就任後初の営業減益も、強気の姿勢を貫き通したゴーン社長(撮影:吉川忠行)

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日産創業の地に近い横浜市のみなとみらい21地区。3年後には帆船をモチーフにした日産新本社が完成する予定地に隣接する展示場「パシフィコ横浜」で、先進技術を搭載する次世代カーを一堂に集めた「第22回国際電気自動車シンポジウム・展示会」(日本自動車研究所主催)が23日に開幕した。

 日産は1947年発売の往年の電気自動車「たま電気自動車」やすでに発表済みの燃料電池車を展示。三菱自動車と富士重工業が最新の電気自動車を競って出品、ハイブリッド技術で先行するトヨタやホンダの展示説明に人だかりができる中、目をひきつける技術展示がなく、次世代対応で遅れさえ感じさせるような日産のブースにはどこか閑散とした雰囲気が漂っていた。

 「ハイブリッド、電気自動車、燃料電池車・・・。何が主流になるかわからない。誰にも予想はつかない。マスコミの方に『一つの技術を選んでください』と聞いたら、『ハイブリッド』と答えるでしょうが」─。

 26日夕、東京・銀座の日産本社。8期ぶりの営業減益となった06年9月中間期の決算発表の席上、コストダウン一辺倒で将来的な成長に向けた次世代技術の開発の遅れを指摘する声が記者席からあがると、ゴーン社長は改革7年半で時価総額が5倍強に増えたことなど成果を強調しつつ、「研究開発への投資はケチっていない」ときっぱり否定した。

 研究開発担当役員にもマイクを渡して“援護射撃”を受けると、トヨタやホンダとは一線を画した独自の技術戦略をより一層激しいジェスチャーを交えて訴えた。「一つの技術に集約するのではなく、慎重に考えてすべてに選択肢を広げておかなければならない」。

 様々な難題を一刀両断することで名を挙げたゴーン社長が、技術開発に一つの解答を見出せずにいるのには他社依存を広げる足もとの事情もある。原油高の影響で燃費性能に市場の注目が集まる中、ハイブリッド技術ではライバルのトヨタ自動車と提携して供給を依存、低燃費で人気が高まる軽自動車では独自生産を行わず、スズキ、三菱自動車からの利益の小さいOEM(相手先ブランドによる生産)を受ける。

 かつて“技術の日産”といわれた同社が需要の変化に対して、技術面で他社の後塵(じん)を拝しているのは明らか。強気のゴーン社長は「ハイブリッド主流説」を相変わらず肯定はしなかったが、軽供給の遅れについては「契約上、供給増大を要望しても無理だった」と他社依存の限界を暗に認め、軽自動車の独自開発も匂わせた。

 10月上旬には米ゼネラル・モーターズ(GM)との提携交渉が破談に終わった。「パートナーを探す必要に迫られているわけではない」、「とにかく意見が一致しなかっただけ」、「決して敵対的なものではない」。ゴーン社長は、決算会見で決裂後初めて公の場でGM交渉について語り、まくし立てるような語調で様々な憶測の払拭に努めた。

 しかし、GMは経営再建下にあるが、独BMW、独ダイムラー・クライスラーとハイブリッド車の共同開発を進め、燃料電池車でも開発競争を先行しており、これらの分野で遅れを取り戻したい日産には悪くないパートナーだったかもしれない。ホンダの福井威夫社長は上旬の新車発表会で、「GMは賢明な選択をした。重要なのはお客さまが魅力ある商品、技術、ブランドをどう築くかだ。それはM&Aで簡単に築けない」と今回の日産側の迷走ぶりを切り捨てた。

 「上期の営業減益は想定内」──。ゴーン社長は、業績不振の理由に新車投入の少なさを挙げつつ、通期については7期連続の過去最高益とするコミットメントの達成に自信を見せた。一方、会見の壇上で身振り手振りを駆使し、強気の発言で懸念をはね除けようとする社長と対照的な態度だったのは、ナンバー2の志賀俊之COO。9カ月連続マイナスの国内販売について社長から説明を求められると「正直言って市場の低迷は予想以上だった」と複雑な表情で語り、販売目標達成のため昨年中に新型車を使い果たし、現在は“弾切れ”状態にある販売現場の疲弊を露呈した。

 下期には全世界で新型9車種を投入、11月20日には待望の新型「スカイライン(米国名:インフィニティG35)」が投入される。日産では発売に合わせて様々な販促イベントを企画し、テレビCMには米国で活躍する超大物有名人を起用するという力の入れようだ。初代から50周年を迎える同車はまさに日産ブランドのアイデンティティを体現するとも言えるクルマ。半世紀の歴史に恥じない、“新しい日産”をゴーン社長が描ききれるか。下期の反転攻勢が見ものだ。【了】

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