産経新聞ソウル駐在特別記者の黒田勝弘氏は、従軍慰安婦問題等の現地リポートを行っているが、この度、韓国紙から取材を受けたという。以下、黒田氏のレポートだ。

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 先日(3月2日)朝、顔を洗っているとケイタイに電話がかかってきた。夕刊紙「文化日報」の女性記者で、朝刊紙の「東亜日報」が社説で筆者を非難していて、その件で電話インタビューしたいと言う。

 この社説は「日本は慰安婦問題で協議に応じろ」と題し、最近、また外交問題として蒸し返されている慰安婦問題で日本を非難したものだった。

 ところが社説の半分は「サンケイ新聞のクロダ記者が日本の保守右翼雑誌(『WiLL』)4月号に“慰安婦を国民代表にする国”というタイトルで慰安婦をおとしめる記事を書いている」として筆者を名指しで非難する内容だった。

 雑誌が発売されてから1週間は経っているので不思議に思ったが、実は前日の3月1日に「朝鮮日報」(ネット版)などいくつかのメディアが「妄言製造機クロダがまた妄言」などと筆者を非難する報道をしていたからだ。

 雑誌の記事は、筆者が本誌などでこれまで紹介してきた慰安婦問題に関する最近の韓国の動きをまとめ、論評したものだった。

 その骨子は、韓国では今や元慰安婦たちはまるで“抗日独立有功者”のような扱いで聖域化され、誰も手が付けられない問題として解決を難しくしているというものだった。

 その証拠として、日本大使館前の慰安婦記念像は無許可でも当局は撤去できないし、元慰安婦は亡くなるとすべての新聞に顔写真付きで必ず死亡記事が出るし、ソウル市長と市民代表による大晦日の“除夜の鐘”にも招かれている……などと紹介した。

 ただ雑誌がどういうわけか表紙で「売春婦を国民代表にする国」としたため、これがいっそうの刺激となって「冒瀆(ぼうとく)」「妄言」と非難された。

 しかし筆者は彼女らを「売春婦」と書いたことは一度もない。問題解決を妨げているのは彼女らではなく、彼女らを反日に利用し国民をマインドコントロールしてきた支援団体とマスコミだと思っているからだ。

 で、クロダ非難がなぜこの日だったかというと、3月1日が「独立運動記念日」で、李明博大統領が記念演説であらためて日本非難を語り、元慰安婦たち(約60人)に慰労の手紙を送っていたからだ。

 元慰安婦の一人一人に大統領自ら手紙を伝達するなどというのは初めてで、このことも慰安婦問題の“聖域化”を物語っている。しかもこの手紙は昨年末の日韓首脳会談(京都)で「最初から最後までこの(慰安婦)問題を述べた」ことを誇り、これは「前例の無い、外交慣例にもはずれることだった」と自任している。

 李大統領は慰安婦問題を「いかなる外交懸案よりも至急である」とも言っているが、ここにきて彼がなぜ慰安婦問題にそれほど感情的に入れ込むにいたったのか、謎めく。

 実利外交が看板の経済大統領が、任期わずかとなり突然、反日・民族主義あるいは篤実なクリスチャンとして博愛・人道主義に目覚めたか?

 あの朝、「文化日報」の記者には30分以上にわたって慰安婦問題の経緯と筆者の考えを懇切に説明してあげた。

 その結果、紙面には「慰安婦問題がまだ解決しないのは韓国のせい/日本は補償金を準備し謝罪するも韓国受け入れず」という見出しで、珍しく筆者の話が正確に紹介されていた。李大統領は日本に謝罪を要求しているが、日本は首相の手紙をはじめすでに謝罪を繰り返してきたこと、問題解決は韓国の支援団体の反日強硬論でチャンスを逃したことなども出ていた。

 そして外交問題には100%の勝利はない、51対49くらいの差でおさめるものという話も紹介していた。大統領の外交音痴に比べると、この記者がはるかにまともである。

※SAPIO2012年4月25日号