高級ブランドが売れる理由は、消費の「社会的な効用」による

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日本国内がさらなる不況にさらされ、高級品の販売も苦戦が強いられるなか、躍進を遂げる海外ブランドがある。フランスのシューズブランド「クリスチャン ルブタン」がそれだ。10年10月の銀座の路面店に続き、11年3月には大阪に直営店をオープンさせている。同ブランドを国内でいち早く取り上げたファッション誌「25ans」の十河ひろ美編集長によると、ルブタンブームが起こったのは2008年頃。マドンナやヴィクトリア・ベッカムなどのセレブリティが愛用していることから日本では一躍注目の的に。

「2010年3月号でルブタンの特集を組んだところ、販売店舗への問い合わせや購入希望者が殺到。さらに、クリスチャン・ルブタン本人がデザインを手がけたシューズバッグを付録につけた同年11月号は、即完売状態になるなど反響は想像以上でした」

ファッション感度の高い女性からの人気を誇るルブタンの靴。驚くのはその値段だ。

「小誌で取り上げるのは安くて6万〜7万円、なかには40万円台のものもあります。それでも、まとめて何足も予約する読者の方は多いんですよ」

30代後半の富裕層を中心とした同誌読者には、不況の影響はあまり感じられないという。むしろリーマンショック以降、フォーエバー21やH&Mといった廉価な海外ブランドに走った一般層と、ルブタンに代表される高級ブランドを支持する富裕層との二極化が顕著になった印象があると語る。

とはいえ、数あるファッションアイテムのなか、靴がここまでの人気となった理由はどこにあるのだろうか。

自身もルブタンのファンという十河編集長によると、「デザインの美しさがいちばんですが、もうひとつの魅力は“ルブタン・レッド”と呼ばれる深紅のソール(靴底)。歩くたびに足元で見え隠れする真っ赤なソールは、見る人が見ればひと目でわかるオシャレ上級者のトレードマーク的存在」。さらに、室内で靴を脱ぐ日本人の習慣を挙げ、「靴を脱いだときに見えるブランドのロゴで『さすが!』と思わせる効果もあるのでは」と、分析する。

こうした「見る人が見ればわかる高級商品に対して消費が高まる現象は、『ヴェブレン効果』から説明できる」と話すのは、マーケティングや消費者心理に詳しい、JMR生活総合研究所の松田久一代表だ。

「消費には、自分に必要なものを買うことで私的な効用を生むものと、他人がどう思うかを意識し、社会的な効用を生むものがあります。さらに後者から派生する効果には、集団心理による安心感から流行品を購入する『バンドワゴン効果』、希少性が高い商品に対して購買意欲が湧く『スノッブ効果』、他人が持っていない高級品を持つことで自己顕示をする『ヴェブレン効果』がある。一般的には手が届かないものの、雑誌などで話題のブランド靴を買うといった消費行動は、『ヴェブレン効果』の最たるものでしょう」(松田氏)

ヴェブレン効果をもたらす消費は古今東西で見られてきた。ただし、消費の対象は時代によって変わるもの。

「バブル時代は外車。いまの20代は自転車がそれに代わっています。ファッションアイテムは、いまなら男女ともに靴でしょう。男性にも『ジョン・ロブ』など、10万〜20万円以上の価格帯の革靴が人気です。高級な靴を長く履くといった傾向も目を引きます」と、松田氏。たとえ家賃よりも高くても、一足10万円の靴は、不況でも揺るがない自分の格を演出する、マストアイテムといっても過言ではない。

※すべて雑誌掲載当時

(堀 朋子=文)