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大きな地震が相次いで発生している熊本県。

被災地では車中へ避難している人が、エコノミークラス症候群となり、「震災関連死」が新たな問題として浮上してきている。
避難所での生活の大変さは、経験したことのない者には想像に余りあるものだが、さらに気になったのは「咳」の問題だ。

かつてPTAと地域合同の防災訓練として、小学校の体育館に宿泊したことがある。
体育館での宿泊からイメージされるのは、寒さや、硬い床に寝ることによる体の痛みやむくみなどだったが、実際に宿泊してみると、いちばん辛かったのは、実は、のどのイガイガや、咳が止まらなくなったことだった。
1人、また1人と、咳をする者が増え、夜中にマスクを配って歩いた。特に自分は喘息気味のせいもあってか、1晩過ごしただけなのに、その後2週間ほど咳が止まらなかった。
自分以外も、後々まで咳が続いた人たちは、何名かいた。体育館にはチリやホコリがあったり、空気が乾燥していたりするためだろうか。

声を出さない、ヒソヒソ話からつながるリスク


そうした疑問について、音痴矯正ドットコムを運営するヴォイスティーチャーの高牧康さんは言う。
「これこそ、誤嚥(ごえん)の始まりです。声を出さないでいる、または、ヒソヒソ声ばかりで会話しているために、声門閉鎖が弱まってきているのです」

声を長く出さないでいると、声帯の筋肉が弱まって、2枚の声帯をぴったり閉じることができなくなり、隙間から異物が肺の中へ入り込みやすくなるそう。
「これを『誤嚥』といいます。誤嚥すると、異物が肺の中に入り、そこで炎症を起こします。それを誤嚥性肺炎といいます。また、加齢や、声を出す機会の減少により、声帯の筋肉が使われなくなり、痩せていくことを『声帯萎縮』といいます」

筋肉は、使わないでいるとすぐに弱くなってしまうもの。喉も同じで、一日話さないでいることで、声帯の筋肉が弱くなってしまうために、発声がスムーズにいかなくなるのだと言う。
「誤嚥は、物を食べるときだけ起こるのではありません。唾を飲んだり、意識的に飲まなくても唾が気管に流れ込んでしまったりすることがあります。これを唾液誤嚥といいます。唾液がきれいであれば良いのですが、避難所では歯磨きができなかったり、トイレに行くことを避けるために水を飲むことを控えたりする傾向にあると聞きます。そうした場合、唾液が汚れやすくなり、肺炎のリスクは一層高まるのです」

予防には、みんなで歌を歌うこと


誤嚥性肺炎になりやすい人は、
(1)高齢者で、あまり声を出さない人
(2)ヒソヒソ声で話す癖の人
だそう。
特に避難所では、高齢者が多く、環境の変化や不安などから、声を出していないこと、周りへの気配りから、ヒソヒソ声で話していることが考えられると言う。

こうした誤嚥性肺炎を防ぐために、高牧さんが勧めるのは、「みんなで歌を歌うこと」だ。
「歌うという行為は、声帯や呼吸器官の全体の使用量が会話よりも断然増えます。また、裏声などの高い声を発することで、声帯を伸ばすので声帯の弾性を維持するためのストレッチ効果を得られます。歌うときは、深めの呼吸をしますが、回数は減るなどの呼吸リズムが変わります。呼吸リズムが変わると、副交感神経の優位性が引き出され、リラックスへと導かれていきます」

また、歌うことによって、感情を表に出すことができ、ときには涙が出ることもある。
「落涙は、緊張や興奮を促す交感神経から落ち着きを促す副交感神経へ切り替わることによって起こるといわれています。泣きたいのに泣けない環境から、歌いながら思いっきり泣いていい環境を作ってあげましょう」
オススメは、『ふるさと』や『上を向いて歩こう』『明日があるさ』『世界に一つだけの花』など、みんなが知っている歌で、なおかつ元気が出て、ちょっと涙が出そうな曲だそう。

まだ歌を歌う気分になんてなれないという人も多いとは思う。
でも、東日本大震災の際には避難所の各所では、エコノミー症候群を防ぐためにラジオ体操が励行されていた。
加えて、咳の蔓延や、誤嚥性肺炎を防ぐために、のどのストレッチとして歌を歌うことも取り入れてみてはどうだろうか。
(田幸和歌子)