大木監督は東京がサイドで優位に立っていた点を理由に挙げた。試合後の共同記者会見で、序盤、主体的にプレーできなかった理由を大木監督に訊くと、こう答えられた。
「サイドのスペースでスタートを切るのが、東京は早かったですね。椋原(健太)君と徳永(悠平)君。そこについていけなかったですね。ついていけないと言っても、最後のところでなんとかなるかなという気はしていましたけれども、そこはちょっと問題かなと。
それからもうひとつは、うしろが出てくる前に、右サイドは石川(直宏)君が非常に速かった。そこは、ほんとうにピンでちぎられていたと思います。そこで後手を踏んだと思います」

中央の四人によるボールを離さずエリアを明け渡さないパス廻し。そして彼らに使われるサイドバック、サイドハーフの速さ、強さ。もともと個の能力が高い東京イレブンが、プレス対策を講じてこの決戦に備えてきた、とあれば、中央でもサイドでも東京が優位に立つのは、もはや必然だった。
あるいは、一本気に自分たちのサッカーを貫こうとする大木サンガと、自分たちのサッカーを貫きつつ相手をリスペクトして対応しようとする大熊東京、双方のキャラクターの隔たりが呼び込んだ結果なのだろうか──。

■「きょうはほんとうに感動した。初めておまえたちを称える」

ただ、大熊監督が「言葉だけではない」と言ったように、戦術のかたちを整えて対策をすれば勝てるというものではない。

勝つための根本には戦う気持ちを含めた平素の強さが必要だし、それは一年を通じて積み重ねてきたものだ。
ミックスゾーンへ姿をあらわした徳永悠平は、試合後、大熊清監督がFC東京イレブン全員を称えたことをあきらかにした。
「きょうはほんとうに感動した。初めておまえたちを称える」

戦前、梶山陽平が珍しく「昂っているんですよ」と自ら心中を吐露するほどに、東京イレブンは気合が入っていた。試合後の権田修一は「きょうに関しては気持ちです」と言い切った。
熱い指揮官に怒鳴りつづけられた、品行方正でおとなしい性格の選手たちが、戦う集団になっていた。最後の最後で、「クマさん」が認めざるをえないほどに。
表彰台に立ち歓喜に揺れるイレブンを、大熊監督が涙の混じるさみしげな顔で見つめていた。卒業生を送り出す教師のようだった。

結果は2-4でアウエー側に陣取る東京の大勝となったが、両チームとも称賛に値するプレーだったことは確かだ。
昨年J2優勝の柏がJ1優勝を達成、FCWCで準決勝に残ったこと、そして今回の天皇杯決勝が史上初のJ2決戦となったことで、にわかにJ2が脚光を浴びている。

かつて佐藤由紀彦は「J2は魂が磨かれる場」だと言ったが、個人もチームもクラブも、その周縁に位置するファン、サポーターやメディアも、いま一度自らを鍛え直すのに、J2が恰好のカテゴリーであると断じても差し支えはないと思う。

もし京都が元日決戦に勝っていれば来季はACLに出場する事態になっていたが、通常J2のチームは、天皇杯とJ2以外の試合に忙殺されることなく、じっくりと自らを熟成させることができる。

東京も京都も、序盤戦は逆風のただなかにあった。京都は開幕戦でいきなりつまずいたし、東京も再開幕戦でつまずいた。

ともに低評価のなかから諦めずに自分たちのサッカーを追求し、ここまでやってきた。その求道的な姿勢、そして結果を残す勝負師としての姿は、ふたりがFIFAワールドカップ南アフリカ大会でコーチとして仕えた岡田武史にダブる。岡田監督は批判のスクラムにさらされながら、本大会で16強進出という結果を残した(もっとも、大木監督と大熊監督を批判した記者に対して土下座しろという声があるとは聞かないが……)。