風邪を引いたら、かかりつけの町医者へ行きます。これは、よくある。では、首が痛くなったり、腰が痛くなったらどうします? 要するに、自分の中で初体験に近い症状だった場合。ルーティンになってないし、経験則がありません。こうとなったら、お医者さんを新規開拓する必要が出てくるでしょう。
でも、意外とどのお医者さんに行ったらいいかわかんないんですよね。自分の症状に合うのは何科なのか、その都度迷います。

話は変わって。東京都世田谷区にある「下北沢病院」は、日本初の“足の総合病院”として8月より本格始動するそうです。


「旅行は楽しみだけど、長い時間歩くのはつらい」
「ランニングやウォーキングをしたいけど、足が痛くなる」
「足が痛くて、立ち仕事がつらい」
「足が変形(外反母趾)して、素足を出すのが恥ずかしい」
こういった、足に関する全ての悩みに対応してくれるとのこと。何しろ、“足の総合病院”なので。

今回は、この病院へ行ってみました。そして、その斬新なコンセプトの詳細について伺ってみたいと思います!

目は「眼科」、歯は「歯科」。そして、足なら「足病院」


病院についてご説明してくれたのは、同病院の形成外科医であり、院長でもある菊池守ドクターです。



まずは、そもそものお話を伺いたい。なぜ、“足の総合病院”という方向性に舵を切ったのでしょう?
菊池さん 日本と違って、アメリカには当たり前のように「足病院」があります。歯医者と医者に分かれてるように、もう一個「足医者」があるんです。彼らは足首から先の手術ができるし、注射だってできるし、診断だってできる。
――「足医者」ですか……?
菊池さん 不思議なもので、目は眼科なんですよね。他にも耳鼻科や脳外科はある。でも、足は無いんです。「足」という臓器だと考えた時、「足病院」は足に関する全てを診ることができる。患者さんとしてはわかりやすいですよね。
――自分の症状に適当なお医者さんがどこなのかわからないケース、たしかに多いです。
菊池さん 目が悪かったら眼科へ行くじゃないですか? 歯が悪かったら歯医者行くじゃないですか? その歯医者の中にも、矯正や補綴があったり。でも、足に関してはまとまりがありませんでした。「日本初の足に特化した専門の病院を作りたい!」というのが、そもそもの始まりです。

今までは、どの病院へ行けばいいのか迷うことが多かった


――本当に、足なら何でも診てくれるんですか?
菊池さん 今、足を診療する科というのは様々あるんですね。例えば、水虫だったら皮膚科へ行く。関節が痛かったら整形外科に行く。年をとると心筋梗塞みたいに足の血管が詰まっていき、痛くなって冷たくなって最終的に腐ってきたり。そういうのも「足病」というものに入ってくるし、外反母趾も入ってくる。ランニングして足が痺れたり痛みが出るというのもそう。でも、それぞれの科に分かれてしまっているので入り口がわかりにくい。
――どこへ行ったらいいのか、一般人からすると難しいです。
菊池さん 整形のお医者さんのところに巻爪治療の目的で行って「いや、ウチじゃないから」と言われちゃうとか、皮膚科に行って外反母趾の話をしても「ちょっとわかんない」って言われるとか、そういうことが無い形でやっていきたい。歯なら歯医者へ行くように、「足なら“足の病院”に来てください」というのが当院のコンセプトです。
――たらい回しがないわけですね。
菊池さん 例えば、足の外科の先生がカバーできなかったところについても、当院でしたらカバーできます。特に下肢閉塞、足壊疽といった症例に対して、現在の日本では間口が足りていない。それらをカバーするために“足の総合病院”を作りました。患者さんはどこに行っていいかわからないことも多いですもんね。

糖尿病患者にも対応


ちなみに、同病院は「足病総合センター」と「糖尿病センター」の2部門によって成り立っています。
菊池さん 糖尿病の患者さんも、実は足と大きく関わりがあります。糖尿病の患者さんが足を切断するって、聞いたことありますか?
――あります。
菊池さん 昔、歌手の村田英雄さんも糖尿病治療で太ももから切断されました。糖尿病の方は血管がボロボロになったり、神経もボロボロになったり、足のトラブルが多いですが、そういった方々も当院では診ることができます。足に関する形成外科、整形外科、血管外科、循環器内科、リウマチ科、そして糖尿病内科、ウチには色んな科のドクターがいます。だから、何が来たとしても対応することができます。

でもそれだけ「科」があると、やっぱりどの科へ行っていいか迷ってしまうんですが……。
菊池さん 当院の予約方法ですが、まずは「足病総合センター」で予約してください。そこでお話を伺い、その内容を踏まえて整合性のある科にご案内します。
――ということは、足が悪くなったと思ったらとりあえず来ればいいということですね。科については、病院側で振り分けてくれるという。
菊池さん そうです。患者様の方で科を選ぶ必要はありません。
――ということは、形成外科のドクターが「血管外科の先生に診てもらった方がいいな」と思った時は患者さんに「あちらの科へ行ってください」と、病院内で指示できるということですね。
菊池さん というか、どちらかと言うとその科の先生を呼ぶ感じです。「ちょっと診てくれる?」という感じで。
――へぇ〜、便利ですね!
菊池さん 大きい病院と違って「横の横断がしやすい」というのは、ウチのようなプライベート病院の特色だと思います。

気軽に来たい“足のドック”


菊池さん 今後、取り組んでいきたいと思っているのは予防。いわゆる検診のような“足のドック”です。例えば、病気まではいかないけど足の痛みがある方って結構多いんですよね。ランニングされてて足が痛いとか。そういったことを早めに見つけ、早めに治療してあげる。
――「なんか気になるところがあるな」くらいでぶらっと来て、「メンテナンスしてください」というノリでの来院でも大丈夫なんですか?
菊池さん それは、大丈夫です。爪が痛いとか、走ると痛くなる箇所があるとか、それは全然相談していただいて結構です。具体的に言うと「最近、ダイエットのためにランニングを始めたんだけど、なんか靴が合わなくて足が痛い」というのでも全然来てもらって結構ですし。
――へぇ〜!
菊池さん 足っていうのは患者さんのクオリティ・オブ・ライフに直接関わってくるので、歩けなくなると途端に落ちちゃう。そうなると莫大な医療費がかかるので、その前に食い止めたい。近隣の方々に対しても「今のところ困ってない場合でも、たまに足を診てもらっておいた方がいいですよ」とお伝えしていかなきゃいけないなとは思っています。
――その場合に受ける治療は、保険の効くものが多いんですか?
菊池さん 基本的には、全部効きます。当院は全て、保険診療の範囲内でやってます。
――あっ、そうなんですか! それは、助かります。

●病院でインソールを作ってもらえるらしい
菊池さん その治療法も手術や注射ばかりではなく、大事なのは靴と中敷き(インソール)なんですね。スポーツ選手がインソールをオーダーメイドで作ったという話を聞いたこともあるかと思いますが、一般的な足に関してもインソールは非常に有力な治療になります。ランナーの足の痛みって地面に接地する箇所に最も出てくるんですが、そうなると靴のインソールが大事になってきます。
――インソールを病院で提供するんですか?
菊池さん 実は、病院でインソールって作れるんです。しかも個人に合わせてオーダーで作り、その7割を国が返してくれるという素晴らしいシステムがあります。
――えーーっ、本当ですか!?
菊池さん 「義肢装具士」という専門職が、患者さんの足の型をちゃんとオーダーメイドで取って作ります。普通の病院で義肢装具士がいるのは週1回程度なんですが、当院には週3回のペースでいるので、その日に患者様にお越しいただければ製作することができます。
――へぇ〜!
菊池さん ただ、お気を付けいただきたいことが一つあります。足を調べて、病気があって、それを治療するためのインソールには保険が効く……ということなんですね。何でもかんでも保険が通るわけではありません。なぜこういうことを言うかというと、インソールの保険が普通の医療保険と違うのは、最初に全額を払って申請したら返ってくる……という流れなんです。人によっては「この状態では払えません」と、7割が返ってこない場合もあります。
――あぁ、その辺はシビアに考えないと駄目なんですね。
菊池さん レントゲンも撮って、病気があって「このために足の問題が出てきた」と診断できればインソールの保険が通るということです。
――ランナーが勘違いして「自分の能力を引き出したいから」と作ったら、保険がおりない可能性が高いわけですね?
菊池さん そこが難しいところです。

まぎれもなく、“足の総合病院”として日本初


菊池さん これまでも足外来とか傷外来に対応するセンターが各地で立ち上がってはいたんですが、だいたい週の何日かだったんです。当院に関しては、月〜土(土曜は午前のみ)までずっとやってます。あと、ウチくらいの規模でしたら大学病院ではできない小回りが利きますから、新しい治療をドンドン取り入れていけます。以前、ウチはリウマチの病院だったんですが、その経緯から院内にはリハビリ部門やリウマチの医師もいます。


それ以外にも栄養士が糖尿病の指導をしていたり、専門の薬剤師もいますので、色んな職種で足に特化した研修・教育ができます。結果、他の病院よりもクオリティの高い治療をうまく組み合わせてできるというのが当院の強みだと思います。
――ところで“足の専門病院”って、本当に今まで無かったんですか?
菊池さん 例えば“膝関節の専門病院”とか、整形で“頚椎の専門病院”というのはあります。整形の中には“足の外科”という領域があり、それらをまとめて引き受ける病院はあるんですが、全体をフォローするところは今までありませんでした。
――たしかに、糖尿に関してまでフォローしているところはないでしょうね。

実際に、どんな人が来ているのか?


――今までにないコンセプトですのでご質問しますが、病院側から「試しに来てみてはどうですか?」と呼びかけたい人っていらっしゃますか?
菊池さん 透析の患者さんって色んなところに疾患を持たれているケースが多いんですが、実は足の血管がボロボロになってしまってる方も多いです。でも、御自身では自覚症状がない。そういう方々は、一度当院にお越しいただくといいと思います。
――自覚症状がなくても、「私、大丈夫ですか」と確かめに来る感じですか?
菊池さん 糖尿病の患者さんは、神経障害で感覚が鈍くなってしまうんです。足の裏がピリピリ痺れてきて、そうなると靴ずれを作っても気が付かない。だけど「どうも最近、靴下が汚れるんだよな」と来てみたら、足の裏にこんな大きな穴が空いていた……というケースもあります。
――なるほど。あと、下北沢病院さんは“足の総合病院”として既にプレオープンをスタートさせているとのことですが、今までにどのようなお悩みをお持ちの患者さんがいらっしゃいましたか?
菊池さん 様々ですね。糖尿の患者さんも来られますし、「2ヶ月前から足の指が痺れてる」とか「捻挫をした後、痛みがとれない」とか。あと、「ランニングをやっていて足が痛くなった」という人も多いですよ。

実際に足を診てもらった


実は今回、私もこの病院で足を診てもらいました。老いゆえなのか、数日前から足に気になる箇所が出てきたもんで……。

まずは治療台に座り、靴下を脱ぎ、菊池院長に足をチェックしてもらいます。


始めは足の温度、要するに血行が調べられます。そして足の形、足の痺れを確認……という流れで診察が進んでいく。
菊池さん 特に現在、痛みのある箇所はございますか?
――ここ最近、どうも左足の小指が痛いんです。


機械を使って、足の脈をとってもらっています。


実際に小指を動かしてもらい、痛みが出るか調べます。結果、私の左足小指は神経が腫れてる可能性があった模様。痛みが悪化すればインソール等を使った治療が始まるのですが、私はそこまでひどくないようです。


足の模型を使い、症状の詳細を丁寧に説明していただきました。


また「あなたはこの運動がいいですね」と、患者さんに適したストレッチ方法を解説した資料をくれたりもします。

そんなこんなで、日本初の“足の総合病院”を体験してみました。昨今、「寿命」とともに重視されている「健康寿命」ですが、いつまでも若々しく過ごすには“足の健康”を避けては通れません。
……というか、そこまで深く考えずとも、気軽に立ち寄っていい病院。「足のアザがなかなか消えない」なんていう女性にもオススメでしょうね!
(寺西ジャジューカ)