Wikipediaというサイトは、自主的な書き込みによって成り立っている。強い編集機能がない。だから重要なことであっても書き込みが不足していたり、間違っていたりする。一方で熱意のある書き手がいると、異様に詳しい説明がなされることもある。
各球団のプロ野球私設応援団の項がそれだ。

とりわけ、中日ドラゴンズの応援団の記述は「微に入り細を穿つ」という感じで、ボリュームは半端ではない。まるで一国の政治史を見るようだ。応援団長なども、ひとかどの人物のように紹介されている。

しかしながら、中日ドラゴンズは、彼らの存在をまるごと否定している。
そうなると、私設応援団は存在意義がなくなる。Wikiに記された膨大な記述は「虚構」ということにならざるを得ない。

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中日の応援団は40年近い歴史を持つ。応援団を統括する全国中日ドラゴンズ私設応援団連合は、一般社団法人という法人格も有している。
加盟団体は全国に10を超す。東海地区には6団体。
加盟団体は贔屓選手への横断幕を掲げたり、独自に応援活動を繰り広げたりしている。

しかし過去に加盟団体同士の暴力事件を起したことがある。また、2008年には加盟団体の暴力団とのかかわりが指摘された。

Wikiには、加盟団体は詳細に記述されているが、こうした不祥事の客観的な事実関係は記されていない。実際に応援団が反社会組織と繋がっているかどうかは記述されていない。
応援団関係者が自分たちに都合の良いことだけを書いていると言われても仕方がないだろう。

2006年、NPBは12球団統一の試合観戦契約約款に特別応援許可規定を設けた。

ざっくりと言うならば「応援団形式の応援」をするためには、事前に球団の許可がいる。
許可申請書に団体名、代表者、団体連絡先などを記入するとともに、構成員の氏名、顔写真、住所、連絡先を記載した名簿を提出し、応援形態も事前に申請しなければならない。

2007年、この申請書を提出した「名古屋白龍会」「全国竜心連合」が、排除処分になった。
全国中日ドラゴンズ私設応援団連合の中核をなす東海地区の他の4団体は、これを不当として裁判で争ったが敗訴。しかし、なおも東海地区の4団体は、排除された2団体と連携し、彼らの復権を訴えた。このために、今年になって6団体が丸ごと排除されたのである。

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こうした動きからわかるのは、NPBが私設応援団を排除しようとしていることだ。

私設応援団は自然発生的に生まれたが、プロ野球の発展とともに利権化した。

玉木正之氏は、30年も前に巨人の私設応援団長が、自分の子どもの結婚式にキャンプ中の巨人の選手や監督を呼んだことを書いていたが、応援団の中には選手に対しても節度を超えた接触をすることが多くなった。

また最近とみに増えた「応援グッズ」も、当初は私設応援団が考案し、勝手に製造して販売していた。今は非公認のグッズは殆どなくなったが、それでも一部球団は私設応援団系の企業に製造を委託している。

さらに、応援団関係者が特定の席を「自分たちの指定席だ」と主張し、一般客を排除したり、チケットの購入を強要したりする例も増えた。このために、近年、NPBは本拠地に「応援団席」を設け、一般客と「隔離」するようになった。

こうした問題以上に深刻なのは、私設応援団と反社会勢力との関係だ。
全国竜心連合、名古屋白龍會、守虎連合会、神戸闘虎会などの団体名は、暴力団や暴走族を想起させるが、実際にもそうした関係の人間が含まれていると言われる。暴力行為など不祥事が絶えないのは、そうした輩が構成員に含まれているからだと言われている。

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NPBは代々司法関係者をコミッショナーに頂いてきた。また、警察、公安当局とは密接なつながりを持っている。ビジネス感覚は皆無だが、公的存在としてのモラリティは高い。
NPB内には反社会的な要素が払しょくできない応援団の存在は、NPBの健全な発展の妨げだ、との認識ができているものと思われる。
1970年の「黒い霧事件」という痛恨の事件を起したことも、トラウマになっていることだろう。

日本相撲協会が反社会的勢力との関係を断ち切れなかったために、社会的信用を失い、マイナー競技化したことを見ても、毅然とした態度が必要なのは明らかだ。

今後、私設応援団への規制はさらに厳しくなることだろう。裏社会は、暴対法の施行後、公然組織の形態をとったり、企業舎弟をからめたり、その動きが巧妙になっている。裏の人間を侵入させないためには、私設応援団を一括して排除するしかない、そういう最終判断もあり得るだろう。

ライセンスビジネスの展開を考えても、私設応援団を排除し、応援組織を球団が自前で持つことは重要だと思われる。
台湾や韓国のプロ野球では私設ではなく球団公設の応援団が応援を取り仕切っている。そういう形に移行すべきだろう。

私設応援団は、球団の勝利を願うファンの集合体ではあろうが、いつのまにか球団に「特別扱い」を要求するようになった。また「趣味」ではなく、半ば「仕事」で応援をする連中も増えた。ビジネスが発生した。
こうした特権や利権の根拠は何もない。応援団メンバーは、生まれて初めて球場に足を運んだファンと立場は全く同じである。そこに立ち戻らない限り、私設応援団に未来はないだろう。

私は野球を見るときに、集団で応援する必要があるとは全く思わない。「野球を見たい」のであって「応援を見たい」とは全く思わない。
個人的には「応援団」や「集団的な応援」はなくなってほしいと思っている。

しかし球界の発展を考えるならば、応援行為は必要だと言うことも認識している。
野球をじっと見るだけでは満足できないファンも取り込まないと、経済発展は難しいのだ。

で、あるならば、そうしたファンを巻き込んだビジネスはすべて球団の懐に一括して入るようにしてほしい。

ややこしい利権は早急にふるい落として、ファンと球団というシンプルな関係に戻してほしいと思う。