、様々なことにチャレンジしていて素敵だなあ、と思っていました。また、僕は『新海節』と呼んでいるのですが、『待ってました』のカットや編集が必ず見られるのが良いなあ、と」

『君の名は。』は新海作品の集大成


「新海節」とは、具体的にどんなもの?
「音楽と、それに合わせての編集です。 わかりやすのは『ほしのこえ』で、あの主題歌が流れての戦闘シーンなのですが、『君の名は。』では、『前前前世』が流れてからのシークエンスですね。音楽と、特徴である“実写より美しい風景画”を見せるシーンと、物語を見せていくシーンとのミックスがすごくうまくできたと思います。だから多くの方に響いいたのでしょう」

『君の名は。』は、これまでの新海作品の集大成でありつつ、「ポップな絵柄やテンポ」「震災を思わせる描写」「離れ離れ感の終結」など、これまでと大きく異なる要素も持つが……。
「製作途中でも一回スタジオにお邪魔させていただいたのですが、その時から『ベストオブベスト』を目指していて、それはすごく大変なことだと思うのですが、見事にやり切ったなあ、と。ハッピーエンドになったことは、14年越しに『あ、ようやく』と正直嬉しかったです(笑)」

また、現在の新海監督のブレイクについては、こんな思いを語ってくれた。
「絶対ブレイクするだろう、ぜひそうなって欲しいと思っていたので、素直に嬉しいです。また、個人で始めた方がここまでできた、というある種の奇跡的なストーリーを目の当たりにできたことは、自分自身の活動にとっても励みになると思っています」

次世代の新海誠監督は?


ところで、そんな大槻さんがいま、「これからくる!」と確信し、注目している作品や作家とは?
「手前味噌で恐縮なのですが、現在制作中の、僕がプロデュースしている『ユートピア』という作品の伊藤竣太監督です」



伊藤竣太監督は、高校2年生から映画を撮りはじめ、2005年作『ウィッシュバニッシュラビッシュ』が高校生映画甲子園で2つの賞を受賞。翌2006年作『虹色☆ロケット』はDVD化されてもいる。
『ユートピア』は、企画から10年、ようやく年内完成予定であり、実写とCG合成を超少人数で現在仕上げ中だとか。

次の新海誠監督を見つけたい人は、注目してみると良いかも。
(田幸和歌子)