今年に入りパリでも終末論に店名をかけたバーがオープンしたり、世界最後の日には様々なイベントが各所で予定されている。

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明日21日は全世界がフランスに注目する。注目するというより、フランスの一地区のみ希望を残し世界が終わりを迎える。

マヤ暦によれば、2012年12月21日に世界の終わりがやって来るという。ただし、唯一の救済手段はフランスにある。世界の終わりに南仏ビュガラッシュ山には宇宙船が現れ、そこにいる人々は異星人が救ってくれるという。この噂は数年前からインターネットやメディアなどを通して広まった。元々ビュガラッシュ山はUFOの目撃証言などで以前から有名だったが、現在は一部ニューエイジ系カルト信者などが大挙して同所を訪れ、人口200人の麓の村は大変な迷惑を被っているそうだ。どのような状況なのか。

「毎年アクシデントが増えている。昨年の夏にはアメリカ人が亡くなった。もし厄介ごとがあっても責任は負いたくない」と嘆くのはビュガラッシュ村の村長ジャン・ピエール・ドロール氏。仏地方紙ミディ・リーブルのインタビューで、静かな村の生活が終末論によって脅かされている現状を嘆いた。同氏によれば、村の入口にある「ビュガラッシュ」と書かれた標識も3度盗まれたという。小さなビュガラッシュ村にとっては費用もばかにならず、「何か法的な措置を考えている」そうだ。

起こるのは予定外の出費だけではない。英ガーディアン紙は「訪れる人々は、私たち村人を他の世界と交信している変人として見る。動物園の猿のような気持ちだ」「道路の混乱状況がどうなるか分からないので、聖歌隊がクリスマス前のコンサートを計画できない」という村人のコメントを掲載し、静かな村を襲った被害を伝えている。また「地方や国際的な通信社のほか、日本のテレビ局が住民に、終末論をどう思うかたずね回っている」という。

観光業は特需に湧いているのかと思いきや、そうでもないらしい。観光客はわずかに減少しているそうだ。通常ビュガラッシュには、エコツーリズムや静かな場所で心身を休めたい人が訪れるのだが、テレビ局がこの世の終わりを記録するため各所にライブカメラを設置しており、それが彼らの足を遠のかせているという。エストニアからハイキング目的で来た観光客は、ビュガラッシュ周辺を散策しているとテレビ局に止められ、「この世の終わりに備えているのか」と質問されたそうだ。

一方で、インターネット上では、ビュガラッシュ山で収集されたという普通の小石がネットでお守りとして売られていたり、村の一部では「キュヴェ・ビュガラッシュ」とラベルされたワインの売れ行きが好調だそうだ。英ガーディアン紙は「(他の世界と、ではなく)現世における一層のコミュニケーションの手助けになりますよ」という店主のコメントを紹介している。

21日は一層の騒ぎが予想される。仏ル・モンド紙によれば、予防として村役場にはすでに憲兵3個中隊が配備されており、当日は知事の命令によってビュガラッシュ地区へのアクセスが禁止されるそうだ。

メキシコ南東部にあったマヤ文明から、巡り巡って影響を被った格好のフランスだが、当のフランス人は至って冷静。食べて寝てゆっくりできるクリスマス休暇が来るのに、その前に世界が終わってしまうなんて……という皮肉があちらこちらから聞こえてくる。明日は一体どのような日になるのか。「マヤ文明は自分たちの滅亡を予測できなかったじゃないか」と言ったビュガラッシュ村の住民のコメントが一つの答えかも知れない。
(加藤亨延)