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●なぜIoTの普及は進まないのか
「IoT」という言葉は、今やビジネスシーンで聞かない日はないという程に浸透している感がある。だが、その一方で、モノのインターネットという、良く分からない言葉に振り回されている企業も多いのが現状だろう。例えば、調査会社であるガートナーが4月に公表したレポートでは、この1年の間でIoTの専門部署などを組織した企業は対象とした従業員500名以上の515件の約1割程度であったほか、どこから手を付けてよいか分からないと応えた企業が4割近くに上っている。

○IoTの普及を何が妨げているのか

「組込機器がスタンドアロンで良かった時代、開発ではチップ、ファームウェア、OS、アプリケーションあたりを中心に考えておけば良かった。しかし、ネットワークに接続するようになると、クラウド、セキュリティなどより多くのことを考える必要がでてきて、1社だけでどうこうすることが困難になってきている」と語るのはアクセンチュア・デジタルでコネクテッドデバイスと組み込みソフトウェアの部門を統括するフィリップ・ヴァン(Phillip Vann)氏だ。

IoTを活用するのは、組込機器ベンダやSIerだけではない。むしろ、小売業やサービス業などの分野のほうが、その活用に期待を抱いているが、そうした企業はIoT機器、いわゆる組込機器になじみがないため、アクセンチュアが代わって、サービスの提供などのコンサルティングを行っているのだという。

「実はIoTという言葉がメジャーになる以前から組込分野は注力してきた」(同)という同社。2009年にはNOKIAの(Symbianの技術サポートを行ってきた)プロフェッショナル・サービス部門を買収し、その4年後の2013年には約2300名のR&Dエンジニアも統合するなど、着々と地歩を固めてきた。

実は同社、こうした取り組みの一環として、ハードウェアも手がけている。IoT向けラピッドプロトタイピング用のリファレンスデザインだ。「IoTはエッジデバイスがなければ、すぐにソリューションを試したい、という顧客ニーズに応えることができない。リファレンスデザインはIoTサービスをエンドツーエンドのソリューションとして提供することを考えた結果、生み出された」(同)とのことで、先行して開発したワイヤレス版に続き、2016年2月に開催されたMobile World Congress(MWC)では有線版の出典を行い、ビーコンと組み合わせた人物トラッキングのデモを披露したという。

○IoT実現の最大の課題は「セキュリティ」

IoTを実現する上で最大のポイントは「セキュリティ」だと同氏は語る。「IoTデバイスのセキュリティを考える上で、消費者のデータ漏えいに対する意識が高まるなど、これまでとは異なる変化がいくつか起こっている」。実際、同社が2016年1月に発行した消費者側に対する調査レポートでも、約5割の人(28カ国28000人が対象)がデバイスの購入時にセキュリティを心配しているとの報告がなされている。

「IoTデバイスの場合、消費者の意識の変化に加え、デバイスとしての機能上の制約などから、セキュリティの実現手法としても、ソフトウェアだけでなく、ハードウェアやOSレベルで考える必要があるほか、通信そのもののセキュア性なども考える必要がある」という。

またもう1つ立ちはだかるのが企業の組織構造だという。「従来、セキュリティといえば企業内では情報システム(情シス)部門の仕事であった。しかし、IoTデバイスの開発は研究開発部門(R&D)の仕事で、彼らはセキュリティの専門家ではないが。かといって販売される製品なので、情シスの範疇外でもある。IoT時代は本格化する今後、情シスとR&Dをつなげていく必要性を経営層は理解しているものの、コスト削減で利益を生み出してきた情シスと、製品を作り、売ることで利益を生み出してきたR&Dではまったく異なる文化を有しており、融合に苦慮することとなる」とするほか、R&D部門もセキュリティに意識を持ち始めているものの、暗号化をどうする、とか、認証をどうする、といった技術的な話題が多いという。この点について同氏は、「IoTで求められるセキュリティは、運用や顧客のマネジメントなどを含めた総合的なものであり、決して技術的にどうこう、というだけの問題ではない。そこを注意する必要がある」と指摘する。

●企業はIoTをどのように活用するべきなのか
○日本市場でIoTが普及するためには

では、同社は日本市場に向けて、どのような取り組みを進めているのか。「IoTというと、どうしてもテクノロジーやエコシステム、マネタイズ、データの収集方法といったものに目が行きがちだが、そうした話の前に忘れていけないのが"何が価値となるのか"という点だ。マーケティング分野の有名な格言に"ドリルを買おうとしている人は、ドリルが欲しいのではなく、穴を開けたいのだ"、というものがあるが、我々もそうした顧客が本当に欲しい部分にフォーカスしている」と同氏は語る。すでに同社は成果報酬型のビジネスを標榜しているが、「実は従来型のビジネスの中では、成果を図ることは難しかった。しかし、IoTは粒度の細かいデータをモニタリングできるので、成果を図りやすくなり、顧客にも理解を得やすくなった」としている。

企業の大きさに左右されるのではなく、新たな取り組みや社会へのインパクトを与える取り組みなどを積極的に推し進めることで変革を促していきたいとしており、2015年11月より新たに「オープンイノベーション組織」を立ち上げ、スタートアップや自治体、教育機関などとエコシステムの構築を進めており、今年中にも実例の紹介ができる見込みであるという。

また、そうしたサービスを活用する消費者側の意識もスマートフォン(スマホ)の登場を境に、「自分の情報をネット上に出す、という意識のハードルが圧倒的に下がっている。デジタルの進展によりデータに対する人の感覚が変化してきている」と、大きく変化してきていると指摘する一方で、「個人情報に一定の価値があるという認識が広がってきているが、そのデータを誰が何の目的に使うのか、どのようにそのデータが保護されるのか、という点が懸念されるようにもなってきている」と、ここでもセキュリティのあり方を考える必要性を強調する。

最後に同氏に、IoTをどのように活用したらよいか悩んでいる企業担当者に向けたメッセージを語ってもらった。「アクセンチュアとしては、IoTを活用したいと思った企業に対し、今、自社で強い商品は何かを聞き、それをより輝かせるためにはどうするのかを考えるべきだと述べている。経営資源として、これまで培ってきた顧客基盤があるのだから、決して、隣の芝生が青いと思ってはいけない。製品ビジネスからプラットフォームビジネスへとビジネスモデルを転換したいという話を聞くか、それで成功しているのは製品が輝いている企業だ。我々のところにも、どうしたら良いのか、という相談が日に日に増加している。正直言ってしまえば、IoTに関しては、まだまだこれから出てくる技術が不可欠な初期段階と言える。だからこそ、テクノロジーから入るのではなく、ビジネスケースから入ってもらいたい。また、他社よりも早くサービスを立ち上げたい、という場合には、ラピッドプロトタイピングを活用して、技術の有用性と商業としての成功の確認をしてもらえればと思う」。

なお、同社は研究機関「Accenture Technology Labs(ATL)」も有しており、破壊的イノベーションを有するスタートアップの特定や、そうしたテクノロジーの活用手法などの研究を進めており、IoT分野に向けても、そうした先端技術の早期活用に向けた取り組みなども進めているほか、ユーザーエクスペリエンス(UX)分野の強化に向けた買収なども進めており、IoTデバイスのUIをARやVRと連動させて拡張しようという取り組みなども進めており、全方位的にIoTをビジネスで活用したい企業の成長を支援していきたいとしている。

(小林行雄)