防衛省が公開した韓国艦のレーダー照射に関する動画にて、搭乗員たちの音声からは、危険な状況下でも冷静に任務をこなす様子がうかがわれました。銃口を向けられても取り乱さない職場、どんなところなのでしょうか。

11名搭乗の「P-1哨戒機」という職場

 2018年12月28日、防衛省は同月20日に発生した、海上自衛隊P-1哨戒機に対し韓国海軍駆逐艦が火器管制レーダーを照射したと見られる件について、ことの顛末をおさめた動画を、Youtubeにおいて公開しました。この動画はP-1のコックピット内左側にある機外撮影用の小窓から、市販のカメラで録画されたものと見られます。防衛省・海上自衛隊において、哨戒機が実際の任務にあたる様子を収めた長時間の映像が公開された前例はなく、極めて異例ともいえる措置でした。


海上自衛隊のP-1哨戒機(2018年12月7日、関 賢太郎撮影)。

 動画には、P-1が駆逐艦の火器管制レーダーに「ロックオン」される、すなわち艦対空ミサイルなどによる攻撃宣言を受けるという脅威に晒され、「すごい音(動画にて搭乗員が発言)」の警報が鳴るなか、各搭乗員は取り乱すことなく落ち着いて任務をこなす音声が同時に収録されていました。

 航空機に限らず自動車や自転車まで、あらゆる乗りものは「監視・判断・決定・行動」の4つのプロセスを無限に繰り返しています。そしてそれは、関わる人数が多ければ多いほど、実行速度が遅くなってしまいます。一方で、飛行機は高いスピードを持つ乗りものであるがゆえに、何をするにも時間的猶予がありません。そうした観点から、哨戒機としては世界最大級に機体が大きく、11名もの乗員で運用され、速度の高いジェット機であるP-1は、「高性能がゆえの難しさ」をはらんでいるだろうことは想像に難くありません。にも関わらず、動画のなかの搭乗員たちは能率よく動き、上述のような「難しさ」をまったく感じさせませんでした。

 P-1を運用する秘訣はどこにあるのでしょうか。12月上旬、海上自衛隊厚木基地(神奈川県)にて、同基地のP-1運用部隊である第4航空群第3航空隊の、ふたりの哨戒機機長経験者に話を聞きました。

危険と隣り合わせの職場、最も重要なものは?

「機長として飛ぶ際は、何よりチームワークを一番重視します」と、P-1パイロットにして機長の資格を持つ小笠原 拓1等海尉は最初にそう断言しました。

「普通の民間機とは違い、P-1は各ステーション(搭乗員)がヘッドセットをつけてやり取りを行います。その情報交換をうまく進めるには、チームワークが必要です。チームワークを良くするためには風通しの良さ、つまり、みながしゃべりやすい環境を構築しておくことが欠かせません」(小笠原1尉)


「誰でもなんでも話しやすい環境というのは非常に重要なのです」という小笠原1尉(2018年12月6日、関 賢太郎撮影)。

 P-1の副操縦士であり、機種転換前のP-3C哨戒機においては機長資格を持っていた、同じく第3航空隊の諸隈宣亮(もろくまのぶあき)1等海尉も、チームワークの大切さを強調します。

「各搭乗員にはそれぞれの仕事があり、その能力をしっかりと発揮させるコーディネート(取りまとめ)を上手くやっていくことが、機長にとって重要な役割なのかなと感じております。また、機長が独断で『こうする!』ということはせず、クルーに『あの機長は怖いからこういうのはちょっと言いづらいな』とは思われないよう、『こうしたらどうですか?』と言ってくれやすいような雰囲気作りは、とても大事にしています。もしも意思決定が間違った方向に逸れていきつつあったとしても、搭乗員の誰かがひと言、口にするだけで、それをちゃんとした方向に戻せられれば、そのぶん任務達成に近づけます」(諸隈1尉)

 諸隈1尉自身も、ちょっとしたミスに気付かないでいたところを、別の搭乗員のひと声で間違いを認識でき、助けられた経験があるそうです。もし「鬼の諸隈」などと恐れられていたならば、このとき助言を得られなかったかもしれません。

 どんな経験豊富なベテランの機長であっても人間である以上、絶対にミスしないということはありえず、「上司(機長)に意見しづらい」がゆえに重大事故へ結びついた事例は、軍民問わず決して珍しくありません。最も重要なこととしてふたりのパイロットが共通して挙げた、「お互いがなんでも言える関係」であることは、任務を確実にこなすことはもちろん、安全面においても欠かせないといえます。

P-1搭乗員、11名の内訳は?

 なお、搭乗する機体は任務のたびに変わるものの、各搭乗員の編成はひとつのチームとして、日頃からコミュニケーションを欠かさず、意思疎通をすることで、「気心の知れた」メンバーとなることを心がけているそうです。それを聞いて筆者(関 賢太郎:航空軍事評論家)は、P-1という哨戒機は「『空飛ぶ船』であり、搭乗員はその『乗組員』、そして機長は『艦長』なのだな」と感じました。まさに海上自衛隊らしい飛行機であり、そしてその搭乗員たちなのではないでしょうか。


同乗する搭乗員たちには積極的に意見を求めるという諸隈1尉(2018年12月6日、関 賢太郎撮影)。

 P-1搭乗員11名の役割は以下の通りです。各座席はデジタルネットワーク化された「戦闘指揮システム」の端末コンピューターと、音声通信によって結ばれています。

●操縦室(コックピット)
・正操縦士(P):操縦を担当し飛行と安全に関する責務を負う。
・副操縦士(CP):操縦を担当し正操縦士を補佐する。
・機上整備員(FE):搭載システム全般の管理・維持および操縦士を補佐する。

●クルーステーション(胴体部)
・第1/第2戦術航空士(TACCO-1/TACCO-2):各員から得た情報をもとに戦術の立案を担当、P-1の頭脳となる。
・第1/第2機上任務員・音響(MC-1/MC-2):各種ソノブイ(音響探知器を備えたブイ〈浮標〉)によって得られた情報の管理を担当する。
・第3/第4機上任務員・非音響(MC-3/MC-4):レーダーほか多数の非音響センサーによって得られた情報の管理を担当する。
・武器員(ORD):魚雷やソノブイなど武器や火工品の管理、および機内からの撮影を担当する。
・機上電子整備員(IFT):搭載する各種電子機器の管理・維持を担当する。

 機長は、操縦士または戦術航空士のいずれかが担当します。どちらが機長を担っても、その役割に差はありません。

【写真】海自P-1哨戒機のコックピット


さまざまな計器が所狭しと並ぶP-1哨戒機のコックピットにて、小笠原1尉(写真左)と諸隈1尉。本文中の「小窓」はこの手前左側にある(2018年12月6日、関 賢太郎撮影)。