■仙台のシーズン当初の狙いを再検証

今回から2回に分けて「検証『V-Shift』」と題し、ベガルタ仙台の今シーズンを総括したい。

仙台は東日本大震災の被害を受け、激動の一年となったが、今シーズンリーグ戦は14勝14分け6敗勝点56の4位で終了した。震災以降「希望の光」となることを合い言葉に、選手は全力で戦い続け、クラブ史上最高の成績でリーグ戦を終えることができた。
今シーズン、仙台の戦いを語る上で一番クローズアップされるのは「気持ち」の部分である。震災があって、被災地のために気持ちを見せ続けたからこそこの成績が出た、という見方はある意味正しいものと言える。しかし元々仙台は今シーズン「V-Shift」というスローガンを掲げ、一桁順位を目指し、戦略的な補強を行って、J1リーグでの飛躍を目指していた。シーズン当初狙いとしていたことが概ねできた上で、「気持ち」を見せ続けることができたからこそ一桁順位を達成し、さらには4位という上位でリーグ戦を終えることができたと言える。

Jマガでは2月に「V-Shiftの本質」と題し、手倉森誠監督のインタビューを行っている。このインタビューでの発言を振り返り、狙いとしていたことの何ができて何ができなかったのかを再検証する。

■守備範囲の広い選手に頼った前半、全員の守備範囲が広くなった後半

手倉森監督は2月のキャンプ時、今シーズン目指す戦いについて以下のように語っている。「堅守速攻のスタイルから少し戦い方の幅を広げたいと思います。守備範囲を一人一人、グループが広げることにより、逆に攻撃に割く時間が増えるだろうと思いました。攻撃が増えた時にボールを握れなかったり、決定的なチャンスを決められなかったりすると順位は上がりませんので、プラスして攻撃のクオリティを高めれば一桁順位により近づけると思いました」選手全員の守備範囲を広げ、攻撃に割く時間を増やしたいという狙いを持って今シーズンを戦った。

さらに補強したチョビョングク、マックス、角田誠については以下のように語っている。「リーチが長いこと、活動量があること、上背があること、そしてアプローチの距離が重要です。ボールが流れている間寄せる距離が伸びることで、相手に対しての威圧感を増やしたいです。それに気付かされたのは名古屋でした。対戦時、自由にやらせてくれる時はありますが、なかなか前に打ち込めませんでした。打ち込んだ先の一人一人が強かったです。ピクシーが意図的に大きい選手を揃えている意図が分かり、良いものは盗まなければと思いました。中央が硬くなければ、左右に対して守備範囲も広がりませんので、中央に良い選手を獲得しました」

結果的にマックスはヘルニアの治療が長引き、シーズン途中で帰国してしまったが、チョビョングクと角田誠の補強は大当たりだった。中央に守備範囲の広い選手を獲得できたことにより、守備が安定したのみならず、攻撃にかける時間も増やすことができた。象徴的なのは、今シーズン赤嶺真吾に次ぐゴール数を挙げたのは右サイドバックの菅井直樹だったことだ。昨シーズンは攻め上がりたいと思っても、守備をしなければならない時間が多くなってしまったことで、なかなかゴール前には顔を出せなかった。しかし、今シーズンの菅井は中央に守備範囲の広い選手が入ったことで、安心してゴール前に顔を出すことができた。

前半はチョビョングクと角田に頼る傾向も見られたが、後半の戦いでは彼らに頼らず、他の選手も守備範囲を広く取ることができた。センターバックには渡辺広大、ボランチには高橋義希や松下年宏が入っても、守備が大きく破綻することはなかった。手倉森監督はリーグ戦最終戦の試合後記者会見で「レベルの高い選手達とまたトレーニングすることによって、周りもまた成長できたということですし、強い個が、チームとして連動して動けるようになったというところです」と語った通り、他の選手もチョビョングクや角田らに引っ張られ、大きく成長できた一年だった。