年齢を経ても魅力的な男でありたい。そう願う男性は多いはずだ。しかし結婚して子どもが生まれ、毎日仕事も忙しい。パートナーとの関係もマンネリ化。若い頃と比べ服装も気を使わなくなった。そもそも男磨きにかける時間がないよ(!)と、言い訳してしまう人は多いのではないか。

そんな折り合いつきにくい現実に「むしろ仕事を頑張る男こそエレガントさが必要」と美容ジャーナリストで皮膚科医の岩本麻奈さんは主張する。『生涯男性現役 男のセンシュアル・エイジング入門』を出版した岩本さんによれば、センシュアリティを備えた男は仕事にプライベートに成功しやすいそうだ。「センシュアリティ」とはどういうことか? 現代の男の魅力とは? 岩本さんに聞いてみた。



――センシュアリティとは何ですか? 
「官能的」という意味です。ただしセンシュアリティは「セクシー」という意味を内包しつつも、「性別を超え、自然な官能性を通じて現れる人間的、人格的な魅力」を言います。がむしゃらに仕事を頑張っていた若い頃と比べて、年齢を重ねれば重ねるほど仕事と私生活の両立が大事です。社会的に成功しても、プライベートに満足できなければ幸せは感じられません。それを充実させるには、センシュアリティの有無が大切になります。

――男の魅力とは、例えばどういうことでしょうか? 
家事や育児など、かつて「女性的」だと思われていたことを、スマートに行える男性です。高度成長の時代は、「オス」を出していくことが、魅力と捉えられたこともありました。年を経てから若い女性と一緒になったとか、何度か再婚したとか、年齢と比較して性的な機能が強いとか。これらは一部で頷ける部分もありますが、時代が変わった現代では、ひたすら「オス」を誇示していても女性から魅力に映りません。女性の社会進出が以前よりは進んだ今、男女の付き合い方は変わってきたと言えます。もちろん医学的に男が男たるゆえん、男性ホルモンが心身の状況に与える影響も大きいですので、その辺りは拙書をご覧ください。詳しく説明しました。



――岩本さんの『生涯男性現役 男のセンシュアル・エイジング入門』では、主な対象を45歳以上と設定し、「男性の魅力とは何か」を伝えています。世代間で意識は大きく変わりますよね。
そうですね。若者と年配者ではとても違います。45歳以上の男性に限って言うと、まだまだ男尊女卑の風潮が根深いです。これらもちろん日本だけではありません。日本のメディアにおいて、男女の社会的平等性のモデルのように扱われるフランスでも、実際は男性の社会的優位さが、まだまだ残っています。ただ日本で特に問題なのは、社会的立場の低さに不満を言いつつも、低さゆえに与えられる利益も享受したいと思っている女性が多いことではないでしょうか。男性と同じような権利を求める代わりに自ら義務も背負っていけるのか、両者のいいとこ取りはできません。女性が変わらなければ男性も変わりません。

――性差なくスマートに物事をこなせることに加え、他にも何か男性の魅力が増す方法はありますか? 
深みある会話です。話題として政治や哲学、文学の話ができ、自分の意見を述べられるということ。テレビやインターネットで仕入れた知識を、ただ伝言のように伝えるのではなく、完璧でなくともそれらを自分の中で咀嚼して言える。もしかしたら若い人は違うかもしれませんが、45歳以上の男性に限って言えば、自分の専門(職業)以外の会話についていける男性は非常に少ないです。自分の専門分野に深い見識を持つことは大切ですが、それ以外の分野にも、ある程度興味を持つことで、さらに味ある人生を送れるようになります。

――専門分野以外の知識が「教養」として重要視されなかったことは、ひたすら効率を重視してきた高度成長の時代性も関係していたのでしょうか? 
その面は大いにあるでしょう。高度成長の時期だけでなく、今でも高等教育を含め「人生を効率だけで考える」風潮は散見できます。これでは本質的に機械と何ら変わりません。近年AI(人工知能)が様々な環境を代替しつつあります。AIがより高度化していけば、人間がAIに正確性と効率性で負けてしまうのは明らかです。人として人間らしい魅力を感じさせるのは、一見したら非効率のように思える部分や、それこそセンシュアリティから生じるものです。ただ、もしAIが究極的に発達したら、そこも代替されてしまうかもしれませんね(笑)。



――本書では、社会的な男女差が日本よりは縮まっているとされるフランスや英国のケースを中心に取材し、現代における男性の魅力を探っています。日本は「とにかく欧州の文化にならうべき」でしょうか?
いいえ、私は欧州男性の振る舞いすべてを「絶対的なもの」とは考えていません。当然、日本には欧州にない良さがありますし、日本と海外では生活文化も異なります。そのため1つの基準をすべてに当てはめることは不可能です。例えば「レディー・ファースト」について。欧州でレディー・ファーストは社会に溶け込んだ仕草ですが、日本では習慣が違うこともあり、過剰に映ることがしばしばです。そういう時は、少しその土地に合わせて変えてみます。女性なら誰でも優先するのではなく、パートナーや恋人など大切な人に対して、特にレディー・ファーストを心がける。こうすると日本でもレディー・ファーストが、違和感なくスマートに映るはずです。

――とにかく男性としては色々と耳が痛いです(笑)。気をつけなければいけないのは男性ばかりでしょうか? 
女性も然りです。例えば「美魔女」と呼ばれる、年齢を重ねても若い容姿を保っている人たちがいます。男性視点で、彼女たちのことをどう思いますか? 違和感を感じる人も多いのではないでしょうか。もちろん容姿が綺麗でないより、綺麗であるに越したことはありません。しかし多くの場合、彼女たちの「美しくなりたい」という方向性はナルシシズムであり、内(=自分)や競い合う同性に向いています。自己の意識の高まりや、誰かを幸せにしたいといったような、外(=相手)に向いた結果ではありません。心の了見が狭くては、美容やアンチエイジングも片手落ちです。

――相手のことを考え、相互に高め合い魅力的な関係を築いていくということですね。
まずは身近なところから変えていく。そして、少しずつでも良いので広げていく。すると気づいた時には世の中も動いている。女性が思っている「生涯現役男性」というのは、お互いに人として良い影響を与えながら、一生涯寄り添い付き合っていける男性です。これには女性も、その男性に当然ふさわしいよう変わらなければいけません。こういう環境が構築できれば、男性も女性も、今いる世界がもっと楽しくなるはずです。
(加藤亨延)