川崎戦ではロングボールのターゲットマンとして働いたF・トーレス。今後はチームとしてより最適な活かし方を模索したい。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

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[J1リーグ22節]川崎0-0鳥栖/8月15日/等々力陸上競技場

 J1リーグ22節で川崎と対戦した鳥栖は、割り切った守備的な戦い方で川崎の攻撃を水際で防ぎ、敵地で貴重な勝点1を獲得した。もっともシュート数は相手の23本に対し、たったの2本。期待のフェルナンド・トーレスはロングボールを競り合うターゲットマンとしてはある程度機能したものの、シュートは0本と、ストライカーとしての能力は見せられなかった。

 この試合でボランチの一角を担った高橋秀人は、F・トーレスをチームとして活かしきれていない現状をこう説明する。

「彼の最大値はこんなものではありません。ボールが収まるからそういう役割を担ってもらっているだけで、本来はそれプラス違う部分が彼の特長だと思います。チームが後ろでしっかりボールを握れれば、彼なりにもっと他のエネルギーの使い方ができるはずです」
 
 ただ残留争いを戦うなかでの難しさもあるようだ。

サガン鳥栖はゼロで抑えなくてはいけないところから始まるので、守備のリスクを負わずに、自分たちでカバーできるポジションを取らなくてはいけません。するとどうしても引き気味になってしまう。ボールを奪ってロングカウンターをできない時にもう少しゆっくり前に運べれば、そこから縦パスで、フェルナンドのフィニッシャーとしての役割を活かせると思いますが、今は守備にエネルギーを使いすぎてそこまで運べていない。でもバランスも崩したくないんです。

 彼の活かし方は考えていますが、それよりもチームが残留に向かって勝点を積み重ねていくことのほうが大事です。そこは葛藤があります」

 もっともF・トーレスとは日常からコミュニケーションを取っており、お互いの意思は確認し合えているという。

「それぞれの要求があるなかで、コミュニケーションは取っています。フェルナンドは英語を話せるので、やりやすいですし、人間的に非常に真摯なので話しやすいんです」

 一方、F・トーレスも川崎戦後には「チャンスは作れなかったが、勝点1を得られたことがなにより大きい」と、昨季のチャンピオンチームを相手に手にしたドローを評価していた。

【川崎 0-0 鳥栖 PHOTO】川崎が終始押し込むも、決定機を決めきれずスコアレスドロー
 22節を終えて鳥栖は15位。ただ、入れ替え戦に回る16位の名古屋とは勝点で並び(得失点差で鳥栖が上回っているが、名古屋は消化試合がひとつ少ない)、J2へ自動降格する17位の長崎とも勝点1差だ。

 余裕はない状況で、司令塔の役割を担う原川力はF・トーレスとの連係向上について「時間が必要。ただ連戦なので、練習の時間は限られる。だから試合のなかでより意識してやっていくしかない」と話す。
 
 果たしてその限られた時間の中でF・トーレスのサポート体制を築くことはできるのか。原川が「セカンドボールを意識したい」と話したように、守備のバランスを保ちながら、前線と中盤の距離感を少しでも縮め、F・トーレスに預けたボールに対して周囲が有機的に絡めるようになる必要があるのだろう。

 もっともそれは川崎戦のパフォーマンスを見た限り、相当に難しい作業のようにも映る。これからチームがどう変化するのかは見ものだ。 

取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)