『受験のプロに教わる ソムリエ試験対策講座 ワイン地図帳付き<2016年版>』(リトルモア 3,600円/税抜)。
この書名がすべてを表している、といっていいかもしれない。

本書は、一般社団法人日本ソムリエ協会が毎年実施している、ソムリエ試験(呼称資格認定試験)の一次筆記試験用の対策本。



ソムリエ試験用の対策本というのは、もちろんこれまでにもたくさん出版されている。
が、このテキストは、ちょっと違う。
帯にも、
<“こんなテキスト待ってました!”の声、続々。”>
と、でかでかと書かれている。

何が「違う」のか。それは、開くと一目瞭然。これ、つくりが“受験参考書”そのものなのである。

赤いシートはまさに「受験勉強」




「シャンパーニュ地方」「ボルドー地方」といった産地についてやラベルの記載事項、ブドウについて、温度や空気が及ぼす影響など、項目別に細かく分類され、分かりやすく図表化された部分も多い。産地の話なんかは、どこか地理の参考書を見ているかのようでもある。



試験の「傾向と対策」も記され、何より、覚えるべきポイントが、赤字で印刷されていることが、受験参考書ふうのイメージを強める。“お約束の”(?)、赤く透明なチェックシートもちゃんとついている。



まさに、試験に出る必要な箇所を、ひたすら暗記するような、どこか「なつかしい」つくり。ある意味、これが「勉強しよう!」という気にさせてくれる雰囲気かもしれない。

ワインは好きだが、知っているのは、赤・白・ロゼとか、産地はフランスやチリとか程度、ろくな知識のないそんな自分でも、この本を見ているうちに、「なんか受かりそう」な気がしてくる。
実際、何章か読み込んで(ほぼゼロ知識で)、その章の終わりに掲載されている例題を解いてみたところ、実際けっこう解けていたりして、「なんか」から、「マジで受かりそう」にグレードアップした手応えを感じる。確かに、“待ってました!”と言いたくなるのもわかる。



著者は人気予備校講師


そんな受験テクの観点からソムリエ試験対策を紹介する本書、それもそのはず、著者は有名進学予備校の人気数学講師なのである。

杉山明日香さん。もちろんソムリエ資格を持ち、ワインスクールの主宰者でもあるのだが、
「もともと、主に知人にむけて教えていたのですが、市販のテキストに、自分の授業に合うものがなかった。それならば、と思いたったのがきっかけです」
と、本書のきっかけを語る。

やはり、ワインは大好きなようで、
「はじめてワインを飲んだとき、熟成し美しいレンガ色で、トリュフのような香りがして……それは78年の『シャトー・ムートン・ロートシルト』だったのですが、ものすごい衝撃を受け、心の底から『ワインってすごい!』、そう思いました」

杉山さんは、本業の数学のテキストの執筆や監修もしているが、数学とソムリエの試験勉強には、互いに通ずるものがあるのだろうか。
「ノウハウは、確かに通ずるものはあると思います」
杉山さんが言うには、たとえば、「表の多用」。
「情報を無駄なく凝縮するためなのですが、ソムリエ試験の本で、ここまで表が載っているのは珍しいと思います。情報の取捨選択を極めるという点で、予備校での授業やテキストつくりがいかされているのではないでしょうか」
また、体系立てた学習をすることも似ているという。
「品種、産地、ヴィンテージ、畑作り手、そして香り、味……ワインは本当に複雑な要素をもっています。そんな複雑な事柄をきっちりと体系立てて勉強するには、理系的な考え方は役立つように思います」



受験参考書らしい、赤いシートも、その延長上にある。
「『覚える』ことに特化して生み出された仕様なのですから、これを取り入れない理由はないと思って」

とてもツボを押さえた構成の本書、杉山さん自身がソムリエ試験の勉強で経験したことも活かされているのかと思いきや、
「私は実は3日しか勉強していなくて……。それまで飲んできたワインの本数や経験と、日頃の受験に深く携わることで身についた『勉強慣れ』とでもいえるような感覚で、なかば強引に突破してしまいました(笑)」
とのことだった。

苦労した点はといえば、
「ソムリエ講座はしていたので、骨子はすぐできました。出題範囲と内容は、ソムリエ協会発行のテキストに基づくのですが、内容が毎年大きく更新されます。これを反映するのが体力的に大変で、あまり勉強する人を待たせたくないですから短時間でと思うと徹夜続きに(笑)。実は、ほとんどの試験対策本が、情報更新しないんです。私はそれでは勉強が不十分になると思うのですが」
とのこと。

大学受験の時に数学を。そして成人してからはソムリエ試験で。人生で二度「杉山先生」に教わる機会がある人も出てくるかもしれない。

飲食店経験なくても


ソムリエ資格を得るには、一定期間の飲食店での勤務経験などが必要となる。また、2次試験にはテイスティング、3次試験には実技試験もあり、この本だけでは難しい事情もある。
しかし、飲食店などでの勤務経験がなくても、「ワインエキスパート」という資格の取得は可能。飲食店の経験がなくても、この本でワインエキスパートを目指してみてはいかがだろうか。

試験を受けなくても、この本で得た知識、これからワインを楽しむときに、とても役立つことは確実だ。自分もどっかで使うつもり。

杉山さんは言う。
「ソムリエやワインエキスパートの資格は、ワインの海を航海する地図のようなもの。どこに何があるかは分かるけれど、実際どうなっているか、地図だけでは分からないように、実際に飲まなければ分からないこともたくさんあります。ぜひ、たくさんワインを飲んでみてください!」

ソムリエ試験の1次筆記試験は8月の予定。
きっと、自信がわいてくる一冊だ。
(太田サトル)

※本書の刊行記念トークイベント<杉山明日香先生に教わる「ワインのコツ」>が、7月6日、渋谷のMARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店で開催予定。
入場料は1000円。要予約。「美味しいワイン」2種付き! 申し込みなどくわしくはこちらまで