先日発表された第144回直木賞の候補作品に選ばれ、惜しくも賞は逃したものの、大きな注目を集めた荻原浩の『砂の王国』(講談社)。『小説現代』で2年弱にわたり連載していたものを、単行本化にあたって大幅に加筆し刊行。その結果、上下巻合わせて約800ページにもおよぶ大作に仕上がり、著者の数々の作品の中でも最長の力作となりました。

 荻原浩といえば、若年性アルツハイマーにかかる男性の姿をリアルに描いた『明日の記憶』が有名です。2006年に渡辺謙主演で映画化されたため、ご存知の人も多いでしょう。

 しかし、リアルさを特徴とした作風から一転、『砂の王国』で描かれるのはエリート証券マンの超絶人生。ブランドスーツを着て働き、クリックひとつで何億というお金を動かしていたところからホームレスへと転落。やがて、不思議な出会いを通じ、新たな宗教を興すに至るという驚愕の内容。

 ですが、この変化は突然のものではないようです。著者は某インタビューで、1995年に起こった地下鉄サリン事件のころから、ホームレスが宗教を興して成り上がるという作品の構想を練っていたと語っており、並々ならぬ想いをこの作品に込めていることが伺えます。

 書籍の帯に「衝撃の結末」とあるように、著者渾身の作となった『砂の王国』は、最後まで展開が読めない社会派のエンターテイメントとして、荻原浩の新境地を見せつける一作といえるのではないでしょうか。



『砂の王国』
 著者:荻原 浩
 出版社:講談社
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