「ファンクラブ研究家」として、12球団全てのファンクラブに入り、そのサービスからペナント順位予想をも行う長谷川さん

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先月24日、『不滅 元巨人軍マネージャー回顧録』を出版した、ノンフィクションライター・長谷川晶一さんは、12球団全てのファンクラブに加入する「ファンクラブ研究家」という肩書きも併せ持つ。

ファンクラブといって侮るなかれ。球団が提供するファンクラブのサービスを通して読み解く長谷川さんの考察は実に興味深い。インタビュー最終回は、「12球団全てのファンクラブに加入する男」、そして、長谷川さんの本来の専門分野である女子野球の現状について伺った。

インタビュー第一回第二回

――長谷川さんには“ファンクラブ”についてもお話をお伺いしないといけません。毎年全球団のファンクラブに加入されていますが……

はい。2005年からですね。今年で8年目になります。

――楽天球団の一年目からスタートされたわけですね。

それこそ、livedoorが球団持つかって時ですよね。livedoorフェニックス。まさにそこからなんですけど、2004年に球界再編っていって、1リーグにするっていう話がありましたよね。

その時に皆、球団も選手たちも「とにかくファンサービスを」っていってた。それは綺麗事ではあるんですけどね。でも僕は、プロ野球ってファンサービスが立ち遅れているなってずっと思ってたんですね。それは芸能の仕事とか取材をしてて、例えばジャニーズのほうが間違いなくファンサービスしてますよ。そのモーニング娘。だったらハロー!プロジェクトだったり、そういうところのほうがファンサービスは徹底されているわけです。

プロ野球にとってのファンサービスって、選手たちが目の前で野球をやればいいんだろっていうレベルだったと思うんですけど、球界再編の時に、そこまでファンサービスっていうならって考えた時に、ファンクラブだろうって。

僕は子供の頃からヤクルトのファンクラブに入っていますので、ファンクラブは身近にあったんですけど、丁度2003年くらいからヤクルトのファンクラブが突然しょぼくなったんですよ。

5000円はずっと変わらなかったし、神宮で5試合無料っていうのも変わってないんだけど、グッズがしょぼくなりました。野球だけ見るなら、チケットを安く入手する方法はいくらでもありますし、「来年から入らないぞ」っていう考えも多少あった時に、球界再編があって、他のファンクラブどうなのかなって思って、資料集めて読んでいたら、ワクワクしてきて(笑)。

――ファンクラブを辞めるつもりが(笑)

ヤクルト戦ばかり見ていたので、パ・リーグの選手とかも知ってるようで知らない選手が多いことに気付くわけですね。資料を集めていると、その球団のスター選手から売り出し中の若手まで色んな選手が目に入ってきて、楽しいなと思って。そしたら、2005年の春に、毎日のようにダンボールが届くんです。

本当に面白くて、開けてみると、今みたいに特典のバリエーションもなかったのでレプリカユニフォームが多かったんですよ。全く縁も所縁もないタイガースのレプリカ・ユニフォーム着て、「虎もいいかな」って。なんか凄い楽しかったんですよ。

ファンクラブの特典ってグッズの他にも、ふれあい系、球場招待系と幾つかに分かれるんですけど、球場招待をやってるチームが幾つかあって、年間で枚数はバラバラですけど、チケットが貰えましたから、マリン行ったり、西武ドーム行ったり。今までは取材でしか行ったことがなかった球場に、ビールを飲みに行くことができる。ヤクルト戦ではなく、千葉ロッテ対オリックスとか、仕事じゃなきゃ見ないような試合も「チケットあるから行こう」「天気がいいから行こう」ってなりますよね。

そうやって見てて、レプリカあるからホームチームのユニフォームを着るようにして「かっ飛ばせー、福浦ー」とか言ってると凄い楽しいんですよ。今まで僕は12分の1しか楽しさを知らなかった。一気に楽しさが12倍に広がった感じなんです。

そしたら、2006年にはファンクラブを辞めるという選択肢はなかったですね。ただ、それだけ言うと、ただの野球好きのオヤジになってしまいますので、ライターとしてちゃんとしているってことをアピールしようと。

最初、12球団全てのファンクラブに入ったってことを「Number」のコラムで書いたのかな。そしたらそれを読んだ「野球小僧」の編集者が「あれをもっとページ数とって書きませんか?」って言ってくれて、そしたら読者の反響が大きかったんですよ。

確かに、こういう企画は読んでて肩の力が入らないし、普通の人は、自分のひいきのチームしか知らないじゃないですか。他と比べてどうなのかっていう意味でも評判がよかったんですよね。ただ、個人的な趣味ではなく、ライターとしてやりたいなと思ったので、編集部に頼んで12球団全部にアンケートをとったんですよ。

「今年の会員は何人を目標にしている?」とか「去年は何人だった」とか、あるいは「現時点のセールスポイントや改善ポイント。参考にしているチームとか」。例えば、Jリーグやディズニーといった色んなエンターテインメントを参考にしているって出てくるんですけど、そういうファンサービス向上のために、どんな取り組みをしているのかっていうことを聞いて、取材者としてのリサーチと、一ファンとして野球グッズに囲まれて浮かれているというところがあるのが、この企画の好きなところです。

――ファンクラブ研究家という肩書きについては?

これは編集部が名付けてくれたんです。評論家っていうほど大袈裟なものではないんで、そのフレーズは凄い気に入ってますね。全然違うところでは「日本初の女子野球評論家」って言われているんですけど、そっちのほうがまだ、テレはあります。プロからアマまでほとんど見てますけど。

――ファンクラブが充実している球団は?

毎年、その年の一番のチームを「ファンクラブ・オブ・ザ・イヤー」として「野球小僧」に掲載しているんです。略して“FOY”を挙げているんですけど、多いのがロッテ、西武、巨人なんですね。それぞれ2回ずつだったと思うんです。

2005年ってロッテが日本一になった年ですが、ロッテのファンクラブの充実度が凄かったんですよ。すると、翌年以降、西武が面白いくらいに貪欲にロッテの長所を取り入れるんです。ネットを活用し始めたのも、この頃だったんですけど、サイトに自分の会員番号入れて、パスワードを入れると自分のマイページがあって、自分が観戦した試合の勝率だったり、球場で会員証を提示して飲食物を買うとポイントが付いたりとか。

そうしたら、同じシステムを西武が始めて、とにかくマネをした。で、これは新聞記事にも出てましたけど、松坂のポスティング時、5000万円をファンクラブに投資するって宣言したんですよね。

巨人は巨人でもともとお腹一杯ですっていうくらいグッズをくれるんですよ。お金あるんだなって。

また、特典一覧みたいなものが書いてあるのに、そこにない物を後でくれたりもするんです。ファンクラブの流れって幾つかあって、ここ数年まではファミリー会員創設がトレンドだったんですよ。でも、そのトレンドが一段落して、全体的にここ2、3年は女子会員獲得に力を入れてて、巨人もそこに凄い力を入れてる。去年、震災の時に開幕の問題が起こったじゃないですか。開幕戦のチケットが当たってたんですよ。それは凄い嬉しかったんですけど、地震の影響で試合が延期になってチケットが使えなくなった。でも、それは不可抗力ですからね。

そしたら、ファンクラブから巨人のボールペンが届いたんですよ。「当選されましたが、試合が行われなくなったので、お詫びとして差し上げます」って。親会社とか球団代表の悪役ぶりのイメージがありますけど、現場のスタッフたちはそうじゃないっていうことをアピールしたくて、去年の“FOY”に選びましたよね。

問題あるのは、ずっと横浜。4年連続最下位と比例していると思いますね。それを一覧にしたこともあるんですよ。正確な順位予想はできないですけど、Aクラス、Bクラス予想はできますね。今年、ヤクルトはいいと思いますよ。去年から(ファンクラブのサービス内容が)一気によくなったんですよ。今年さらによくなりましたから。

――女子野球のほうも、お聞きしておかなければなりません。昨年はプロが2球団しかなくて……

今年から大阪に球団ができて3チームになるんですね。奇数球団なので、一つ余っちゃう。そういう意味では日程編成上の不都合が生まれるんですけど、当然チームを増やすというのが大前提でしたので、僕は万々歳だと思うし、喜んでいます。

ただ、僕もちゃんと見ていないんですど、17人新人が入っていても、硬式未経験の選手が多いんです。ソフトボール経験者で花開いた選手もいるんですけど、全部が全部そうとは言い切れないので、17人の新人がどこまで頑張れるか。レベルを落とさないで球団を増やさないといけないわけだから、そういう意味で注目はしています。

プロとアマチュアって男子と違って垣根がないから、人的交流ってすごいあるんです。ただ、これは一般の人が誤解をしているところでもあるんですが、必ずしも「アマよりもプロが強い」とは言い切れない部分があるんです。

――そうなると、中央球界の有名選手もアマチュアに流れていくことになりますか?

そうですね。今年カナダでW杯があるんですけど、今日本って2連覇している。今年前人未到の3連覇を目指すわけですが、そこに入っている選手たちは、プロにあまり魅力を感じていないですね。プロに入るよりは、自分たちのクラブチームや学校のチームに入って、練習したほうが世界で戦えるということなんでしょう。

ただ、プロはプロでちゃんと練習する環境が整っているし、一年間みっちりリーグ戦を戦うわけですからうまくなるんですよ。一気に成長しているし、今のプロ選手たちは、アマチュア選手たちが知っているかつての選手たちではないですね。

ただ、去年秋にプロとアマが一緒に戦う『ジャパンカップ』というトーナメントをプロ側が主催したんですけど、2つあるプロのチームが高校生チームに両方負けましたからね。決勝戦はGAORAで中継があったんですが、決勝は高校生同士の対戦でした。

なでしこジャパンが追い風になっているところもあって、女子野球はマドンナジャパンって呼んでいるんですけど、この間のトライアウトでは取材陣も多かったですし、8月にはカナダでW杯あるんですけど、日本代表の活躍には大いに期待してほしいと思います。

――今日は長時間に渡り、ありがとうございました。長谷川さんの今後の活動、取材、出版物も楽しみにしています。

不滅 元巨人軍マネージャー回顧録
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最弱球団 高橋ユニオンズ青春記
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■長谷川晶一
1970年5月13日・東京生まれ。ノンフィクション・ライター。著書には前述した『不滅 元巨人軍マネージャー回顧録』『最弱球団 高橋ユニオンズ青春記』をはじめ、『イチローのバットがなくなる日―「アオダモ」を巡る渾身のルポルタージュ』『真っ直ぐ、前を―第二回女子野球ワールドカップ 日本代表の十日間』など多数。

公式ブログ「真っ直ぐ、前を――」