どんな状況でも自分を見失わない、それがデイの強さ(撮影:上山敬太)

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 マッチプレー選手権のベスト4が決まったときのこと。ローリー・マキロイが、こんなことを言っていた。
優勝カップを手に微笑むジェイソン・デイ
「欧州のゴルファーはマッチプレーで育つ。だから、マッチプレーの経験が少ないアメリカの選手よりマッチプレーに強い。ライダーカップを見れば、わかると思うけどね」
 実際、ベスト4に残ったのは北アイルランドのマキロイ、オーストラリアのジェイソン・デイ、南アのルイ・ウエストヘーゼン、そしてスペインのラファエル・カブレラベロ。米国人は1人もいなかった。そしてマキロイが指摘した通り、ライダーカップでは欧州が圧倒的な強さを誇っていることを思えば、彼の言葉には「なるほど」と頷けた。
 マキロイ自身、昨年のこの大会の優勝者。彼は2014年大会の2日目にハリス・イングリッシュに負けて以来、マッチプレーというもので、ただの一度も敗北していない。
「明日も僕は負けないと思う。僕はこれまで3位決定戦というものに出たことが一度もないけど、明日もきっと3位決定戦に出ることはないと思う」、それほど彼はマッチプレー2連覇に自信を抱いていた。
 しかし、その自信は準決勝でデイに打ち砕かれてしまった。マキロイの前日の言葉をあらためてデイに照らしてみれば、ジュニア時代を不良少年として過ごし、ハイスクール卒業後、すぐにプロ転向して渡米して下部ツアーで下積み時代を過ごしたデイには、幼少時代からの豊富なマッチプレー経験というものはない。
 それでもデイは2014年のこの大会を制し、さらに今年、マッチプレーに対して絶対的な自信を抱いていたマキロイを1アップで下し、ウエストヘーゼンとの決勝を5&4で圧勝して、マッチプレー選手権2勝目、アーノルド・パーマー招待に続く2週連続優勝、米ツアー通算9勝目を挙げ、そして世界ナンバー1に返り咲いた。
 振り返れば、今週はデイにとって決して有利とは言えない出来事や状況が重なった1週間だった。前週に優勝したデイは、優勝者に寄せられる数々のリクエストをこなしていたため、マッチプレー会場入りが遅れてしまった。開幕前日の火曜日に初めてオースチンCCに足を踏み入れ、「7ホールを歩いてざっと見て回るのが精一杯だった」。残りのホールは見ることさえできぬまま、水曜日の初戦を迎え、終盤には激しい腰痛に見舞われながらも勝利をつかんだ。
 病院に行ってMRI検査を受けるべきか。大会を棄権すべきか。来たるマスターズを戦うことはできるのか。悪いことは重なるもので、デイのトレーナーは今週は南アへ行っていて不在だった。「でもバッバ・ワトソンのトレーナーがケアをしてくれた」。チーム・デイの面々の中の3人が「プレーを続行すべきじゃない」とデイに棄権を強く勧めた。
「でも、僕は戦いたかった。どうしても勝ちたかった。ここで優勝して世界ナンバー1に返り咲いて、世界一のプレーヤーとしてオーガスタに行きたかった」。その想いを胸に抱き、デイは5日間、7マッチを戦い抜いた。
初戦から3&2、5&3、不戦勝という具合に勝ち進んできたデイは、18番までもつれ込んだマキロイとの準決勝の際に初めてオースチンCCの17番と18番を自分の目で見た。「どんなホールなのか、想像すらできていなかった」。それでもデイはどちらのホールでもパーを拾ってマキロイを下し、決勝ではウエストヘーゼンを下し、チャンピオンになった。
 マッチプレー経験はマキロイを始めとする欧州選手のほうが格段に豊富。コースに関する知識テキサス育ちで幼少時代から何度もオースチンCCをプレーしたジョーダン・スピースのほうが格段に豊富。だが、最後にモノを言ったのは、そういうものではなかった。
 過度の期待や欲望や過信が自分や自分のゴルフを乱すことを、デイは自身の生い立ちや過去のメジャーにおいて何度も何度も痛感させられてきた。
「今はジョーダンにもローリーにも僕にも、たくさんの期待が寄せられ、あれやこれやと煽られる。その中で、どこまで自分を見失わずにいられるか。どこまで頑張りすぎずに踏ん張れるか。今週の僕はそれができた」
 マッチプレー経験やコース知識は少なかったけれど、フライングしては躓き、傷つき、悔し涙を流した経験はデイが一番豊富だった。だから、そうならないための術をデイが一番上手に身に付けていた。それが彼の最大の勝因だったのだと私は思う。
文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)

<ゴルフ情報ALBA.Net>

【舩越園子コラム】
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