公務員志望の学生さんから「公務員になるのにパソコンはどれくらい使えたらいいですか?」という質問を受けたならば、おおよそ次のような回答になるであろう。
【Webが使えて、メールの送受信ができて検索スキルがあればよし。あとはExcelが「ほどほどに」使えればよい】

技官系は、CADなどの知識が必要な場合もあるが必須ではない。現在の業務システムは多くがWebベースで構築されているので、業務知識が付けば自然と覚える。ただし、部署によってはExcelでの統計業務が必要になる場合があるので、最低限タテヨコの表を引いて基本関数を埋めることができればよい。それ以上のスキルは災いをもたらすことが多い。というのも、お役所ではExcelが得意な人はSEと同等と見なされることがあるのだ。



現在、お役所勤めの40歳以上の職員は、新規採用職員時代にワープロ専用機からオフコンを経て、パソコンに至るまで、お役所IT化の先兵として使役させられてきた経験の持ち主が多い。なんのことはない、当時の上司から「これからは君たち若い人たちの時代だ!がんばってくれたまえ!それでこの書類ワープロで浄書してくれないか」とおだてられて、その気になってがんばってきた人たちだ。

さらに、統計業務で表計算ソフトも使わされているうちに、いつしか「彼はExcelが得意だ」という風評が立つ。
ところがお役所の場合、Excelが得意→パソコンが得意→コンピュータシステムが得意→ITのスペシャリスト→SEとまで言われるようになる。
とんでもない買いかぶりだが、困ったことに人事担当者までがこれを信じ込み、いつしかお役所の電子計算機担当部署に配置されることも少なくない。

この人たちが、前回紹介した「電子申請システム構築プロジェクト」などを任されたりすると、なぜか市民が悲惨な目に遭うことになる。
電子申請システムに限らないが、広く一般ユーザーの用に供するシステムを構築する際に、もっとも必要なスキルは、ユーザー視点に立って物事を判断する能力があること、そして何よりシステムの対象となっている業務を熟知していることである。
パソコンの才能などは全くとは言わないがほとんど必要ない。構築するのはSIベンダーであるから、ベンダーの担当SEと協議して要件定義を行っていくべきなのだが、ただのExcel好きがシステム構築を担当し出すと、ユーザー視点も業務要件もそっちのけで、いきなり実装論に入っていったりする。

かくしてできあがったシステムは、実装は立派でも誰も使わないシステムと成り果てる。先週紹介した住民票取得申請の電子化を例にとれば、システムの出来不出来が問題なのではない。本人認証に必要なカードリーダをどのようにして普及させるか、普及促進のために安価または無償で提供できるよう予算を取り付けられないか、カードリーダのデバイス組み込み作業代行をどうするか、お年寄りにお役所へのご足労をさせぬよう、訪問介護者の代理手続の制度をどうするか等等について、関係部署との連絡調整を密にすることが必要なのである。

例示するのは簡単だが、実務的には高度な内部政治的立ち回りが必要となることが多々あるため、一定職位以上の監督者が率先して行うことが求められるが、いかんせんシステム開発などいくらがんばったところでお役所の昇進査定には大して影響力がない。それならばパソコンが得意(Excelが得意)な人間に任せてしまおうという体質が最大の問題なのである。


民間企業であれば、システム開発によっていくら利益を出せるか(あるいはコストが縮減できるか)が厳しく査定され、これはシステム監査基準における「効率性」(組織活動の中でシステムを有効活用して、組織の付加価値を高めているか)の監査でチェックされるが、親方日の丸に会計検査はあってもシステム監査はない。よってシステムの効率性は誰も知らない、というかお役所では誰も考えない。

使われないシステム開発に税金が投入されるのは困る。ひとつのシステム開発・導入プロジェクトが立ち上がったら、それによってどれだけのコスト縮減(人件費削減)が可能になるか、市民がチェックできる体勢を確立すべきであろう。そうでなければ、市民の納めた税金がExcelオタク役人の道楽に費やされ、使われないシステムがインターネットの片隅に鎮座ましますことになる。

(編集部 石桁寛二)

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