公開直後からさまざまな評判がネット上に投稿されている話題の映画『テラフォーマーズ』について、ライター・編集者の飯田一史さんとSF・文芸評論家の藤田直哉さんが語り合います。

イキきったダサさを擁護する!



藤田 三池崇志監督の『テラフォーマーズ』、ぼくは評価します! 世論に逆らって評価します! アース製薬が出てきたところが一番面白いなんてぬかすやつに逆らって、評価します! 実際、劇場で観ていた男の子とか、「うわー、助かったー」とかすっごく素朴に観ていたし、ヤンキー風のカップルも大喜びでしたよ!

飯田 基本的な情報からいくと、原作マンガは作画・橘賢一(1977年生まれ)、原作・貴家悠(1988年生まれ)で「ヤングジャンプ」にて連載中、2016年4月からアニメ第2期も放映中の人気作品。未来、火星で進化した(ゴリラにしか見えない)超巨大ゴキブリ=テラフォーマーと、虫とか動物の能力を合体させた人間が戦う話ですね。マンガ版ではテラフォーマーとの戦いだけでなく、中国やロシアなど各国の思惑が交錯して人間同士のバトルや駆け引きも描かれる。三池崇史による映画版は日本人だけが火星に行くオリジナルストーリー、と。

藤田  先に言っておくと、もちろん、クソなところもありますよ。服と宇宙船の内装はダメ。ダサい中でも、イキきったダサさと、ダメなダサさがあります。クライマックスでリンプンが舞ってゴキブリの大群を覆うシーンとか、ああいうのはイキきっているんで、いいんです。ぼくは爆笑しました。
 物語も何がなんだか分からないという人もいますが、それもいいんです。ゴキブリ人間が津波のように大量に押し寄せてくるのを、虫の力でパワーアップしてサバイバルするという変身ヒーローモノの逆境パターンだと思えば。

飯田 原作は山田風太郎とか白土三平みたいなデタラメ科学解説付きアクションとしておもしろい。マンガは、序盤はとてもおもしろく、だんだん「延々戦ってるだけじゃね?」と思ってきたところで、最近は人類とゴキブリの進化は実は共通の……みたいな超古代文明話/SF的な設定が出てきてまたおもしろくなりつつある。

藤田 山田風太郎の『外道忍法帖』みたいに、次々と能力者たちが出てきてバトルして死んでいく、ただそれだけの映画で、そこが面白い。虫を解説するCGとアナウンスなどはなかなかイカしてましたよ。CGは全般的に良い。特に、リアリズムをぶん投げている方面のほうがよい。

飯田 僕は藤田君ほどは誉められないですが……。
 映画版でいちばんおもしろかったのは上映前にやってた『シン・ゴジラ』の予告編。
 次におもしろかったのは山Pが仮面ライダー真みたいにバッタ男になっちゃうところ。脚本が『仮面ライダーフォーゼ』も手がけた中島かずきさんで、バッタの遺伝子を注入された山Pが完全に仮面ライダーとして描かれていて、そこはおもしろかった。ジャニーズを使っているのに顔も身体もだんだんバッタになっていく。仮面ライダーとかデビルマンをやりたいんだなあと。だったらもっと露骨に東映ヒーローものっぽくつくってくれれば、そういうふうに観られたのに……(配給は東映ではなくワーナーブラザーズ)。
 3番目におもしろかったのは篠田麻里子がテラフォーマーに踏んづけられて頭ぐしゃって潰れて死ぬところ。元AKBでも武井咲でも、容赦なくぶっ殺すところは好感。
 あとは……どうだろう。実写の『進撃の巨人』は腹を抱えて笑える感じだったけど、『テラフォーマーズ』は頭を抱えて唸ってしまう感じだった。
 ただ日本のTVドラマとしてやっていたらそんなに文句は言わなかったと思う。実際、dTVで配信している特別編のドラマは悪くなかった。でも大画面でお金を払って「映画」として観ると……切ない。
 同じ時期に公開されているマンガ原作映画の『アイアムアヒーロー』やアメリカのヒーローものの傑作『シビルウォー』があるだけに。三池崇史はもともと当たり外れが激しいけれども。

外国人として「クレイジーなジャパニーズ映画」として観よ!


藤田 確かにいびつな出来なんですけどね。三池崇史監督の作品の中で、相当ヴァイオレンスがグロい方で、ぼくはそこが好きでしたね。死体の山、そしてゴキブリの津波。……何かの災害を思わず想起してしまいますね。ゴキブリ津波、もっと何波も襲ってくればいいのに。あれが後半出てこないで、勝てそうなほどの数のゴキブリしかいないのは不満でしたね。それが一番腹が立った。

飯田 テラフォーマーの大群が津波のように押し寄せるのを突っ切るシーンは『マッドマックス』のパロディだし、冒頭のいかにもアジア的な夜の街が『ブレードランナー』だったり、意味のない他の映画オマージュ(?)がちらほら。

藤田 『ブレードランナー』丸パクリは、「意外とよくできているな」って思いましたw なんのためにやっているのか全くわからないですが。そのあとの宇宙船内と宇宙服がダサすぎるんで、あの『ブレードランナー』のクオリティを保てよ! って思った。『ブレードランナー』で使われていた傘を、黒い傘にして、人をゴキブリに見えるように見立てたのは面白かったけど。
 個人的に、真面目に評価をするとすれば、『少林サッカー』とか、インドのシャンカール監督の『ロボット』みたいに、アジアのCGを使ったアクションの変な映画の日本バージョンを観ているような感じで観れば面白いんですよ。
「ジャパニーズがクレイジーなセンスでゲテモノ作ったぜー! ウヒャー!」的な、そういう感じで、一回、日本人である自分をカッコに入れて、外国人として、「変なジャパンの表現が出てきたー」と思ってバッドセンスを観ると面白いんですよ。
 三池監督の『逆転裁判』をぼくは高く評価しているのですが、アニメやマンガやゲームを実写映画にするときの、独自のセンスの悪さというか、ギャグになっちゃう感を無理やり作風や作家性でねじ伏せて、しかもオタクの方面じゃなくてヤンキーのセンスが入るってところが、ぼくは最近の三池作品の美学の進化として、本気で注目しているところでして。
 日本の、変身ヒーローのダサさ、特撮のダサさ、リンプンのシーンにある、ファイナルファンタジーや浜崎あゆみ的なダサさ……というか、ヤンキー的な美学を過剰化させて映画に乗っけている監督として、ぼくは非常に興味深いです。
 ところで、『テラフォーマーズ』の原作の物語は結構無視しまくってますよね。やりたいことをやる材料としか思っていない。原作では、世界の色々な国が協力したり、陰謀があったりするのに、映画では日本だけに絞っていますしね。

飯田 いちおう原作序盤のエピソードは使っているけどね。

藤田 原作にも登場する火星のピラミッドも、出てくるだけで、映画版ではなんにも話に絡んでこない。続編があるかもとにおわすための材料でしかない感じですね。でも、マンガの『テラフォーマーズ』も衝撃だったのは、前半じゃないですか。こんな勢いでキャラが死んでいくの!? っていう、原作前半の感じは、出ていたような気がする。

飯田 原作ではだんだんキャラクターが死ななくなるし。強くなりすぎて。というか科学がエスカレートしすぎて。ほとんどなんでもできちゃう。

藤田 しかし、『進撃の巨人』とか『テラフォーマーズ』に文句をつける人は、実写版『デビルマン』などを観ているんだろうか? 最近のSF系の実写は、むしろぼくにしてみると、大豊作ですよ(笑)。マジで。

飯田 いや、つまんないよ! あれならライダー映画観たほうがいいよ。坂本浩一監督に撮らせたほうがよかった。

藤田 坂本監督のバージョンはそれはそれで観たいですが、これはこれでありだと思いますよ。アクションのスピードとか、CGの質とか、明らかにクオリティ上がっていると思いますけどねぇ……。ぼくは、映画は映画としてアリですね。未来のタランティーノみたいな監督がよその国で数十年後にこの作品の影響を公言して、再評価されるという方に、ぼくは賭けたいな。

ディスられがちな最近の原作の読み方


藤田 原作後半のグダっている感じや、国際的な謀略の部分を削ったのは、よかったと思います。でも、その分、一国に絞ったせいか、排外主義とか貧困とかの方面の隠喩が強くなってしまっていましたね。原作では、国際的に協力しているのに。

飯田 僕は原作2部後半の展開も嫌いじゃなくて。というのも、原作の貴家悠は1988年生まれですが、日本SFのもっとも若い世代に属する吉上亮(『PSYCHO-PASS』のノベライズなどを手がける)が1989年生まれ、『ニルヤの島』『クロニスタ』の柴田勝家が1987年生まれだから、その世代のアクションSFだと思って読んでいます(その世代でいちばん売れてるSF作家とも言える)。
 で、何を評価するかと言うと、この世代の多くが決定的に影響を受けている伊藤計劃っぽいものには、正直もう飽きているわけです。そこに来て貴家悠だけは火星でゴキブリと戦ったり人類同士で内ゲバしたあげく「生命の進化はウィルスによってもたらされたのかもしれない」とか全然違うことをやっている。火星で大暴れなので『火星のプリンセス』とかのエドガー・ライス・バローズ路線かと思ったら「言語は宇宙から来たウィルスだ」的な、ウィリアム・バロウズのほう? と。それを「ヤンジャン」のフォーマットでやっているのがおもしろい。

藤田 ウィルスのところにはむしろぼくは興味持てなかったりするんですよね。それは、90年代に『リング』とかでやったテーマな感じがして。

飯田 いや、最近の「ヤングジャンプ」は本当にすごいわけですよ。『キングダム』があって『ゴールデンカムイ』があって『東京喰種』があって『うまるちゃん』があって……ってキリがないんでこのくらいにしておきますけど。ヒット作だらけ。独特の奇人変人オンパレード(でも熱い)の群像バトルものが「ヤンジャン」の勝ちパターンになっているような印象もありますが、そのフォーマットに乗って熾烈な人気競争を勝ち抜きながら「あれ? 意外とSFやろうとしてるのかな?」と。

藤田 ゴキブリは黒いから、ゴキブリを火星に送り込むと熱を吸収してテラーフォーミングされるっていうアイデアは(元ネタはあるらしいですが)最高だったんですけどね。あれ並のアイデアを、国際的な謀略や、人類とゴキブリと生命とウィルスという、割と王道のSF的なテーマの結末に持ってこれるのか…… それをやってくれたら、真の傑作に値しますよ。

飯田 なんでこの作家は国家間の駆け引きにこんなにこだわっているのかが謎で。のちのちに回収される伏線としてやっているのでなければ、不用意に複雑にしている感じがしますからね。各国の古代文明とかと関係づけて半村良の『妖星伝』並みの壮大なSFに仕上げてほしい。

藤田 『妖星伝』並みになったら、完結までにものすごい時間がかかるし、18禁になるでしょうw しかし、そのぐらいのスケールのSFに、若い世代の書き手が挑戦しているというのは、嬉しいことです。見たことないような展開してくれないかとワクワクしますね。

飯田 噛まれても感染しないゾンビものというか、ゴキブリがゾンビになったような話、つまりロメロ型とは違うゾンビものにも見える。
 くわえて言うと、人間側が身体改造を全然なんでもないことと思っているのも特徴で、肉体的には明らかに人外になっているのに人間だと思っていて、でもヒト型をしているテラフォーマーのことは人間だとは思わないという線引きをする。ふしぎといえばふしぎ。あれで進化したゴキちゃんのほうが擬態能力を身につけてほとんど人間になったら、しゃべるかどうか以外に人間と違いないじゃない。人類社会に溶け込めるし、人間並みのことはたいがいできるしさ、あいつら。
 そしたら『テラフォーマーズ』でも「人間が正義と言えるのか?」「ほとんど人間と同じ知的能力を備えている存在をなぜ人間として認めないのか?」というテーマに突入していくはず!

藤田 そうそう、ぼくもこれ、ゾンビものとして観たんですよ。閉鎖的な状況で、敵の大群。新種のゾンビだと思ってゴキブリ人間を観たら、面白いですよ。『アイアムアヒーロー』と同じように、死骸の山をわざと見せ付けるようにしてくる残虐さには、物語どうこうとかを超える何かの衝撃がありましたよ。津波や地震で死んだ死者達の死骸をぼくたちはマスメディアレベルでは目にしないのですが、それを思わず想起させられる。

テラフォーマー役には竹内力が必要だった!?


飯田 映画版は三池崇史の傑作『DEAD OR ALIVE』みたいに敵役(巨大ゴキブリ)を竹内力に演じさせればもっとおもしろかった。そんで『DOA』みたいに最後はドラゴンボール化して元気玉みたいなのぶっ放したり、なんの前触れもなく死んだと思ったらひょっこり復活したりして。
 映画版『テラフォーマーズ』は(いくつかの最良の三池映画がそうであるように)もっとあからさまにリアリティレベルをテキトーにつくってもらえれば気楽に観られたんだけど、マジに見えたのが個人的にはしんどかった。

藤田 『DOA』は、ヤクザ的なリアリズムから、元気弾を撃ち合うふざけた展開になるのが衝撃だったとは思うんですが、最近の三池さんの映画は、既に「元気玉」を最初から撃ち合っている感じとして観たらよい気がします。『クローズZERO』とか『十三人の刺客』は比較的「イカれてない」しっかりしたよく出来たアクションですが、それよりはぼくは、バッドセンス全開になる方面に期待しています。
 うーん、しかし、ぼくの感性がおかしいのだろうか、ちょっと悩むなぁ、でも面白かったんで、ぼくはアリですね。むしろ、もっと過剰になってほしいぐらい。