上原浩治

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春、夏の甲子園に出場経験が無くても、プロ野球で活躍している選手はたくさんいる。甲子園を知らない選手と、甲子園で活躍した選手、どちらがプロで実績を残しているのだろう。

甲子園不出場ベスト9 VS 甲子園出場ベスト9を考えてみた。セ・パ両リーグに分立した1950年以降を3つの時代に分けた。

不出場組は、選手自身が不出場であるだけでなく、学校も甲子園でベスト8以上の実績がない無名高校の出身者に限定。

出場組は、春夏の甲子園で優勝、または準優勝した時に実際に試合に出ていた選手。ただしポジションは当時と変わっていても良いものとする。投手は数が多いので3人選出。いわば「無印」VS「エリート」。

(1)1950年から70年までにプロ入りした世代




「無印」組チームリーダーは、長嶋茂雄。「エリート」組は王貞治。ONが対峙することになる。投手は、小山、山田、稲尾と名球会がずらっとならぶ「無印」が圧倒的。

「エリート」組の平松は18年間投げたが、木樽は11年、池永は黒い霧事件に巻き込まれて6年でキャリアを終えた。

捕手、「無印」組は、大捕手野村克也。テスト生からのたたき上げ。「エリート」組は、東映の正捕手で、野村とはライバルだった山本八。

一塁手は、「無印」組は王と同時期の大洋の4番、松原。好打者だったが、王貞治がいたため一度もベスト9に選ばれていない。実際にもエリートの陰に隠れた存在だった。王貞治は選抜の優勝投手だ。

二塁は「無印」組は南海の桜井、「エリート」は阪急の住友。

三塁は「無印」組がミスター、「エリート」はこれも阪急の森本。実は名球会会員のロッテの有藤は高知商で64年夏に全国制覇しているが、有藤は死球で顔面を骨折し、病室で校歌を聞いた。だから入れていない。

遊撃は「無印」がV9時代の名手で、西武の監督としても活躍した広岡達朗、「エリート」は長嶋茂雄の立教大学時代のチームメイト、本屋敷。阪急でプレー。

長嶋は立教大のテストを受けたときに、本屋敷を見かけ「あれが本屋敷か、スターは違うな」と思ったそうだ。

外野、「無印」の外野陣は全員名球会。3人とも本塁打王のタイトルを取っている。凄まじい破壊力だ。「エリート」は、法政二高の優勝投手で、V9のリードオフマンだった柴田と、阪急の外野手で本塁打王を獲ったことがある中田、そして今年亡くなった巨人の5番打者、坂崎。

打線は互角だが、投手力は「無印」がかなり上ではないか。

(2)1971年から90年までにプロ入りした世代




V9が終わり、昭和も終わった時代の選手たち。この時期からDHも加える。

この時代は、PL学園が高校野球史上でもまれにみる強さを誇った。「エリート」はPL勢がずらっと顔を並べている。桑田は清原とともに春夏の甲子園を通じて優勝2回、準優勝2回と言う凄さだ。

投手陣は、分業が進んで小粒になった。それでも「無印」組には、最多勝投手になった北別府、斎藤、小林の3人。「エリート」は、PLの二人に浪商。全員大阪府。

捕手、「無印」組は、新興公立校出身の古田。「エリート」は、広島商時代、江川卓を攻略した達川。個性が際立つ二人だ。

一塁、「無印」組は、高校時代は練習もせず映画ばかり見ていたと言う三冠王、落合。「エリート」は、その落合を巨人から追い出す形になった清原。因縁めいた顔合わせ。

二塁は横浜のスターと、巨人の花形。どちらも職人肌だった。「エリート」には元木大介もいる。

三塁、「無印」組は、ブンブン丸。「エリート」は若大将。どちらも長打力が売りだった。

遊撃、「無印」の山下大輔は、慶應大学のスター選手だったからエリートのイメージがあるが、高校は無名。「エリート」はPL軍団でも最多安打の立浪。

実は「エリート」はこのポジションに篠塚利夫、宮本慎也が重なっている。甲子園で活躍した名遊撃手が多いのだ。

外野、「無印」の秋山は西武が身体能力の高さに注目しドラフト外で契約。田尾は同志社大でスターに、彦野は地元中日で主軸として活躍。「エリート」はPLの二人に横浜。愛甲は横浜のエースとして人気だった。
DH、「無印」の駒田は巨人、横浜で活躍。「エリート」の金村は高校時代は大エース。西武、中日で活躍。ともに勝負強い打者だった。

この時代は投打ともほぼ互角ではないか。

(3)1991年以降プロ入りした世代



※グレーは現役

投手陣は「エリート」の方が華々しい。3人ともNPBで大活躍してMLBに移籍した。「無印」は「雑草魂」の上原に、救援投手の野口と浅尾。上原もMLBへ。この時代からNPBのトップクラスはほぼ例外なくMLBに行くようになった。

捕手、「無印」は人材豊富。城島の他に矢野煬大、阿部慎之助。阿部はDHに回ってもらった。「エリート」は反対に人材難。新人の小林、同じく森友哉(大阪桐蔭)がいる程度。

一塁、「無印」は名球会の小笠原。小笠原は高校時代1本も本塁打を打ったことが無かったとか。「エリート」は松坂大輔のチームメイト、後藤。

二塁、「無印」はこれも名球会の小久保。後に三塁、一塁に。「エリート」は大阪桐蔭の浅村。昨年のパリーグ打点王。

三塁、「無印」は大阪府の公立校の星、中村ノリ。「エリート」は中京大中京の優勝投手堂林。どちらの守備もダイナミック。

遊撃、「無印」はロッテ、巨人、楽天で活躍した俊足の小坂。「エリート」は明徳義塾の初優勝時の主将だった森岡。

外野手、「無印」は、MLBでも活躍した田口に、今脂がのりきった糸井と角中。「エリート」がずいぶん見劣りする。上田は松商学園時代はエース。春の甲子園でイチロー(愛工大名電)を完全に抑え込んだ。DH、「無印」は、阿部慎之助とする。「エリート」は松坂大輔のチームメイトだった小池。

こうして見てみると、無名校からプロ入りした選手の方が、スケールが大きい感じがする。特に野手は、エリート街道まっしぐらの選手よりも、さまざまな競争を勝ち抜いた「成り上がり」の方が強いようだ。

また、甲子園で優勝する高校は大エースがチームを引っ張るケースが多い。優勝校とは言え野手のレベルがずば抜けて高いとは限らないのだ。

野球選手にとっても人生は長い。甲子園が頂点ではないと思う方が良いのではないか。

【執筆:広尾晃】
1959年大阪市生まれ。日米の野球記録を専門に取り上げるブログサイト「野球の記録で話したい」でライブドアブログ奨学金受賞。著書に「プロ野球なんでもランキング」(イーストプレス刊)。