週刊文春、週刊現代、an.an、女性自身、ジュノン――コンビニや小さな本屋でも手に入るような雑誌で本棚はぎっしりと埋め尽くされています。その数は約77万冊。

「これでもまだまだ入りきらなくて、雑誌を横置きにしたりして、なんとかスペースを確保していますね」案内していただいた黒沢さんは苦笑まじりに肩をすくめました。

東京都世田谷区、八幡山にある大宅壮一文庫。研究者やマスコミ関係者が多く集まるというこの図書館は一体どのような場所なのでしょうか。

麻薬・不倫問題あると資料の問い合わせ殺到



そもそも、大宅壮一文庫はどういった経緯ではじまった図書館なのか。
今回、お話をうかがった事業課の黒沢岳さんによると、もとは評論家の大宅壮一氏(1900年〜1970年)が生前からかき集めていた大量の蔵書を、知人や友人に公開していたのがはじまりだったそうです。

「本人の生前の意向もあって、一般の方でも気軽に利用できるようにしたのがきっかけです。大宅壮一自身は珍本や奇本の類ではなく、どこでも手に入る雑草のような雑誌にこそ集める価値があるのだという意見を持っていた方でした。実際、所蔵されていたものの多くも、巷で買えるような週刊誌や大衆誌です」

開館当時は、マスコミ関係者の一部や、大宅壮一氏にゆかりのあった方々で、ひっそりと利用されていたそうです。しかし、時の総理大臣、田中角栄が起こした収賄事件(田中金脈問題)が発覚してから、有名なジャーナリストや評論家たちが施設を利用しはじめ、そこから利用者も急増しました。

「当時は(資料調査のため)黒塗りのハイヤーが施設の前を埋め尽くすという今では考えられない光景が広がっていたと聞いております(笑)。そうしたことから、ジャーナリストの方々に広く知られる存在になっていきました」

現在も、麻薬問題や不倫問題など、ひとつ大きな事件が動くと、それに関する資料のお問い合わせが殺到しているとのこと。芸能やトレンドといった時代の波の中で消えて行きやすい情報に的確にアクセスできる。そこが、大宅壮一文庫の特色なのです。

去年雑誌で最も特集されたタレントは「嵐」



しかし、大量の雑誌が集まっていても、どの雑誌に何が書かれているのかを探すのは非常に大変。そこで、大宅壮一文庫は、ウェブ上でキーワードを入れて簡単に検索できる「Web OYA-bunko」を運用しています。雑誌の中身はもちろん、誰が連載をしているのか、特集されているものは何かを、事細かに調べることができます。

「専門のスタッフが一冊の雑誌を読んで、中身からタイトル、著者名までをリスト化して索引できるようにキーワードにまとめています。だいたい一冊で一日かかる作業なので正直大変な仕事ですね…」

実際、どのようなキーワードが索引として登録されているか見せていただきました。2015年度の人名索引では、250件数でジャニーズの嵐がトップ。つまり去年、大小の記事あわせて最も取り上げられたタレントということになります。(2位は199件で秋篠宮佳子様でした)。

キーワードの多くは、犯罪事件や芸能ニュースが圧倒的に多いのですが、中には、「おそ松さん」や「アイカツ!」などのアニメや、「ライザップ」、「おにぎらず」などブームになったものも。
「記事を書いたライターさんにも『こんな小さな記事まで索引に登録されているんですか!』と驚かれることもあります。中には、『黒歴史なんだ。載せないでくれ…』と言う人もおられますね(笑)」

知られざる雑誌の歴史もわかる、バックヤードツアーの魅力とは




普段は、保管の問題のため直接書架の中に入ることはできませんが、今回特別に案内していただきました。

二階から地下まで、いくつにも分けられた部屋の中は、まさに雑誌の山。ぎっしりと詰められた紙の重みで歪んでしまった本棚もあるほど。これらの多くは、大宅壮一文庫の試みに共感してくれる方々の寄贈により成り立っているそうです。

気になって、いくつかの雑誌の創刊号をめくってみました。




大正5年から現在までつづく『婦人公論』ですが、創刊号の特集は、「嫉妬の心理学的研究」や「女子の結婚適齢」など。この頃から結婚適齢期って気になる話題だったんですね……。




1970年からつづく『an.an』は今のものよりかなり分厚め。フルカラーの写真が多く、今でも充分オシャレなファッションがあって驚きます。




1987年当時の流行を追いかけていた『日経トレンディ』ですが、宅配コーヒー特集など、今読むと「え!?そんな時代があったの!」と言いたくなる特集が多く、夢中で読んでしまいました。



今回、現在との変わりように驚いたのは『ジュノン』です。1973年に発刊された頃は、30代女性をターゲットにした少し大人な内容になっており、今の女の子が手に取るような雰囲気ではありませんでした。雑誌は時を経て変わっていくものなんですね。

ここに挙げたものはもちろん、ごく一部です。普段はのぞくことができない書架ですが、大宅壮一文庫は、月に一度、バックヤードツアーという企画を開催しており、そこでは案内スタッフの方からレクチャーを受けながら閲覧することができます。

ジャーナリストや研究者などの利用が特に多いこの図書館ですが、黒沢さんによると、週末になると、少し変わったお客さんがよく来られるのだとか。

「好きなアイドルの情報を追いかけるために、こちらを利用される方々も来られますね。よく、芸能関係雑誌の閲覧をされております。また、最近では若い大学生の方が、昔のトレンドや風俗を調べたいということで利用されることも多くなりました」

知的好奇心を掻き立ててくれるだけでなく、好きなものをディープにどこまでも探ることができる大宅壮一文庫。雑誌の図書館だからこそ見つけられる発見を、週末探してみてはいかがでしょう。



大宅壮一文庫HP http://www.oya-bunko.or.jp/
施設利用案内・料金などはこちら http://www.oya-bunko.or.jp/guide/tabid/67/Default.aspx

(ゆりいか)