大人の事情で「朝鮮学校の無償化」が適用外になった件

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民主党政権では「審査中」となっていた朝鮮学校の授業料無償化について、適用外にすることを安倍政権が決めた。さらに、朝鮮学校が無償化になる要件を現状では満たしているため、文部科学省は省令を改正して、適用外であることを法的に根拠づける方針だ。




無償化の要件を満たしている朝鮮学校が、「審査中」となってしまい、実質的に適用外となっていた理由は、2010年11月に北朝鮮が韓国の延坪島を砲撃した事件が原因だった。その後も、2012年12月には長距離弾道ミサイルを発射し、最近では核実験を強行しようとするなど、北朝鮮には不穏な空気が流れ続けている。




筆者には、北朝鮮という国家がどこへ向かおうとしているのか、よく分からない。過剰に他国と敵対することに、どれだけのメリットがあるのだろう。拉致問題が進展しないことなども含め、北朝鮮に対する不信感を抱く人は多いことが予想される。




だが、北朝鮮がどうしようもないことと、朝鮮学校における子どもの教育とは、まったく別物だと考えるのが大人の対応というものであろう。朝鮮学校に通う在日朝鮮人の子どもたちは、日本で生まれ、日本で育ち、日本語が母語となっている。




これだけ北朝鮮に関する不穏な情報が日本であふれる中で、朝鮮学校でどれだけ「反日思想」をたたき込まれても、子どもたちがそれを純粋に支持するとは思えない。情報が制限された中で、国家が仮想敵を作り、その敵に対する憎しみを国民に植え付けていくような状況であれば、それはまずい。しかし、いまの日本で、北朝鮮がそんなことをできるとは思えない。




そんな状況の中で、無償化の要件を満たしているというのに、朝鮮学校をその適用外とするのは疑問である。とりわけ、尖閣諸島問題の中国や竹島問題の韓国が起きて、両国が日本に対して強行姿勢を見せても、中華学校や韓国系学校への無償化は継続されていることが気になる。




在日朝鮮人の子どもにしてみれば、こんな現状を、ただただ在日朝鮮人の子どもとして生まれてきたことの不幸だと感じるしかなくなる。生きていて、もっともつらいことは、出自によって他者から優劣がつけられたり、差別されることである。そんな間違った優劣や差別を、一応は成熟社会と言われる日本がしていてよいのだろうか。




最後に申し添えておくが、筆者は在日朝鮮人を日本で優遇せよなどとは思っていないし、北朝鮮の政策などまったく支持していない。ただ、根拠も実例もない中で、朝鮮学校と「反日思想」や「スパイ」というキーワードを連関させて、から騒ぎをする輩が日本政府を含めて多すぎると思うのである。




大人の事情でから騒ぎをされた上、日本国内でほかの子どもたちとは違った待遇を受ける朝鮮学校の子どもたちが、筆者にはいじらしくて仕方がない。教科書改訂時に拉致問題に関する記述を含めるよう求めた上で、朝鮮学校に対して補助金を支出する神奈川県のような事例もある。文科相には、「神奈川県と同等の措置でいいのではないか」と言っておきたい。




(谷川茂)