チーム最多7本のシュートを打ちながら、ゴールを奪えなかった本田。結局、個の力が足りないのだろうか。写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

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 ロシア・ワールドカップに向けての第一歩から、いきなり躓いた。明らかに格下のシンガポールと、しかもワールドカップ予選を戦ううえで験がいいはずの埼玉スタジアムで、負けに等しいスコアレスドローに終わったのだ。

【マッチレポート】日本 、決め手を欠きドロー発進…

 いくつもの決定機が相手GKのファインセーブやバーなどに阻まれ、運に見放された面も確かにあっただろうが、“敗因”はそれだけではない。
 
 最大のそれは、言うまでもなく攻撃面での工夫のなさ。そもそも誰を起点にして、どう崩すのか。まったくと言っていいほど連動性に欠け、そうしたベースさえ見えなかった印象だ。
 
 引き気味のシンガポールを相手に縦への速さはほぼ封じられ、どうにかボールを前に運んでも丁寧さが求められるエリア内でミスのオンパレード……。香川も、岡崎も、宇佐美も、そして本田でさえも敵に恐怖心を植え付けるようなフィニッシュブローを最後まで打ち込めなかった。
 
 ハリルホジッチ監督が「16メートルより前のFKがなかった」と指摘したとおり、この日の日本は綺麗にやろうとする意識が強過ぎたのかもしれない。
 
 なにがなんでもゴールを奪うというようなチャレンジ精神が欠けていたのは、「なかなか点が入らないと慎重になるというか、自分たちで考える時間が長くなってしまった」という長谷部のコメントからも窺い知れる。
 
 突き詰めればオフェンス面の課題はいろいろと出てくるだろうが、岡崎の言葉──「戦い方じゃない。決めるか決めないかのところで、ただ決められなかっただけ」がすべてを物語っているとも言える。
 
 日本のシュート数は23本、CKは14本。それでも肝心のゴールを奪えなかったのは、個の力がまだまだ足りないという結論にも行き着く。岡崎が「こういう試合を何回もしてきている。またかという想いが正直ある」と言ったのも、最終局面で詰めを欠いた自分に対する不甲斐なさに怒りを感じたからだろう。
 
 悔しさは、ミドルが1本と積極性を欠いた長谷部からも伝わってきた。
「これだけのチャンスがあって決められなかったのは今日が初めてではない。アジアカップ(のUAE戦)も、ブラジル・ワールドカップのギリシャ戦でもそうでしたし。最後の部分でなにかが足りないということを痛感しています」
 結局のところ、1年前のワールドカップからなにも変わっていないのではないか。スコアレスドローに終わったギリシャ戦、ひとり退場者が出て数的優位を得ながらも崩し切れなかったあの凡戦から、時間は止まったままなのかもしれない。
 
 長谷部が「今日のような相手には縦に速いサッカーは難しいと言えば、そうだと思う」と吐露したとおり、引いて戦う相手への攻略法は見つかっていない。狭い局面を打破する技術や球際の強さがただ単純に欠けているのか、それとも、ハリルホジッチ監督が再三言うように「チームを作るための時間がまだまだ足りない」のか。
 
 いずれにせよ、本番でこそ問われる成長力をワールドカップ予選の舞台でも示せなかったのは事実だ。1年前のギリシャ戦、アジアカップ準々決勝のUAE戦、今回のシンガポール戦すべてにおいて、日本が陥ったのは“ポゼッション自滅”(シンガポール戦のポゼッション率は65.7パーセント)。ボールをキープできても効果的な攻撃につなげられない重病だ。
 
 ザッケローニ時代から頻繁に見られるようになったこの持病を克服するには、荒療治も必要だろう。例えば現状のチームを解体し、“ザック色”に染まっていないメンバーを軸に“ハリルカラー”を新たに植え付ける。
 
 それがベストな方法かはさて置き、幸い、8月には国内組で臨む東アジアカップがある。チームを見つめ直す良い機会になるはずだ。
 
 対戦国の日本対策が進むなかで、アジアの壁を打ち崩すのは予想以上に困難なミッションにも映る。ワールドカップ予選は始まったばかりと胡坐をかいているようだと、いずれ取り返しのつかない事態になる。
 
取材・文●白鳥和洋(サッカーダイジェスト編集部)