「ジュンク堂書店」ブックカバーの謎デザインは何を意味しているのか
先日、「ジュンク堂書店」のブックカバーがふと気になった。ローマ字で斜めに印刷された「JUNKUDO」の文字の上にあるデザインをいつも目にしているのに、そういえばこれが何なのかよくわからない。一体誰の作品なのか。そして、これは字なのか、それとも絵なのか……。丸善ジュンク堂書店広報に問い合わせてみた。
正体は兵庫県西宮市の芸術家である津高和一氏の抽象画だった。兵庫県神戸市で創業したジュンク堂書店の幹部が津高氏と面識があったのがきっかけで、1986年に新しいブックカバーを作る際にデザインを依頼したという。津高氏からは計6点のデザイン案が提示され、検討の結果現在のものが採用された(当時はカバー全体に大きく印刷されていていた)。「JUNKU」の文字を有名人のサインのように繋げて書いたものではと筆者は考えていたが、「特にモチーフはありません」とのことだ。
津高氏の抽象画の特徴について、1996年に追悼展、2011年に生誕100年を記念した「架空通信展」を企画した西宮市大谷記念美術館に話を伺った。学芸員の池上司さんによると、文学に造詣が深く、絵を描き始める前から詩の創作を行っていた津高氏の抽象画は、心の内面や人間の本質的な部分を投影しているとのこと。筆で描いたような線とキャンバスの余白の間には「自己と他者・社会の関係」が表現されているという。
津高氏は「芸術とは作る側と見る側の双方がいてこそ成り立つ」という考えのもと、さまざまな芸術家と対話を重ねていた。1962年には自宅の庭で「対話のための作品展」を開いて地元住民との交流の場を提供。1980年には河川敷で全長90mにおよぶテントを設営して、誰でも出品できる「架空通信テント美術館」展を開催している。その経験が作風にも反映され、年を経るごとにスタイルが常に変わっているのも特徴だそうだ。
一見するとただ走り描きしているような線は、パレットナイフや注射器を用いて油絵の具で描いている。
「写真で見るとわかりませんが、実際の絵は同じ色でもグラデーションがあったり、微妙な重ね塗りがあったりと、非常に絵画的なプロセスで描かれています。わかるわからないではなく、パッと見た時の人を惹きつける力強さがありますね」(池上さん)
((TAT)SUYA)