軍艦や民間船舶を問わず、船の大きさを表す単位として「○○トン」という単位はよく目にしますが、この「○○」の部分により、意味するものは大きく異なります。そもそもなぜ「トン」なのか、由来は大航海時代の欧州にあります。

単位の「トン」をめぐるウソのような本当のお話

 港や航路を眺めていると、大小さまざまな船が目に入りますが、これらの船の大きさを表すスケールに、各種の「トン数」という単位があります。


海自護衛艦の大きさは「排水トン」などで表される。先頭のうらが型掃海母艦「うらが」は全長141m、基準排水量5650トン、満載排水量6850トン(武若雅哉撮影)。

 たとえば「漁船法」では、漁船の1級船から7級船までの分類について、それぞれ海水(海で漁をする)であるか淡水(湖や河川で漁をする)であるか、動力(エンジン)はあるのかないのか、という条件に加え、船の大きさを表す「総トン数(後述)」がその基準になっています。1級船は100総トン以上の海水動力漁船、2級船は5総トン以上100総トン未満の海水動力漁船、といった要領です。

 これが軍艦になると少々異なり、海上自衛隊の護衛艦の大きさも「トン」で表していますが、単位は「排水量(後述)」になります。たとえば2019年2月現在、護衛艦のなかで最大の「いずも」は、「基準排水量(後述)」約1万9000トン、「満載排水量(後述)」が約2万6000トンと公表されています。


はたかぜ型護衛艦「しまかぜ」。全長150m、基準排水量4650トン、満載排水量5950トン(武若雅哉撮影)。

とわだ型補給艦「ときわ」。全長167m、基準排水量8150トン、満載排水量1万2150トン(武若雅哉撮影)。

いずも型護衛艦「いずも」。全長248m、基準排水量1万9000トン、満載排水量2万6000トン(武若雅哉撮影)。

 これら、船の大きさを測る「トン」という単位は、いわゆる重さ(質量)の単位である「t」(1t=1000kg)とは、実は少々ニュアンスが異なります。その由来も古く、一般社団法人 日本船主協会「海運雑学ゼミナール」によれば、15世紀までさかのぼるといいます。

 貿易船が、1回あたりの航海でどれほどの利益をあげられるかは、ひとえに、どれほどの荷物を積めるかにかかっています。荷物は商品のみならず、乗組員の給与や食事なども積み込まなくてはなりません。このとき、利益率の計算などをするために、15世紀の欧州商人たちが用い始めたのが「トン」という単位でした。「トン」数はもちろん、大きければ大きいほど、多くの荷物を搭載できる大きな船であることを意味します。

 では何を基準とした単位かというと、これが「酒樽」の数だというのです。15世紀当時の欧州における主要な貿易品のひとつに、ワインやウィスキーなどの酒類が挙げられますが、この酒樽をいくつ積めるかで、船の大きさを表していたのです。樽を10個載せられれば、その船は「10トン」となり、100個乗せられれば「100トン」というわけです。

 この「トン」の由来、すなわち、なにゆえ樽ひとつが「トン」と数えられるようになったのかというと、酒樽を数えるために叩いた時の「トン(TonまたはTone)」という音が語源なのだそうです。

 嘘のようなお話ですが、日本船主協会も「嘘のようで本当の話」としています。

樽が単位といっても、大きさもあれば重さもあるわけで

 さて、ひと口に「樽の数を基準とした単位」といっても、そこには「大きさ(容積)」と「重さ(質量)」があり、それぞれ別の単位になります。当時の酒樽の容積は、1個あたり40立方フィート(約1.133立方メートル)、その樽に酒を満たすと重さは2240ポンド(約1016kg)です。これを基準単位として、前者を「容積トン」、後者を「重量トン」と呼ぶようになり、海運業界での習慣となっていきました。つまり、船の大きさを表す「トン」は、「容積」を表すものと「重さ」を表すものに大別されるというわけです。


日本郵船の自動車専用船「アリエス・リーダー」。全長199.98m、6万9931総トン(乗りものニュース編集部撮影)。

 それから時代を経て、重さや大きさを表す国際的な単位系として、日本も採用する「メートル法」が提唱されたのち、「重さ(質量)」について、1000kg=1トンと規定されました。日本国内で重さ(質量)を表す「t」の由来はこれです。前述のように、「トン」はもともとイギリスで使用されていたヤード・ポンド法における単位なので、それとは異なることを明示するため「メトリックトン(メートル法におけるトン、の意)」とも表し、またメートル法が制定されたフランスにちなみ「仏トン」とも表されます。これに対し、2019年現在もヤード・ポンド法が広く使われているイギリスやアメリカにおける「トン」は、それぞれ「英トン(ロングトン)」「米トン(ショートトン)」と表し、英トンは前述のとおり約1016kg、米トンは約907kgとなっています。

 そして海運業界で使用する「重量トン」については、長らく英トン(ロングトン)が使用されてきたのですが、現在ではメートル法を適用した1000kg=1重量トンが広まっているとのことです。

 一方、容積トンも変化が見られ、かつて1容積トン=酒樽1個=40立方フィートだったものが、現在では1容積トン=100立方フィート(約2.831立方メートル)と規定されています。つまり「容積トン」に関しては、実はイギリスのヤード・ポンド法を元にした単位系になります。イギリスは、公式にはメートル法への移行を進めているのですが、海運業界ではまだヤード・ポンド法を元にした単位も広く使われているのです。

 では現在、船の大きさを表すのに、具体的にはどのような単位が使われているのでしょうか。おもなものとして、「総トン(グロス・トン)」「排水トン」「載貨重量トン」が挙げられます。

「総トン」は重さにあらず 各種「○○トン」の意味するものとは?

「総トン」とは容積を表す単位で、日本においては「国際総トン数」および「総トン数(国内総トン数)」の2種類に分けられます。船体や上部構造などの容積を、国際的に定められた計算方法で算出し表すものが「国際総トン数」で、このとき前述のように、100立方フィートを1容積トンとして計算するため、ヤード・ポンド法を元にした単位になるというわけです。なお、日本国内で「総トン数」とのみいうときは、上述の「国内総トン数」を指し、国際総トン数に独自の係数をかけて算出される単位が使用されています。おもに客船など、船体の容積(広さ)を重視する船の大きさを示すのに使用されます。


郵船クルーズ「飛鳥II」。全長241m、5万0142総トン(乗りものニュース編集部撮影)。

米海軍空母「ロナルド・レーガン」。全長333m、満載排水量10万1429トン(武若雅哉撮影)。

オイル/ケミカルタンカー「SLNC PAX」。全長101.39m、載貨重量トン数7985トン(武若雅哉撮影)。

「排水トン」とは重さを表す単位で、おもに軍艦や護衛艦などで使用されます。船を水に浮かべたときに、その船の水中に沈んだ部分が排出した水の重量を示すもので、たとえば、満水の湯船に浸かったときに、湯船からあふれ出るお湯の量がそれにあたり、実質的にその船の重さ(質量)そのものを表しています。従来、乗組員や燃料などの搭載量の違いから細分化されていましたが、近年は計画上の乗組員、燃料、弾薬、食料、水など所定の搭載品を最大限搭載した「満載排水量」が、各国の海軍などで広く公式の諸元として使用されています。なお、冒頭に触れた「基準排水量」について、海上自衛隊では独自の算出方法を使用しており、他国のそれと名前は同じでも中身が異なる数字です。

「載貨重量トン」とは、船に何も積載していない空の状態の排水量と、貨物などを満載にした時の排水量の差のことで、つまり、その船がどれくらいのものを積めるのかを表しています。ただし満載状態には燃料、食料、水などを含むため、実際に積める貨物量はこの数字より小さくなります。貨物船やタンカーなどに使用され、たとえば物資を10万トン積める船を「10万トンタンカー」などと呼んでいます。かつての「千石船」なども、この「載貨重量」を元にした呼称です。

 このように船の大きさを表す単位は、たとえ「トン」とついていても、重量であったり容積であったりと、いくつもの種類があり、単純に数字だけで比較できるものではありません。

【写真】「大和」が史上最大の戦艦といわれる理由は排水量


旧日本海軍の大和型戦艦「大和」および「武蔵」は排水量が史上最大の戦艦で、基準排水量約6万4000トン。全長は263mで、アメリカ海軍のアイオワ級戦艦のほうが約7m長い(画像:アメリカ海軍)。