日本サッカー協会は2月6日に臨時技術委員会を開き、八百長疑惑で解任したハビエル・アギーレ氏の後任監督問題を協議。霜田正浩技術委員長を中心に候補の絞り込みを行った。
 委員会には名古屋グランパス久米一正GM、鹿島アントラーズ鈴木満常務取締役強化部長ら6人が出席、10人前後のリストから半数に絞り込んだという。霜田委員長は「5人ぐらいです。日本人はいません」と明言し、今後は2億円強の年俸を準備してリストに残った候補者の“身体検査”をはじめ、本格的調査をスタートさせる。3月7日に開幕するJ1の監督は除外した。
 「技術委員会が作成したガイドラインには、選手または監督でW杯経験があること、欧州チャンピオンズリーグ(CL)などでの采配経験、現在フリーなど15程度の条件が記されている。ピタリ当てはまるのは、ブラジルW杯でポルトガル代表を指揮したパウロ・ベント氏。スポルティング(ポルトガル)監督時代に欧州CL采配経験があり、推定年俸も2億2000万円で予算内にほぼ収まる。前イタリア代表監督のプランデッリ氏、前ゼニト(ロシア)監督のスパレッティ氏、元オランダ代表監督のファンマルバイク氏らの名前も囁かれています」(全国紙の運動部記者)

 一方、各スポーツ紙にはなじみの名前が並ぶ。中心候補は3人。スポニチ、日刊が元鹿島監督のオリヴェイラ氏(現サンパウロリーグ・パルメイラス監督)を候補に挙げ、報知と中日は呉越同舟で前名古屋監督のストイコビッチ氏。サンスポは現役時代に鹿島、ACミランで活躍した元インテル監督のレオナルド氏を報じている。
 「技術委員会の選考会に鹿島と名古屋の幹部が参加していたように、この二つのクラブが鍵。オリヴェイラ氏とレオナルド氏は鹿島のOB、ストイコビッチ氏は名古屋のOBです。世界のサッカー事情に詳しい霜田委員長がパウロ・ベント氏やプランデッリ氏を推奨しても、アギーレ監督でミソを付けた以上、協会内だけの人選ではファンが許さない。引責辞任を免れただけでも、もっけの幸いなのですから…」(協会関係者)

 結局、スポーツ紙が報じる3本線が有力のようだが、どこが本筋なのか。実はこの選考をややこしくしているのが、本田圭佑と香川真司、両陣営の綱引きだという。アギーレ解任劇が示すように、協会にとっての最大の圧力団体になっているのが、本田と香川目当ての大手広告代理店とスポンサー企業。
 日本代表には公式パートナーのキリングループと公式サプライヤーのアディダスをはじめ、10社以上のスポンサーが付いており、昨年末に8年推定200億円の大型契約を更新したばかり。各企業はそれぞれ本田と香川を支援しており、協会はこの声を無視できないのだ。
 「香川の本音はセレッソ大阪時代の恩師レヴィー・クルピ氏にある。一昨年にセレッソを去るまで清武弘嗣、乾貴士、柿谷曜一朗、山口蛍を育て上げ、現代表メンバーには教え子が多いし連携しやすい。しかし、クルピ氏は'14年に就任したアトレチコ・ミネイロをブラジル杯優勝に導いたことで国内の評価が高まり、クラブが手放さない。本人もブラジル代表監督を目指しており、日本代表には興味がない様子です。そのクルピ氏が推しているのがオリヴェイラ氏なのです。香川の希望はドイツでプレーする選手たちの総意でもあり、協会はオリヴェイラ氏を本命視せざるを得ないのでしょう」(専門誌記者)

 オリヴェイラ氏は名門パルメイラスの現役監督。この時点で協会のガイドラインから外れてしまう。そこで協会サイドは、W杯予選前最後の国際親善試合となる3月27日のチュニジア戦(大分)、同31日のウズベキスタン戦(東京)の2試合については、昨季まで甲府を率いた城福浩氏を代理起用し、サンパウロリーグのシーズン終了を待ってオリヴェイラ氏と正式契約を結ぶ構想を描いているという。
 そんな香川派主導の次期監督選考に“本田派”が反発し、横やりを入れてきた。「付け焼刃的な改革では6月から始まるロシアW杯予選を勝ち抜けない」と、もっともな反論をしているというのだ。
 本田派はザッケローニ氏の下で取り組んできた4年間のイタリア流サッカーを捨ててはいけないとも訴え、ACミランの先輩で鹿島でも活躍したレオナルド氏を推しているという。同氏はインテル監督時代には長友佑都を獲得し、欧州屈指の選手に送り出した。その長友は本田派の重鎮。ザッケローニ氏の支持も取り付けているようだ。
 この両陣営の対決を憂慮して浮上してきたのが、ピクシー(妖精)の愛称で親しまれ、名古屋で選手としても活躍した前監督のストイコビッチ氏案。本田は同じ名古屋のOBであり、ストイコビッチ氏の師アーセン・ベンゲル氏(イングランド・プレミアリーグ、アーセナル監督)は香川が尊敬する人物。これなら丸く収まるという折衷策だ。

 「本田派vs香川派」の姿を変えた代理戦争--。就任する新監督により、代表内の覇権争いも決着する。