ライター・編集者の飯田一史さんとSF・文芸評論家の藤田直哉さんによる対談。覚せい剤についての楽曲「リハビリマーシー」の背景にある文脈について語り合います。


まずはマーシーが黒人音楽好きだったことを思いだそう!


藤田 ヒップホップグループ9SARIが、なんと、田代まさしとコラボした曲「リハビリマーシー」と、狩野英孝とうわさになった加藤紗里とコラボした曲「ガリガリサリ」を出していて、これが色々な意味でヤバイですねw 阿修羅地獄というトークイベントで四海鏡さんから紹介してもらって以来、ヘヴィーローテションです。



飯田 この2曲、一部ネットニュースですでに話題になっていますが、ウェブ上にはこの2曲を楽しむための背景の解説が足りていないと感じたので「聴き方」を紹介していきたいと思います。
 まず9sariというのは、いまMCバトルを地上波深夜でやって大人気の番組「フリースタイルダンジョン」にも出演している、新宿を拠点とするラッパーの漢a.k.a.GAMIさんが主催しているレーベル/会社ですね。

藤田 何年か前に、高田馬場らへんでヒップホッパーが路上で歌っているのをよく目にしましたが、あの辺、多いんですよね。
 「リハビリマーシー」のYouTubeにあるPVは、田代さんが出演していて、「だいじょうぶだぁ〜」を連発するという内容。田代まさしに対して、2ちゃんねるとかで書かれるような「ほんとにもう薬物やってないの?」みたいなdisを曲にして、それに田代が「だいじょうぶだぁ〜」って応じるすごい曲w 「だだだいじょうだ〜↓ だいじょうぶだ〜↑」という箇所に笑い死にしそうになりましたw

飯田 「大丈夫だぁ」は言うまでもなく(c)志村けんなフレーズ。マーシーがPVでBボーイたちといっしょに体を揺らすところが最高すぎる。
「リハビリマーシー」は自分も薬物所持で捕まったことのあるD.Oさんも出演していて、マーシーを「お前ほんとに薬やめたのかよ」みたいな感じでいじっているけど「おまゆう」感も含めておかしい。

藤田 だから、田代さんへの関心も、単なるいじりではなく、シンパシーもあるのではないかと……。
 D.O.さんは、昔「練マザファッカー」として、ダウンタウンのバラエティ番組『リンカーン』に出ていたのをぼくは覚えてます。なんにでも「メーン」をつける語尾が持ちギャグみたいになってましたね。掛け合いのパートで、田代さんが、覚醒剤が好きなんじゃないですかって絡まれたとき、「好きだったけどだよ!」って返すのがリアルです。
 あ、ちなみにコネタっぽいことを言うと、中島らもさんによると、覚醒剤が好きなのは日本人の特性らしいです。工場のような単純労働に向いているらしくて、シフトの時間がが一瞬で終わったように感じるらしい。麻薬の中では汚らしい部類で好きではないとも書いていました。by中島らも。

飯田 「リハビリマーシー」はギャグだと思っているひとが大半のようですが、マーシーはもともとミュージシャンですからね。今でも「ラッツ&スターにだけは戻りたい」と言っていて、彼にとって音楽は特別なものなのです。
 マーシーがやっていたシャネルズ(のちにラッツ&スターに改名)は黄色人種が顔を黒く塗ってドゥー=ワップをやっていたわけで、日本人なりにブラックミュージックを昇華してポピュラーにした(つまり日本語ラップと同じ発想の)先駆者、であることは間違いない。みんなもう忘れていますがあの山下達郎にも誉められていたんですよ、シャネルズは。
 つまりこの曲はアフリカ・バンバータが偉大なるパイセンであるジェームス・ブラウンと組んだようなもの、エリック・クラプトンがB.B.キングと共演したようなものなんです。まあいちばん近いのはコカインで捕まって引退していたスライ・ストーンが若手のジョン・レジェンドとかにトリビュートされて復帰したことでしょうね。ちなみにスライの来日公演はそれこそ「大丈夫か?」と言いたくなるような……だったという。

藤田 ダフトパンクが、テクノの先輩であるジョルジオ・モロダーの喋りをサンプリングした曲にちょっと似た感じはなくもないですね、リスペクトの感じは。

飯田 ウソだと思うならシャネルズの『ダンス!ダンス!ダンス!』というアルバムをApple Musicとかで聴いてみてください。寸劇があってから曲に入るというスタイルが「リハビリマーシー」そっくり。しかも表題曲では「Yo! メ〜ン!」とか言いまくっていてD.O.さんとまったく同じノリ。

「ラーメンつけ麺カモンメーン」へのアンサーソングが待たれる!


藤田 順番が前後しましたが、タレントコラボもの(?)第一弾「ガリガリサリー」のほうは加藤紗里さんに対する「整形してるんじゃね?」的な世間の中傷disをラッパーが代弁し、加藤が「安心してくださ〜い」っていう内容ですね。

飯田 「ガリガリサリー」はD.O.の「ラーメンつけ麺カモンメーン」というフレーズが最高ですね。一生忘れられないパンチライン。

藤田 あれすごいですね、狩野さんの「ラーメンつけ麺ぼくイケメン」というギャグのアレンジw

飯田 この「ガリガリサリー」の次に「リハビリマーシー」を出したという流れがポイントだと思います。加藤紗里さんの元彼は七股だか八股らしいじゃないですか。それってビル・クリントンやタイガー・ウッズ同様にセックス依存性が疑われるレベルですよね。もしそうだとすると脳の報酬系が壊れてる可能性がある。つまり元ジャンキーのマーシーと大差ないドーパミン受容体になっていて、もはや本人の意思ではやめたくてもやめられない状態なのかもしれないということまで示唆してしまうわけです。加藤紗里さんのほうは大丈夫だけど、ウワサの神主のほうが大丈夫じゃないかもしれない。
 いずれにしろ50TA(a.k.a.狩野英孝)さんはビーフ(バトル)をしかけられたのも同然なのでアンサーソングをYouTubeに今すぐアップしないと! 「ロンドンハーツ」で見ているかぎり、狩野さんはシド・バレットと同系統のアシッドな作詞作曲の才能がありますから。あのナチュラルサイケデリックな音楽で返答してほしいですね。

藤田 狩野さんの「インドの牛乳屋さん」とかすごいですよねw 即興で詩を作っていくプロセスの、イージーな連想の感じは驚くべきですよ。これは褒めてますが。ロンハーのDVDで観てください。で観てください。

飯田 狩野さんのあの即興性はMCバトル向きですよ。ラップは糞だけど。

藤田 個人的に一番好きな狩野さんの曲は「ノコギリガール」かな。あれは韻をすごく踏んでいますからねw

飯田 9sari主催でD.O.VS.狩野英孝を実現してほしいですね。そしてトラックはラッツアンドスターをサンプリングしたものを……。

炎上狙いの裏に隠された優しさ


藤田 しかも、「炎上」と「ヒップホップ」を重ねるという、現代性のあるコンセプトを持った意欲作なんですよ! 今回の二曲は! ネット社会とヒップホップを重ね合わせた現代性!

飯田 ユニット名が「炎上BOYZ」だからね。

藤田 どうですか、炎上してます?

飯田 「ガリガリサリ」は45万回再生以上、「リハビリマーシー」は30万回くらいなので、あるていど炎上したと言っていいのでは。マーシーのほうがやばいと思うんだけどなあ。

藤田 マーシーの最初の逮捕って、2000年ですからね。もう16年ですよ。今時の若い子はもうその事件自体知らない。ましてや、『志村けんのだいじょうぶだぁ』も知らないのではないでしょうか。ぼくは毎週見ていたので、マーシー逮捕はショックですよw
 ちなみに去年の九月に、『志村けんのだいじょうぶだぁ 30周年に向けてスペシャル』が放送されまして、ぼくはこのタイミングで田代まさしさんの復活あるんじゃないかな? 大発表みたいに、突然復帰が発表されるんじゃないかと思って楽しみに観ていたら、まったくないまま終わってしまった。なにかが大丈夫じゃないんでしょうね。

飯田 でもショーケンだってシャブでパクられたけど復帰してますからね(ちなみに名曲「GAMBLER」では「俺が悩みに悩んだ あの紫の煙」とか「また俺をPoliceに売るのかい」とか明らかに葉っぱの話をしていたりする)。もちろん覚醒剤はだめですが、本人にもどうしようもなくなるのがドラッグのこわいところなわけで、マーシーのリハビリに寛容になってほしいですね。漢さんの「フリースタイルダンジョン」での紹介でも「ガリガリサリー」については言及しても「リハビリマーシー」については完全スルーされているのはおかしい!

藤田 「世界に一つだけの花」だって、いつの間にかいい曲扱いされてるんだからねぇw 一番納得いかないのは、デヴィッド・ボウイが亡くなった途端にみんな追悼で語りだしたけど、あの人も薬物中毒なってるでしょう。その経験と治療の苦しみが反映されたのが『ロウ』だといわれてますが。ボウイはいいのか? とかちょっと思った。

飯田 クラプトンだって元ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのジョン・ケイルだって、有名な音楽家で薬物にハマった時期もあったけど中毒から脱して今はやめている、という人はたくさんいますからね。
 漢さんは以前所属していたLibra recordと揉めていて、いまだにLibraに所属している晋平太さんのことをディスりまくっている(なお「フリースタイルダンジョン」では晋平太がバトルの審査員、漢が挑戦者を迎え撃つ「モンスター」役で共演)一方で、笑える炎上ネタに見えつつも渦中のひとを救済するような、じつはやさしさ溢れる曲を放ってきているのがおもしろいところなんです。仁義を切らないやつは嫌いだけど……と。
ほとんどのひとが見捨ててもうタレントとしてはテレビに出れないマーシーに手を差し伸べた(?)のが9sariだった。これでYouTubeから復活したらすごい今っぽい。

藤田 ビートたけしさんが、スキャンダルを起こした人を救済するのとちょっと似てますね。よりハードなところに漢さんは突っ込んでいる感じですが……

飯田 ちなみに歌詞の「だいじょぶか?」「だいじょぶだぁ」は茶化しているようにも聞こえるけど、「リアルを追求する」といってラップと行動の言行一致を徹底し、MSCという自分のクルーの人間がラップの中で相手を「刺す」と言ったらガチで相手を刺しに行った(くわしくは漢さんの著書『ヒップホップ・ドリーム』参照)のMC漢に対してマーシーが「だいじょぶだぁ」と宣言したことが重要なんですよ。これでもしウソついてたらMSCルール的には完全アウトですから。

藤田 そういえば、ぼくも過敏性腸炎の薬とか飲んでて、そうしたらヤク中扱いされて誹謗中傷されたんですが、この場を借りて「だ〜いじょ〜ぶだ〜」ってdisに反論していいですか?w

飯田 「安心してくださ〜い♪」

藤田 ぜんぜん大丈夫な感じしないし、安心できないw

飯田 ともあれ「ガリガリサリー」「リハビリマーシー」はいろいろ文脈を踏まえて聴くとより楽しいですよ、というお話でした。シャネルズの初期メンバーは桑マン含めて未成年への淫行でつかまったけど再起したんだぞ!

藤田 コネタ満載でしたね! ぼくが過敏性腸炎の薬飲んでるとかね!
 もう一つ、読者の皆さんにとって有意義なコネタを提供しておきます。最近ぼくの過敏性腸炎は軽快してきました。

飯田 ???

藤田 「お前のコネタはいいよ!」がほしいところでしたね。

飯田 だいじょぶか?

藤田 安心してくださ〜い♪