NEXCO西日本は、アメリカに子会社を持っています。国内にしかない高速道路の管理運営会社が、海外子会社を作ってなにをしているのか、実は日本国内でしていることと大差ないのですが、現地では画期的すぎるものでした。

高速道路の管理運営会社はなぜに海外へ?

 日本道路公団(JH)の民営化によって2005(平成17)年に発足したNEXCO3社(東日本、中日本、西日本)は、日本の高速道路を管理、運営する大企業ですが、実はアメリカにNEXCO西日本の子会社があるのをご存知でしょうか。その子会社はNEXCO西日本が開発した独自の非破壊検査技術を用いて、アメリカの道路橋やモノレールの橋脚、ビルの外壁などコンクリート構造物の点検事業を行っています。


赤外線カメラで道路表面の温度差を感知しひびなどの損傷を発見するという、NEXCO西独自の検査方法を武器に、アメリカ進出を果たした(画像:NEXCO-West USA)。

 NEXCOと言えばとてもドメスティックなイメージの会社ですが、アメリカに子会社を作る構想はいつ頃からあったのでしょうか。米バージニア州に拠点を構えるNEXCO-West USAの松本正人社長にお話を伺ってみました。

「2008(平成20)年7月、NEXCO西日本に海外事業部ができました。その時点で、北米をひとつのターゲットとして考えておりましたが、当時はNEXCO西日本が有する技術のうち、どの技術がアメリカでニーズがあるのかが分かりませんでしたので、現地のコンサルタントを訪問してアドバイスを求めたところ、道路橋の点検技術にニーズがあることが分かり、2011(平成23)年、橋梁や高速道路の点検を行う会社としてワシントンD.C.に『NEXCO-West USA, Inc.』を設立しました。米国の道路点検インフラ事業への参入を目指すべく社長と私(当時副社長)の2名で事業を開始しました」(松本社長)

 しかし、日本では大会社のNEXCOもアメリカではまったくと言ってよいほど無名の会社です。最初はなかなか受注を得ることができず、「(NEXCOとMEXICOが似ていることから)メキシコの会社?」と間違われることもあって、受注を得るまでには相当な苦労があったといいます。

アメリカでのし上がるために

 NEXCO-West USA発足後、なかなか受注が得られないなか、同社は実績作りのためにセブンマイルブリッジ(フロリダ州)などアメリカの有名な観光地で、当時アメリカでは一般的ではなかった赤外線による独自の技術で無償の点検デモンストレーションを実施したそうです。これにより、徐々にその技術のすごさがアメリカでも認められていきました。

 ところで、アメリカの公共事業を日本の会社が受注することは、どれくらい珍しいことなのでしょうか。

「これまでの日本企業の技術による海外進出の成功事例といえば、自動車やエレクトロニクスなど、消費者向けの製品を輸出するケースが多かったのではないかと思います。当社が扱っているインフラの技術は、条件が異なる現場に合わせてカスタマイズし、技術を駆使して現場でサービスが提供できなければ売り上げを計上することができないという特徴があり、これまでの日本企業の海外における成功パターンが通用しない分野ではないかと感じております」(松本社長)

 やがて橋梁だけではなく、ビルの外壁や巨大ダムの点検も受注に成功。アメリカで公共事業に関する技術サービスを提供する場合に必須となるP.E.(Professional Engineer)の資格も松本社長自ら取得し、インフラ点検に関する技術サービス業務の元請受注(州政府などの発注機関と直接契約する受注形態)ができるまでになりました。

独自の点検技術の、具体的なところは?

 では具体的に、NEXCO西日本が開発したコンクリート構造物の点検とは、どのような方法で行われるのでしょうか。


走行しながらの点検も可能。赤外線カメラでとらえた温度差で損傷部を見つけ出す(画像:NEXCO-West USA)。

「赤外線カメラで撮影しながらコンクリート構造物の表面温度を測定して行う方法なのですが、コンクリートに損傷がある場所と健全な場所とでは、外部から熱エネルギーを受けた際コンクリート表面に温度差が生じます。この表面の温度差を赤外線カメラで撮影することにより内部の損傷部(構造物の浮きや剥離、ひび割れなど)を見つけることができます。それまでアメリカで一般的に行われてきたのは、コンクリート床版の上へ鎖を引いて音の異常をチェックする「チェーン・ドラッグ法」でした。これは検査担当者の経験や能力によって異常発見の精度が大きく異なってきます。ですが、当社の点検システムでは目視では絶対に発見することができないコンクリート内部の浮きや空洞も高度な解析技術によって、見落とすことなく検出が可能となっています」(松本社長)

 また、この点検システムは、極小の損傷を確実に発見できるだけではなく、多くのメリットをもたらします。道路を通行止めにすることなく、点検のための機械を車に搭載し時速80kmで走行しながら点検できるので渋滞の発生がありません。点検時間も短く、コストも大幅に安くなります。車線規制下で行う従来の方法では、わき見運転の一般車両が誤進入して点検員が事故に遭うこともあったそうですが、その心配もありません。

「イーグル」も出動間近

 メリットはまだまだあります。


ブラジルとパラグアイ共同管理のイタイプダムは水力発電用に建設されたもので、中国の三峡ダム完成以前は世界最大の発電容量を誇った(画像:waldorf27/123RF)。

「数年ごとに同じ橋梁の点検を繰り返すことで、確実な撮影データが蓄積されるため、損傷の進展履歴が定量的にモニタリングでき、劣化の傾向を把握できるというメリットも大きいのです。さらに、コンクリート構造物なら水平展開ができるので、たとえばニューヨークではビル外壁の点検プロジェクトを受注しました」(松本社長)

 またブラジルとパラグアイの国境に位置する、水力発電用のイタイプダムにおいては、「コンクリートひび割れ点検システム」そのものを販売。「機器の操作方法や調査ノウハウを技術移転することで、ダム管理公社におけるコンクリートダムの点検を効率化しました」(松本社長)といいます。

 ほか、コンクリート構造物以外にも、NEXCO西日本が使用している「イーグル」という、アスファルト舗装路の平坦性やわだちなどを測定する路面性状調査車両での検査も、2018年から検討していくそうです。

【写真】ひび割れの検出例、0.2mmのひびも見逃さない!


検出されたひび割れの一例。0.2mmという微小なひびも見逃さない(画像:NEXCO-West USA)。