7月12日、約1カ月ぶりに公の場に現れたスノーデン氏。亡命の条件として、ロシアは「反米活動停止」を要求した。(写真=Human Rights Watch/AP/AFLO)

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「米国家安全保障局(NSA)は、日常でやり取りされる通信情報のほとんどを傍受できるシステムを持っている。あなたのEメールの中身、あなたの奥さんの通話記録やクレジットカードのパスワード情報まで、簡単に手に入れることができる」

英「ガーディアン」紙とのインタビューでこうセンセーショナルに語った米中央情報局(CIA)の元職員エドワード・スノーデン氏の機密情報漏洩が、世界を揺るがしている。

6月9日に滞在先の香港で身元を明らかにして以来、スノーデン氏はエクアドルへの政治亡命を求めてモスクワへ飛び、各国へ亡命申請を求めた。本稿執筆時点でベネズエラ、ボリビア、ニカラグアとエクアドルの4カ国が亡命受け入れを表明し、スノーデン氏はこれらのいずれかの国に行くまでの間、ロシアへ滞在するため、同国へも政治亡命の申請を出したと伝えられている。

そしてその間にも、同氏の漏洩した機密情報が次々と暴露され、秘密のベールに包まれてきたNSAによる大規模な個人情報収集活動や監視プログラムの実態が明らかにされている。

米国の国家安全保障を揺るがす機密を暴露し、その一挙手一投足に世界の注目が集まるスノーデン氏とはいったい何者なのだろうか。

同氏は1983年、ノースカロライナ州エリザベスシティで生まれた。父親は元沿岸警備隊員、母親はメリーランド州ボルチモア連邦地裁の事務職員という。米「ワシントン・ポスト」紙によると、スノーデン氏の通った学校の教師やクラスメートも同氏をよく覚えていないというほど、目立たない少年だったようだ。

ボルチモアの高校を中退したスノーデン氏は、高卒資格試験(GED)に合格し、2003年にメリーランド州にあるアン・アルンデル・コミュニティ単科大学に進み、コンピュータ学を専攻。メリーランド大学など複数の大学で学び、「ソリューション・エキスパート」(マイクロソフト社が認定する卓越したITスキル所持者)の資格を取得した。

04年に陸軍予備役に入隊したが、訓練中に両足を負傷したため4カ月足らずで除隊。失業したスノーデン氏はコンピュータゲームに耽った。オンライン・チャットで不満をまき散らしていた当時の記録も残っている。05年に、NSA付属のメリーランド大学外国語研修センターの警備員になった。

■よりセンシティブな機密文書を隠し持つ?

転機は翌06年に訪れた。ネットワーク・セキュリティの技術者を募集していたCIAに採用されたのだ。このときスノーデン氏は、高校中退のギーク(コンピュータに詳しい「オタク」)である自分が、年収10万ドルを超える政府の仕事に就いたことを誇らしげにチャットに書き込んでいた。

実はスノーデン氏のこの後の3〜4年間の足取りについては、7月4日に米「ニューヨーク・タイムズ」紙が報じるまで明らかにされていなかった。この間同氏はハワイでNSAと契約するデル社と契約していた。デルもNSAとインテリジェンスに関する契約を交わしていたが、ここで働く間にスノーデン氏は単なるコンピュータシステムのスーパーバイザーから、「サイバーカウンターインテリジェンス(防諜)のエキスパートになるための訓練」を受けていたという。そこでは、サイバースパイからシステムを防御するため、攻撃者の立場からの事態を想定するなど、ハッカーとしての高度なハッキング技術を含めた、サイバー攻撃の技術も各種習得していたという。

このような特殊な訓練を受けた後、スノーデン氏はNSAと契約する民間会社ブーズ・アレン・ハミルトンに転職したのだが、その理由について同氏は、「世界中の機密情報にアクセスできるポジションであったため」と香港紙に語っている。言葉通りなら、最初から機密情報の暴露が目的だったわけだ。

米政府は機密に携わる民間請負業者が国家を裏切らないように高給を払っており、スノーデン氏も同社で約20万ドルの年収を得ていた。好待遇を蹴って暴露した同氏は確信犯といえるだろう。

米政府は、相当厄介な人物に裏切られてしまったようだ。スノーデン氏は機密の文書にアクセスした痕跡を残さずに多数の機密ファイルを入手した可能性も十分にあり、これまで公開したもの以上にセンシティブな機密文書をどこかに隠し持っているはずだ。

スノーデン氏の言動が、引き続き世界中から注目を浴びるのは間違いないようだ。

(国際政治アナリスト 菅原 出 写真=Human Rights Watch/AP/AFLO)