Apple銀座店ではiOS開発者のための様々なイベントが開催されている。7月4日のイベントでは、iPhoneアプリ開発者によるアプリ自慢として、「Coode Camera」や「深界魚」のプレゼンが行われた後に「ゲームカテゴリの壮絶なバトルを勝ち残るために」というテーマで、米国の事例として「Angry Birds(アングリーバーズ)」、日本の事例として「ポケットベガス」が取り上げられた。

今回は、この中から「アングリーバーズ」に関して、セミナーレポートをお届けしたい。

アングリーバーズは、世界一売れたスマートフォンアプリと言っても過言ではなく、すでに全世界で2億人がダウンロードしており、現在、シリーズ版として、「アングリーバーズ Seasons」と「アングリーバーズ RIO」がリリースされている。
この3作品は今もなお、iPhoneの全米ダウンロードランキング10位以内に全てがランクインしているほど人気なのだ。

一過性と言われるiPhoneアプリ市場の中で、なぜこの3作品がとてつもない規模で売れ続けるのか? いくつかのキーワードの上げながら、その謎に迫りたい。

●神髄はシンプル・イズ・ベスト
このゲーム、鳥を飛ばすためにゴムバンドを引くという、一つのアクションで成立している。
1アクションで1パラメーターと言っても、角度や強度が緻密にシミュレートされており、これこそが、クリック回数が多くパラメーターが多いケータイゲームと対照的に、「スマホらしさ」と言えるところだ。

●多様な展開と簡単なチュートリアル
鳥を飛ばすだけのゲームだが、7つの鳥が様々な動きをして、ゲームの戦略性がある。新しい鳥が登場してくる際のチュートリアルは1枚の画像しかない。しかも文章が一切ない。それは、ゲームの特徴そのものがとても分かりやすいからだ。

●哲学的なバックストーリーを感じさせる
ユーザは最初に、緑の豚に卵を取られた鳥の物語の絵を見せられる。ユーザの多くは、この豚を悪者だと、頭の中にすり込まれる。

でも、実際はどうだろう。鳥は命と引き換えに、豚の世界を粉々にブチ壊すテロリストだ。豚サイドを冷静に観察すると、鉄とガラスと木と火薬を使いこなし、建造物をも作る文明社会だ。おそらく卵にしても乱獲はしていないだろう。

まさに、平和ボケした資本主義経済のどこかの国の国民にも見える。このように世界観がきちんと設定されているゲームだからこそ、プレイヤーをゲームの世界に無意識に引き込むのだ。

●コンプリートする楽しみ
アングリーバーズは、膨大な面をクリアするだけが楽しみではない。多くの人は3つ★でクリアすることに楽しみを見いだしているが、決してスコアだけがゲームの面白さではないということを示唆しているようだ。
後述する「マイティイーグル」では、「完全破壊率100%」のコンプリートの楽しみも増える。

●アンロックされたもの
アングリーバーズは、ある面をクリアしないと次の面にはいけない設定で、多くのゲームがその方式を取るようになった。人はベールに包まれているものがあると、ついつい脱がしたくなる。
そういったゲーム性は、ゲームのみならず色々なアプリに応用できるはずだ。

●本来のゲームに関係ない要素も重要
アングリーバーズには「金の卵」がよく出てくる。本来のゲーム性、つまりクリアするためには関係ない要素が、ファンの間で人気を博し、「ゴールデンエッグの獲り方」といったブログ記事を書いている者も多い。

実はゴールデンエッグを集めると、ボーナスステージが出てくるのだ。ボーナスステージ自体は難しいものでもない、スーパーマリオで言うコインだけの面、いわば息抜きの面だ。でもファンにとってそこに到達できるのは一つの誇りなのだ。

●難易度の重要性と救済措置
ゲーム作りは難しい。いきなり難しいゲームを提示したらユーザにそっぽを向かれるし、いつまでも簡単なことを強要させると、ユーザに飽きられる。

アングリーバーズは膨大な面を用意して、難易度のバラつきを用意する形を取った。そして、難しい面でつまずいているユーザに対しては、マイティイーグルという別売の救済措置を用意した。

このマイティイーグル、鮭缶詰をほうりなげると、画面一杯にクジラの影のようなものが通過して、全てをぶっ壊すというゲーム性もへったくれもない存在だが、これがユーザには歓迎されているようである。

●ソーシャルを活用する
iPhoneアプリの王者は、IT感度が非常に高い。なんと、Facebookで「いいね!」をすると開く面や、Twitterで投稿すると開く面がある。そしてユーザが投稿しているYouTube動画へのリンクも用意しているのだ。

なぜ、ユーザがYouTubeへ動画を投稿するのかについては後述することにする。

●ユーザとの約束(でも気まぐれ)
アングリーバーズRIOでは、現在進行形で、バージョンアップ計画の予定がゲームにて告知されている。例えば、5月の欄が空欄になっているとする。ユーザは5月に大幅な面追加があると期待する。
しかし、待てど暮らせどなかなかバージョンアップされなかった。実際、5月の更新は10日以上経ってから行われた。

これはまるで、スティーブ・ジョブズとAppleファンの関係値みたいだ。ちなみに8月と12月は更新しないと宣言している。こういった気まぐれな行為が、ファンをさらに虜にしているようだ。

●ファンの参加するアプリ
Googleで「アングリーバード 攻略」と検索してみると、たくさんの動画やブログ記事がヒットする。事実としてファンの参加があるアプリは、絶大はブランドを構築している。
こちらに関しては次の「ユーザサイクル」で詳しく述べたい。

●ユーザサイクルとは
この言葉は、「500 StartUp」のデーブマックレア氏が提唱した言葉だ。簡単に言うと、巷のマーケティングの考え方である「見込みユーザ」「購入者」「リピーター」という分け方に対し、「訪問者(Visitor)」「貢献者(Contributor)」「啓蒙者(Distributer)」という新しい見方を示している。

前者が「見込みユーザ」を「購入者」へ、「購入者」を「リピーター」へとスライドさせることに重きを置くことに対し、デーブ氏は、もっと訪問してもらうためにどうするか、もっとハマってもらうためにどうするか、もっと拡散してもらうためにどうするか、と個別に3つの施策をせよと唱えている。

アングリーバーズの場合、訪問者はAppStoreから入ってくる。ランキングの高い位置にいることが企業としての努力する場所だ。貢献者に対して、絶え間ないバージョンアップと面の追加により、継続性が維持されている。

これだけたくさんのプレイヤーがいるから、啓蒙者は動画をアップしたりして自慢したくなる。啓蒙者が拡散するから、訪問者がまた刺激される。こういったサイクルを見事に作り出しているのがアングリーバーズなのである。

米国では、訪問者対策に関して鉄板施策と言うべき、キッズアニメが放映されている。だから、未だに全米のiPhoneランキングで絶大な地位を維持しているのだ。

●母集団形成とシチュエーション設定
せっかくゲームカテゴリで上位になっても、総合ランキングが上がらないという現象がよく起きている。これはニッチ層へのヒットだけで、一般へは大きく広がらなかった事例だ。他のカテゴリでもよく起きる。
ヒットを狙う場合、コアターゲットだけではなく一般層を飲み込むことが重要で、この現象が起きて、始めてヒットする。

例えば、インスタグラムはカメラマニア向けだけではなく、一般層に写真加工の楽しさを教え、マニアが見本になってくれるという、2つの母集団のうまいドッキングが背景にあった。

アングリーバーズの場合、ベッドで妻がゲームにハマっていて旦那が俺にもやらせろという場面、レストランでうるさい子供に「このゲームでもやってろ」とわたすような場面、まだ打ち解け合っていない男女がiPhoneでハマったゲームとして取り上げる場面などが容易に想像できる。

ゲームというひとくくりの中でも、パズルゲームと言えばパイが狭められるし、アクションと言えばそれもパイを狭めてしまう。

ゲームの開発者から見れば、アングリーバーズは、シミュレーションゲームの類なのだろうが、ユーザはそんな風にはとらえていない。パズルでもなくアクションでもないけど、「とにかく面白いからやってみろ」というゲームになっている。

●18カ月で15回ものバージョンアップ
これに関しては何も説明がいらないだろう。ただ面白い事実として、日本では、無料版は1日3000ダウンロードで100位に対して、有料版は1日1000ダウンロードで20位だということである。
無料版の方がランクがあからさまに低いということを、どう解釈するかがきっと今後のポイントになるだろう。

●マネタイズの方法は
アングリーバーズは、iPhoneではユーザ課金モデル、アンドロイドでは広告モデルを取っている。その他、ウェブではChrome版が出ており、マネタイズ手段はない。またPSPや任天堂への展開が噂されている。

実は、このゲームを開発したRovioの創業者は、「サンリオのようなビジネスをしたい」と表明しており、
今は、アングリーバーズのアニメ映画やグッズ販売を強化している。
Rovio社は今まで出した50のアプリの全てが惨敗しており、アングリーバーズの大ヒットを最後に、もうそれ以外のゲームアプリは作っていない。

アングリーバーズ以前の同社は他の企業と同じく、Appleの栄光に花を添える脇役に過ぎなかったのだが、ひとたび大ヒットした後は、「熾烈なiPhoneアプリの世界でランキングを制したキャラクター」として、皮肉にもAppleがそのブランド構築に大事な役割を担っているという構図となっている。

そして、振り返ってみれば、iPhoneアプリは彼らのビジネスのプロモーション手段の一つに過ぎないと気付くのだ。

●158アプリを作るまでギブアップは早い
アングリーバーズの開発者はRovio社であるが、最初のアングリーバーズだけは、クリックゲーマードットコムから販売している。彼らはおそらくゲームアプリのアグリゲーターなのだろう。
現在、配信しているアプリは158本で、見渡す限り、ヒットアプリはアングリーバーズだけだ。

もし、あなたがiPhoneアプリの世界を諦めたくなったら、この事実だけは忘れて欲しくない。
「158本のアプリを作らずして大成功はあり得ない」と。

次回は8月7日に、Apple銀座店で「ソーシャル型アプリケーションの行方(Twitter、カメラ、ゲーム)」というiOS開発者向けイベントが予定されている。ぜひこういったところで、次の開発のヒントをもぎ取って欲しい。

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