WBC3連覇に挑む侍ジャパンは、第1ラウンドのブラジル戦、中国戦に連勝し、キューバとの一戦を残しているが、ほぼ第2ラウンド進出を決めた。いずれの試合も終盤までもつれる展開で、山本浩二監督らは投手陣をスクランブルに動員、ベンチ入り13人のうちすでに10人をマウンドに送った。

 チームがスタートした宮崎合宿時から、山本浩二監督は繰り返しこう話していた。

「大会が始まれば点が入らないことも考えられる。やっぱり、守りが大事となる」

 ある程度予想されたこととはいえ、中盤にリードされるという苦しいブラジル戦を経たことで、指揮官は改めて短期決戦および初対決の投手攻略がいかに困難であるかを悟ったはずだ。勝敗を分かつのはやはり投手陣だ、と。

 そういった意味では、第2ラウンドを前に頭を悩ませているのが、先発の柱と考えてきたエース・田中将大の不調だろう。ブラジル戦に先発した田中は、初回からスライダーを見極められ、甘く入ったストレートを狙い打ちされて先制を許してしまう。2回はスライダーやツーシームといった変化球中心の配球に変えてしのいだものの、計4安打を許して2回23球で降板となった。3回表の日本の攻撃時にも、ブルペンに駆け込んでピッチングを行なうなど、本人にとってもまさかの降板だった。田中は試合後、こう振り返った。

「“開幕”を任せていただいたので、意気に感じてマウンドに上がりましたし、絶対に抑えてやるという気持ちだったんですけど……結果が出なくて申し訳ない気持ちです。ああいうピッチングをしていると短期決戦では使ってもらえないと思う」

 それでも自身を納得させるように「感触は本当に悪くない」と続けた。宮崎での練習試合やオーストラリアとの練習試合でも短いイニングの登板ながら失点した。球威に手応えを感じる一方で、簡単にヒット(得点)を許してしまう。内容に結果が伴わないことがこの時期特有の実戦感覚の乏しさからくるものなのか、WBC球との相性が問題なのか本人も判然としないため、暗中模索が続く。

 東尾修投手総合コーチは、降板の理由をこう話した。

「嫌な点の取られ方をしていた。今日の試合は絶対に落とせないということで、早めの継投となった」

 一方、首脳陣の不安を一掃するピッチングを見せたのが、中国戦に先発したもうひとりの柱、前田健太だった。ちょうど2週間前、まるで別人のようなフォーム、力のないストレートで右肩の不安を露呈していた前田が、変化球主体のピッチングで、5回をわずか56球で投げ切ったのだ。格下相手の中国とはいえ、球数制限のあるWBCにおいて、球数を要しない理想的な省エネピッチングだった。

「いろんな報道もありましたし、僕自身も不安な気持ちでした。初めてのWBCはものすごい緊張感でした。(中国戦は)今後を見据えて、1回でも多く投げたいなと思っていました。第2ラウンドではもっともっとプレッシャーがかかってくる。そこで結果を残したい」

 2戦を終えて、ふたりのエースは明暗が分かれた。与田剛投手コーチは、前田のピッチングを「素晴らしい結果を残してくれた」と評価し、今後の戦い方を次のように語った。

「マエケンは球速も出ていたし、コントロールも良かった。スライダーが抜けるところもあったけど、試合の中で修正できていた。投手全体に言えることですが、これからは強敵相手になるので、左右高低に丁寧に投げ分けることが必要になる。第2ラウンドの先発のパターンは、2つ3つ考えている」

 そして、6日に行なわれるキューバとの第3戦では、先発を大隣憲司に託す一方で、田中をブルペン待機させ、試合展開によっては登板させることも示唆した。田中の配置転換を視野に入れながら、テスト登板を課して復調を待つ。そんな心境だろう。いずれにしても田中の出来が今後の展開に大きな影響を与えることは間違いない。田中は言う。

「今の僕にできることは、気持ちを切り替えてしっかり準備することだけ。まだ試合は続くので、もう一度、僕らしいピッチングを見せたい。正直、このままでは終われない」

 田中将大と前田健太――若きエースが並び立ってこそ、侍ジャパンの快進撃が始まるのだ。田中の完全復活に期待したい。

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