悩める日本の2大エース…本田と香川の不遇がザックジャパンに与える影響とは
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昨シーズン、中央でのコンビネーションプレーを得意とする香川は、チーム改革の鍵を握る選手だった。サー・アレックス・ファーガソン前監督は、「最近のユナイテッドは中央から点を取ることができていない。好調時のポール・スコールズやブライアン・ロブソンが2桁の得点を保証してくれたように、そうした働きをシンジに期待している」と述べ、新たな攻撃パターンの構築に着手した。しかし、後任であるモイーズはそれを引き継ぐ意志がないのかもしれない。現時点では不透明だ。
本田と香川の不遇。ワールドカップを迎えるシーズンに、ザックジャパンの主軸たる2人の足元が落ち着かないのは、大きな不安要素になる。
本田はともかく、香川の場合、公式戦の出場機会が激減することのデメリットは計り知れない。フィジカルコンディションや前向きなメンタリティーを保ちづらくなるのはもちろんのこと、試合勘も問題だ。特にヨーロッパや南米の選手は、試合になると練習では全く見られないほどの緊迫感や集中力を持って臨む。公式戦に出続けなければ、その激しいプレッシャーに対する感覚が鈍り、ワールドカップ本大会でも本来の力を発揮できるかどうか、不安は大きい。そういう意味では、本田よりも香川のほうがより憂慮すべき状況と言えるだろう。
本田と香川はザックジャパンの中心的な選手だが、その性質は異なる。本田は高いテクニックだけでなく、フィジカル、パワー、空中戦の強さを兼ね備えた『重み』のあるプレーヤーだ。日本人離れした本田のプレースタイルは、相手を背負ってボールキープ、あるいはセットプレーなど、日本サッカーの弱点を補うような働きを提供することができる。
一方、香川の場合は体が華奢で、球際や空中戦には弱い。しかし、技術と俊敏性を生かしてコンビネーション突破する力は群を抜いており、その『軽快』なプレースタイルは、日本人の長所を先鋭化した武器とも言える。
日本人らしからぬ、代えの利かない本田を欠く場合はシステム、選手選考、あるいはチーム戦術などに大きな変更が迫られるかもしれない。それに比べると、日本人らしいプレーヤーである香川の『代え』は利きやすい。もし、このまま香川に出場機会が訪れず、コンディションが上がらないとなれば、新たな選手がザックジャパンの武器として名乗りを挙げる可能性はある。
その候補としては清武弘嗣、乾貴士、齋藤学らになるだろうか。しかし、中盤でボールを引き出してゲームを作りつつ、ゴール前にも飛び出して行く香川のプレースタイルと全く同じ選手はいない。清武の場合は正確なクロスを含めて中盤のチャンスメークには香川にはない味を出すことも考えられるが、ゴール前で俊敏性を生かして自らゴールをねらうプレーは香川には及ばない。あるいは乾や齋藤の場合、よりドリブラータイプなので、岡崎慎司と共に左右のサイドハーフに並べると、中盤の構成力が弱まるかもしれない。
このような変更はトップ下の本田や右サイドハーフの岡崎の役割、あるいは1トップの選考にも影響を与えるだろう。場合によってはシステム変更の必要もあるかもしれない。これまで攻撃の中心として多くの働きを提供してきた香川だけに、その影響範囲は計り知れない。
「(攻撃の)決定力の問題点についてはある程度、改善できたと思っている。これからは守備の部分を」と、攻撃の構築について自信をのぞかせるザッケローニ監督だが、仮に香川のコンディションが上がらない事態になれば、もう一度、そこからのやり直しを考慮しなければならないだろう。
もちろん、このような議論は時期尚早であり、少なくとも9月14日のプレミアリーグ第4節、クリスタルパレス戦における香川の処遇を見極めたいところだが、ザッケローニ監督としては今後、「もしも」のケースに備えるアイデアも必要になる。
文●清水英斗