消費者にとって身近なガムだが、その市場は大幅に縮小している(記者撮影)

年末年始にかけての帰省ラッシュや、受験勉強の追いこみ時期。眠気覚ましや気持ちをリフレッシュしたい時の定番アイテムが、ガムだ。ただ「最近、何となくガムを噛まなくなった」と思う読者も多いのではないだろうか。


ガム市場が縮小の一途をたどっている。メーカー19社で構成されている日本チューインガム協会によれば、小売市場のピークは2004年の1881億円。翌年からは右肩下がりが続き、2017年には1005億円とピーク時から4割以上も縮小している。

決定的な要因が見当たらない

現在の市場では、菓子メーカーのロッテがシェア6割を握って首位に立つ(英調査会社ユーロモニター)。同社にとって、ガムは創業当時からの商品。2017年度も、同社の売上高3033億円のうちガムが500億円程度を占める。


同社でガム事業を統括する平井秀治マーケティング部長は、ガム市場が縮小している背景について「要因は複合的で、決定的なものがあるわけではない」と話す。リフレッシュに使われるシーンでは社会環境の変化によってそもそも残業が減っている。スマートフォン普及の影響もあるかもしれない。眠気覚ましのシーンでは、コンビニを筆頭にコーヒーがより身近になり、カフェイン入りのエナジードリンクなども増えてきた。

市場調査では、「何となく買わなくなった」という消費者も多いという。メーカーとしては有効な打開策が見えない状況だ。

コンビニなどでガム売り場付近にあるグミやタブレット菓子を見渡せば、ガムの独り負けが際立つ。市場規模はガムに比べて小さいものの、グミ・タブレット菓子はそれぞれ成長を続けている。2018年までの10年間で合計市場は約6割増え、800億円を超えた(インテージSRI)。


ガムユーザーだった一部の消費者はこうしたグミやタブレット菓子に流れている。リフレッシュのための清涼感のあるミント系ガムはタブレットへ、フルーツなどの味わいを楽しめるものはグミ市場へのシフトが見られるという。グミには果汁感を全面に打ち出したものや噛みごたえにこだわったものが多く、ガムと違って噛んだ後にゴミが出ないこともメリットだ。

ただ、縮小を続けるガム市場でメーカーが活路を見出しているものがある。それが“機能性ガム”だ。

スポーツ需要も取り込み狙う

中でも、ロッテが販売する「キシリトール」ブランドのガムの存在感は大きい。1997年に発売され、2003年には健康効果で国の認可を得た特定保健用食品(トクホ)に指定された。「歯に悪い」が定説だったガムを、一転「歯にいいガム」として売り出したことでヒットした。市場がピークを迎えた2004年は、キシリトールのボトル製品が発売された年でもある。


ボトル製品は広く消費者に受け入れられたが、メーカーにとっては単価減少につながるジレンマもある(記者撮影)

同社のガム売上高のおよそ半分がキシリトールブランドのため、市場全体でも3割弱を占めることになる。ピーク時から4割も縮小した市場にあって同ブランドの縮小幅は1割ほど。歯の健康を訴求する代替品が少なく、消費者が流出しにくいことが要因だ。

とはいえ、ロッテにとって、主力ブランドの減少はいち早く食い止めたいところ。そこで同社は、テレビCMなどの広告で、噛むこと自体の健康効果やキシリトールという成分の訴求に注力している。「嗜好性では代替手段がいくらでもある。機能性に注目されるようにしていく」(平井氏)。

そして今、熱い視線を注ぐのが、“スポーツ需要”だ。プロ野球選手に加えて、サッカーでも日本代表の長友佑都選手や元代表の内田篤人選手など、プレー中にガムを愛用するスポーツ選手を目にすることが多い。咀嚼(そしゃく)や、唾液の分泌によって心拍数が安定するという研究結果もある。地域のスポーツチームでガムを配布するなど、啓蒙や需要の取り込みを図っている。

シェア2位のモンデリーズ・インターナショナルも、トクホの「リカルデント」を2018年3月にリニューアル。「歯の健康」をより前面に押し出すなど、業界を上げて健康訴求を強めている。機能性を追求してガムの付加価値をいかに高めることができるか。新たな需要開拓のカギを握りそうだ。