テレビやネットからは毎日のように気が滅入るようなニュースが流れてくる。中にはまるで映画のようなショッキングな事件も。

今回はそんな実際の事件をモデルに作られたサスペンス・ホラー10作品をピックアップしてご紹介しよう。

『チャプター27』(2007)

実際のモデル:ジョン・レノン殺害事件(1980年)

1980年12月8日、世界に衝撃が走った「ジョン・レノン殺害事件」をそのままに追った作品。殺害犯マーク・デイヴィッド・チャップマン本人への取材を基に、ジョン・レノンが5発の銃弾に倒れた凶行までの3日間を描く。

チャップマンを演じたジャレッド・レトーは体重を30kgも増やし、プライドの高い誇大妄想の男を熱演。タイトルの「チャプター27」は、チャップマンがジョン殺害時に所持していた26のチャプターで構成される愛読書「ライ麦畑でつかまえて」に由来している。

事件から約40年が経ち、青年だったチャップマンは現在64歳。彼がこれまでに申請してきた仮釈放は却下され続けている。

『コレクター』(2012)

実際のモデル:ゲイリー・ハイドニック事件(1986年)

本作は3年間連続娼婦失踪事件を追っている刑事が17歳になる娘を誘拐され、一方、地下室に拉致監禁された刑事の娘は犯人の異常な目的を知る……というストーリー。ジョン・キューザックが主人公の刑事を務めた。

モデルになったのは1986年11月から1987年3月にかけて約5ヶ月にわたる監禁殺人事件。IQ130の青年ゲイリー・ハイドニックは黒人女性に自身の子供を産ませるため、フィラデルフィア市内にある自宅の地下室に6人の売春婦を拉致監禁。暴行、虐待などに加え、うちふたりを殺害するという凄惨な事件を起こす。

自らが設立した教会で説教の後にハンバーガーをふるまったことから「ハンバーガー司祭」とも呼ばれていた実際の犯人ハイドニックには死刑判決が下され、度重なる自殺未遂の後に1999年死刑が執行された。

『隣の家の少女』(2007)

実際のモデル:シルヴィア・ライケンス殺害事件(1965年)

本作の舞台は1958年、アメリカ・ニュージャージー州の小さな町。少年デヴィッドの隣家に一組の姉妹がやって来るが、姉のメグは隣家の家長である叔母とその息子たちから虐待を受けていた……。

実際の事件は1965年にインディアナ州で起きた「シルヴィア・ライケンス殺害事件」。映画は本件を基に執筆されたジャック・ケッチャムの同名小説を映像化したもの。作中の少女メグが実際の事件の被害者であるシルヴィアにあたる。

実際の事件の犯人ガートルード・バニシェフスキーは、預かっていた姉妹の下宿代の支払いが遅れたことを皮切りに実子たちも暴行に参加させ、長期にわたる虐待でシルヴィアを死亡させた。自宅を訪れた警察に助けを求めた妹の証言から事件は明るみに出て、ガートルードは第一級殺人により有罪となったものの死刑は免れた。

この事件は2007年にもエレン・ペイジ主演で『アメリカン・クライム』というタイトルで映画化されている。

『コンプライアンス 服従の心理』 (2012)

実際のモデル:ストリップサーチいたずら電話詐欺事件(2004年)

本作はアメリカのファストフード店に警察官を名乗る男性から電話が入り、窃盗容疑が掛かっている女性店員の身体検査を「警察への協力」という名分のもと、電話で指示されるがままに行うことになる心理スリラー。

モデルとなった事件は1992年から10年以上にわたりアメリカの30州で70件以上起きていた「ストリップサーチいたずら電話詐欺」。この一連の事件はいずれも警察官を名乗る男が電話がかかってきて、容疑をかけられている従業員を拘束して身体検査をするように指示するというもの。

映画では犯人逮捕となった2004年にマクドナルドで起きた事件を基に、傍から見れば信じられないような手口に騙され、従う人々の姿を描き出す。電話は公衆電話からかけられており、使用されたテレフォンカードのシリアルナンバーから犯人が特定された。

ドラマ『LAW & ORDER:性犯罪特捜班』でもこの事件が描かれ、その際には故ロビン・ウィリアムズが偽警察官を演じた。

『モンスター』(2003)

実際のモデル:アイリーン・ウォーノス事件(1989年)

本作は1989年から1990年の間、フロリダ州で男性7人が犠牲となった連続殺人事件の実行犯アイリーン・ウォーノスの生涯を描いた作品。娼婦のアイリーンはバーで出会った女性ティリアと恋仲になり、二人で暮らすためのお金を稼ぐために殺人を重ねていく。

不遇な幼少〜青年期を送ってきたアイリーンは、次々と犯罪に手を染めるが、ティリアとの出会いからしばらくして、とうとう殺人を犯してしまう。次々に殺人を繰り返し逮捕されたアイリーンは当初、否認を繰り返した。しかしティリアが裏切って証言台に立つと一転、罪を認めて5つの死刑判決を受け、2002年に死刑が執行された。

アイリーン役を務めた主演のシャーリーズ・セロンは、それまでのイメージを覆す役柄に13kgも体重を増量して挑み、見事第76回アカデミー賞最優秀主演女優賞に輝いた。恋人役を演じたのはクリスティーナ・リッチ。

女性ふたりの友情を描くロードムービー『テルマ&ルイーズ』は物語はまったく異なるフィクションだが、この事件に着想を得たとされている。

『プロフェシー』(2002)

実際のモデル:モスマン遭遇事件(1966年)

本作の舞台はクリスマス間近のワシントンD.C.。リチャード・ギア演じるワシントン・ポスト紙の記者ジョンは夫婦で交通事故に遭ってしまう。その事故をきっかけに何者かの影におびえるようになった妻は、間もなく発覚した脳腫瘍でこの世を去る際に謎の言葉とメモを遺す。映画では夫ジョンがこの謎を解こうと奔走する姿が描かれる。

本作の基となったのが、1967年のモスマン遭遇事件。モスマンとは体長2m程で、大きな翼を持つ未確認動物(UMA)。1966年ごろアメリカ合衆国ウェストバージニア州での目撃情報を皮切りに一躍有名になった都市伝説のひとつで、惨事の前に出没すると言われている。

Photo credit: jjandames on VisualHunt / CC BY-ND

実際の事件は、1967年12月15日に起きたウェストバージニア州ポイント・プレザントでの目撃情報で、この日、近くの橋で大規模な崩落事故が起こり、46人が犠牲になった。映画では犠牲者は36人となっている。

『SHOT/ショット』(2010)

実際のモデル:ゴドイでの男性惨殺事件(1944年)

本作は全編ワンカットと謳われたPOV(主観映像)形式で進むウルグアイ発のパニック・スリラー。

人里離れた山奥の廃屋をリフォームするために訪れた父娘は、翌日の作業に備えその暗い廃屋で休もうとすると2階から物音が聞こえ、確かめに行った父親が何者かに襲撃されてしまう。一人残された娘はその何者かと対峙することになるが……。

本作の基となった事件のひとつが、1944年にウルグアイで起きた事件。首都モンテビデオの近くのゴドイの町にある古い邸宅で、舌や目を抜かれ残酷な拷問を受けた2人の男性の遺体が発見された。死体のそばには何枚かのポラロイド写真が遺されており、さまざまな憶測を呼んだが、事件はそのまま迷宮入りとなった。

2011年にエリザベス・オルセンを主演に迎え『サイレント・ハウス』というタイトルでハリウッド・リメイクもされている。

『サイレント・ハウス』より

『アメリカン・ホーンティング』(2006)

実際のモデル:ベル・ウィッチ事件(1817年)

2006年、テネシー州のある古い屋敷。悪夢にうなされる娘を心配する母が、偶然屋根裏で見つけた古い手紙には、屋敷にまつわる恐ろしい秘密が記されていた。

本作のモデルはアメリカのテネシー州で起きたベル・ウィッチ事件。大農園主のジョン・ベルは人望も厚く、妻と8人の子供に恵まれた幸せな暮らしを送っていた。ある日、12歳の愛娘が見えない何者かに頬を叩かれたり髪を引っ張られたりという不可解な現象が発生。ついには聞いたことのない声で罵倒するようになる。

声はジョン・ベルを死ぬまで苦しめると告げ、3年後の1820年12月19日、ジョンは幽霊によって毒殺される。20年後、サタデー・イブニング・ポスト紙がこの事件の犯人は当時12歳の娘だという記事を掲載。それに対してベル家は訴訟を起こし勝訴。多額の賠償金を手にした。

『悪霊の沼』(1976)

実際のモデル:ジョー・ボール事件(1938年)

2017年にこの世を去ったホラー映画の巨匠トビー・フーパー監督のハリウッド進出第1作。テキサスで恐ろしいホテルを経営する義足の経営者と恐怖に見舞われる宿泊客の攻防が描かれる。

モデルとなったのは、テキサスでは「アリゲーター・マン」として都市伝説でもおなじみとなったジョー・ボールによる事件。彼は自分の敷地で飼育している5頭のアリゲーターを見世物とした酒場の経営で生計を立てていた。

しばらくして近辺で女性失踪事件が頻発し、保安官がボールの家に尋問に訪れると、彼は発覚を恐れて銃で自殺した。その後の調査から、死体遺棄を手伝った雇われ夫によって、20名以上の女性がアリゲーターの餌にされたことが明らかになった。

『エンティティー/霊体』(1982)

実際のモデル:ドリス・バイサー事件(1974年)

ある夜、ロサンゼルスに住む3人の子持ちシングル・マザーのカーラは就寝中に何者かに強姦されかけるが、周りには誰もいないという現象が発生。その後も不可解な現象は続き、とうとう息子までが怪我をし、カーラは専門家に意見を仰ぐことになる。

その後カンヌ国際映画祭女優賞を受賞するバーバラ・ハーシーが主演を務め、80年代を誇る異色ホラーのひとつとして支持も厚い本作。女性が幽霊に強姦されたという事件を基に製作されたというから驚きだ。

1974年、カリフォルニア州カルバーシティに住む4人の子供を持つシングルマザーのドリス・バイザーという女性が、3人の男性の幽霊から強姦されていると主張した。映画でも描かれる一連の顛末の後、ポルターガイスト現象は軽減したものの収まることはなく、ドリスは1995年にこの世を去った。

TVドラマ『Xファイル』でもこの映画に着想を得たエピソードが製作されている。

さいごに

世の中は、意外と「まるで映画みたい」と言われるような物語で溢れているようだ。今回は絶対に遭遇したくない事件ばかりを紹介したが、「事実は小説より奇なり」には、喜ばしいものもたくさんある。事実を基にしたハッピーな映画は、またの機会に。

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