スーパーの食肉加工施設で働く外国人。食品製造は特定技能の対象として検討されている(写真:編集部)

日本がついに外国人労働者の受け入れ拡大に舵を切る。政府は新しい在留資格「特定技能」を盛り込んだ出入国管理法(入管法)改正案を臨時国会に提出、来春の施行を目指す。

日本で働く外国人は2017年10月末で約128万人を数える。政府は特定技能によって、2019年度からの5年間で最大34.5万人の受け入れを見込む。

外食産業が検討対象に

特定技能の対象として検討されているのは14業種。選定の根拠は明らかになっていないが、従来の外国人技能実習制度の職種の大半が対象に入っている。新資格では「一定の専門性・技能」が必要なため、技能実習での受け入れ実績がある業界がまず優先されたとみられる。


技能実習の対象職種ではないが、今回検討対象に入ったのが外食業界だ。「特定技能では現在、外食の店舗で働いている留学生よりレベルが高い人材を求める」(日本フードサービス協会の石井滋・常務理事)。調理や接客に加え、安全・衛生やホスピタリティにも習熟してもらう考えだ。

一方、今回選に漏れた代表格がコンビニエンスストア業界だ。コンビニも技能実習の対象職種ではないが、大手3社で働く外国人は5万人を超え、従業員全体の約7%を占める。コンビニ各社が加盟する日本フランチャイズチェーン協会は、「コンビニには接客だけでなく、商品発注や在庫管理など高度な業務もある」として、所管する経済産業省に働きかけている。

世耕弘成・経産相はコンビニ業界の人手不足を認めたうえで、「ICタグを使って自動でレジをやるなどの工夫の余地もある」とも指摘。コンビニ業務の何が「一定の専門性・技能」に当たるかなどをめぐり、2者間の協議が続いている。

受け入れ態勢に課題

食品スーパー業界も経産省と協議中だ。すでに総菜加工は特定技能の検討対象に入っているが、他業務でも外国人材を活用したい考えだ。「正社員・パートとも2割近く足りない。5年で各部門のチーフぐらいにはなってほしい」(日本スーパーマーケット協会)。

ただ検討対象となった外食業界にも課題はある。外国人の受け入れ態勢を、業界団体や企業が整える必要があるからだ。ロイヤルホールディングスの菊地唯夫会長兼CEOは「今回業界を指定されている以上、われわれ外食業界が責任を持ってやるべきだ」と話すが、具体策はこれからになる。

既存の技能実習制度は、多くの企業で制度の趣旨から逸脱した運用があったと指摘される。留学生の間でも、規定時間を超えた労働がはびこる実態がある。

政府はあくまで来春の改正法施行を目指す。受け入れ側の業界・企業は、短期間での態勢整備という重い宿題を背負うことになる。

大幅な見直しとなる今回の入管法改正。今後のポイントはどこにあるのか。制度導入を目指す自民党で外国人労働者等特別委員会の委員長を務める木村義雄氏、外国人材受け入れを進める外食産業から菊地唯夫ロイヤルホールディングス会長兼CEOに話を聞いた。

「働く条件を日本人と同じにすべきだ」

参議院議員 自民党外国人労働者等特別委員会委員長 木村義雄


1948年生まれ。衆議院議員を7期務めた後、2013年参議院議員に当選(全国区)。元厚生労働副大臣(撮影:風間仁一郎)

2016年に自民党の「労働力確保に関する特命委員会」の委員長として、就労目的の在留資格を新設して外国人労働者の受け入れを進めるべきだと提言した。一歩前進だが、むしろ遅すぎるぐらいだ。

これまでは、技能実習と語学留学生の資格外活動という本来就労目的でない制度で労働力を補っていたが、もはや限界に来ている。技能実習では実習先から契約を解除されると帰国するしかなく、人権侵害や失踪などの問題につながっていた。特定技能の新設はこうした問題を正す意味もある。特定技能では業種内で転職が可能だ。技能実習は国際貢献という本来の目的に向けて純化していく。

特定技能の業種に何を入れるかは柔軟に考えるべきだ。日本人と同じように働いてもらえればよい。働く条件も日本人と同じにすべきだ。本来なら家族帯同も特定技能1号から認められるべきだが、永住につながるとの懸念が自民党内からも出たため、今回の改正案では1号では認めていない。

きちんとしたルールを作れば、外国人に日本を選んでもらえるはずだ。良質な人材は日本社会にもプラスになる。中国など諸外国も人材獲得に動いているが、まだ間に合う。(談)

「特定技能だけで人手不足は解消しない」

ロイヤルホールディングス会長兼CEO 菊地唯夫


1965年生まれ。日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)、ドイツ証券を経てロイヤル入社。2010年社長、2016年から現職。2018年5月まで外食産業の業界団体日本フードサービス協会の会長を務めた(撮影:梅谷秀司)

入管法改正はポジティブに受け止めている。外食業界でも高齢者や女性、テクノロジーの活用を進めてきたが、それだけでは吸収できないほど労働力が逼迫し始めている。人手不足は好景気に伴う一時的なものではなく構造的な問題だ。

特定技能で弊社が外国人を受け入れる場合、「日本人と同じ条件」が基本的な考え。店内での調理や接客などで日本人と同じように働いてもらう。すでにアルバイトとして働いている留学生は1つの候補になる。


当記事は「週刊東洋経済」11月24日号 <11月19日発売>からの転載記事です

将来の海外展開を視野に入れた人材確保にもつなげたい。たとえばベトナムに出店するとき、特定技能で働いたベトナム人に携わってもらう。他国との賃金格差がどんどん縮小する中、日本で働くことが将来のプラスになると感じてもらえないと、日本には来てくれない。

ただ、特定技能の導入だけで人手不足は解消しないだろう。むしろ、少ない働き手でどう付加価値を生み出すか、テクノロジーをどう活用するかといった議論が大事だ。ロイヤルホストは、24時間営業の取りやめで人手が確保しやすくなり、繁忙時間帯のサービスが向上した。規模の拡大を前提にする経営を再考する時が来ている。(談)