■予想外に攻めたFC東京の立ち上がり

1月1日、FC東京は第91回天皇杯全日本サッカー選手権大会決勝で京都サンガF.C.を2-4で下し、同大会初優勝を決めた。大熊清監督はJ2と併せ二冠を達成し勇退、有終の美を飾ることとなった。

京都は、J2終盤の10月19日、4-0と大勝したJ2第6節対コンサドーレ札幌戦からのリーグ戦ラスト9試合を8勝1敗。11月中の天皇杯三回戦の勝利を含めれば10戦9勝という好調さをそのままに、12月の天皇杯三試合を勝ち上がった。そのうち二試合は対J1、しかも相手は鹿島アントラーズと横浜F・マリノスだった。この強さは本物だ。

京都の躍進を象徴するのは、件の対札幌戦から先発に復帰した工藤浩平を含む中盤の支配力ともうひとつ、高い位置での猛烈なプレッシングだ。

東京もリーグ戦二度めの対戦となった9月10日のJ2第27節では、キックオフ直後からこのプレスの餌食となり、前半11分に宮吉拓実のゴールで先制されている。さらに東京は、京都の大木武監督とヴァンフォーレ甲府時代に同僚だった安間貴義監督率いるカターレ富山に、京都同様のハイプレスで挑まれ、1-0で敗れている。
つまり東京にとっては、京都のプレスをいかにしてしのぐか、かいくぐるかが、試合のキーポイントとなっていた。今回も京都は、キックオフから鬼のようなプレスでボールを奪いに来るにちがいない。

ところが実際には、東京はキックオフから京都のプレスにさらされることなくボールを廻し、フィニッシュまで到達してしまった。京都はまったくプレスをかけることができない。あまりに東京が攻めるので、結果的に京都が中盤でボールを奪取しての逆襲から先制点を挙げることができたが、ペースは京都のものではなかった。

まさか東京が試合の入りから、あれだけ主体的に攻めるとは──。てっきり京都のリズムで、東京が受ける展開になると個人的には思っていた。予想外だった。

■京都のプレスがハマらなかった理由

高橋秀人の成長を前提とした東京のしっかりとした準備が、この試合展開を呼び込んでいた。大熊監督は言う。

「これはね、富山戦のことはみんなで話したし、オレも工夫したけど。ヒデ(高橋秀人、アンカー)を3バック気味に入れて5-2、4-2くらいで廻したのがハマったと思います。
完璧にリベロに入らないけど、2ストッパー横かリベロ(中央)に入らせて、プレッシャーを絶対にかけられないようにしよう、ということをやっていたので。

それは言葉だけで(片付くものではなく)、ヒデが伸びたからできることで。非常に高橋は……今後はわからないけど、頭がいいからか、攻守に適応能力があるなというのと。ボールを奪うことができるようになったなぁ……前はどこまで引いちゃうの、という感じだったけど。
けっこうそこで止まったり。要はディフェンスラインを(前に)出さないで、横のシフトが思い切って、よくて。プレッシャーとかも、タイミングとかもよくなったし。

今ちゃん(今野泰幸)がそうなんだけど、天然的な感覚でうしろのディフェンスラインを遅らせながら、サイドバックとかに行くというのができていた。ヒデもいまは、けっこう自分のマークを外しながら、早くもなく遅くもなくサイドにプレッシャーに行くことができている。

だからディフェンスラインが出なくてすみ、安定すると。ということが自然にあいつ、できてきているなっていう感じと。やっぱりつなげる。3バックになっても、下がってもつなげるし。けっこうよくなっているなという感じですね」

プレスがハマらなかった理由を問われた工藤の回答は、大熊監督の談話を裏付けている。
「やっぱり、(東京の)真ん中のセンター二枚とボランチ二枚が巧かった。(プレスに)行っても、一回で獲れなかった。そしてそれを二回、三回と追えなかった」