11月13日の夜、パリの中心部で同時多発テロが発生し120人以上の市民が死亡した。フランスのオランド大統領は、イスラム国の犯行と断定し、フランス全土に非常事態宣言を発した。
 フランスは9月から有志連合の一員として、イスラム国への空爆に参加しており、今回のテロはそれに対する報復行動だとみられる。
 もちろん、テロは絶対に許される行為ではない。しかし、有志連合の一貫した姿勢は、「テロリストとは対話しない。殲滅する」というものだ。

 これで本当に問題の解決につながるのだろうか。イスラム国フランス州による犯行声明は次のように述べている。
 《愚か者のオランドがサッカー観戦に興じている間に、同胞たちは十字軍の中心地を恐怖に陥れた。同胞たちは神の助けにより、弾丸を使い切った後に自爆した》

 キリスト教の諸国が聖地エルサレムを奪還するため、イスラムに十字軍を派兵したのは、700年以上前の話だ。それがいまだに怨恨として残っている。そして、犯行声明は、次のようにも言っている。
 《これは攻撃の始まりに過ぎない。フランスと同じ道を歩む国々は、我々の標的リストの最優先にいることを自覚しなければならない。十字軍がイスラム教徒への空爆や預言者ムハンマドへの侮辱を続ける限り、死のにおいから逃れられない》

 事件を受けて先進国の株価は一斉に下落したが、2001年の米国同時多発テロのときと比べると、下落率は小さい。しかし、10月にエジプトで起きたロシア機の墜落事件も、イスラム国の犯行である可能性が高まっている。今後、テロが他の先進国にも広がっていけば、世界経済の崩壊にもつながりかねない。
 一部のメディアは、イスラム国をISと表現し、凶悪なテロリスト集団というラベル貼りをしている。しかし、イスラム国の支配地域には住民がおり、そしてイスラム国の思想を支持する人たちが世界中にいて、彼らを支援している。
 イスラム国の住民の目からみたら、米軍の無人機が飛来して空爆を繰り返し、一般市民を巻き添えにしているのだから、彼らが有志連合に怨恨を抱くのは、無理からぬことなのではないのか。

 私は、イスラム国を問答無用で斬り捨てるのではなく、まずその言い分を聞くことから始めるべきではないかと思う。それは、テロに屈するということではない。和解の糸口を探すことが、報復の連鎖を止める第一歩になるのだ。
 1940年、ナチスドイツはフランス国境を越え、4年間にわたってフランスを占領した。そのため、戦後の独仏は犬猿の仲だった。だが、外交努力の積み重ねで、いまでは大きく関係を改善している。
 ナチスドイツは、ホロコーストで1000万人とも言われるユダヤ人の大量虐殺を行った。しかし現在、ドイツとイスラエルが対立関係にあるわけではない。
 いま日本に求められているのは、有志連合の後方支援に回ってイスラム国への攻撃に加担することではなく、むしろイスラム国と欧米諸国との対話のお膳立てをすることではないだろうか。そうすることが、長い目で見たときに、世界経済を崩壊から救う唯一の道だからだ。