北朝鮮の核ミサイルは今後長期にわたる世界の問題になる(7月4日に発射したICBM「火星14」を報じた日本のテレビ放送、写真:共同通信)

北朝鮮が11月29日未明、3度目となる大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射した。十分に予想されていたことで、驚くに値しない。アメリカのドナルド・トランプ政権が20日、北朝鮮を9年ぶりにテロ支援国家に再指定したことに対し、北朝鮮は「わが国に対する重大な挑発であり、乱暴な侵害である」と反発、新たな軍事的な挑発の可能性を示唆していたからだ。

韓国軍や防衛省の発表によると、今回のICBMは、通常よりも高い角度で打ち上げる「ロフテッド軌道」で発射され、過去最高の高度約4500kmに到達。約960km飛行して青森県西方約250kmの日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下したと推定される。飛翔時間は過去最長となる 53分間に及んだ。

日米韓の防衛当局は、すでにこのミサイルについて、ICBMだとみなしている。一般的に30分以上も飛翔すれば、射程距離5500km以上と定義されるICBM級の弾道ミサイルとみられる。

軽過ぎる核弾頭はモック(偽物)の可能性も

今回のICBM発射は、7月28日の2度目のICBM発射と同様、深夜未明での実施となった。北朝鮮による弾道ミサイル発射は9月15日以来で、今年に入って15回目。北朝鮮は弾道ミサイルの発射場所を1カ所にとどめず、移動式発射台などを使い、転々と移している。今回の発射場所となった、北朝鮮西部の平安(ピョンアン)南道平城(ピョンソン)付近は今年9カ所目で、初めての発射場所だ。

7月28日のICBMの発射後、北朝鮮の国営メディアは金正恩朝鮮労働党委員長が現地で発射を指導し、「任意の時刻、場所から、ICBMを奇襲発射できる能力を誇示した。米全土がわれわれの射程内にあることがはっきり証明された」と語ったと報じた。今回のミサイル発射後の11月29日正午には朝鮮中央テレビが、新型のICBM「火星15」の試験発射に成功した、との政府声明を正式に発表。火星15は「米本土全域を攻撃できる」と報じ、北朝鮮が試射に成功している「火星14」より戦術技術的能力で優れているとした。

ドイツのミュンヘン在住のミサイル専門家、マーカス・シラー博士は、北朝鮮の発表前に、今回の北朝鮮のミサイルは7月の2発のICBMと同じ、火星14との見方を示していた。弾頭の重さはわずか100kgと推定。小型核弾頭の重量とされる500kgと比べてはるかに軽く、核弾頭部分がモック(偽物)だった可能性を指摘している。

また米国のミサイル専門家、デビッド・ライト博士は、今回の北朝鮮のICBMが過去最高高度の約4500km、過去最長の飛翔時間約53分、飛翔距離約960kmを踏まえれば、通常角度で発射した場合には1万3000km以上に達し、ワシントンはおろか米国全土を射程に収めるとの見方を示した。これは、7月4日の火星14(高度約2800km、飛翔時間約40分、飛翔距離約900km)や、7月28日の火星14(同約3700km、同約45分、同約1000km)と比べ、格段に長いミサイル射程距離となる。

しかし、ライト博士はマーカス博士同様、こうした射程距離の急激な伸びが、核弾頭部分がモックで軽量だったために実現できた可能性を示唆。もし、これが事実であれば、1万3000km以上には到達しない、との見方を示した。

北朝鮮の朝鮮中央テレビによると、金正恩氏は29日未明に現地を視察し、「核武力完成の歴史的大業を果たした」と語った。

北朝鮮は今、米本土を狙う、ICBMの完成や実戦配備を急いでいる。米国との交渉で、平和条約や不可侵条約といった”体制保証の約束”を先に得るよりも、むしろ、ワシントンやニューヨークといった米中枢部を直撃できる核弾頭搭載のICBMをまず完成させたほうが米国との交渉で優位になり、体制の保証に役立つと考えているからだ。

建国70年を前に「国家核武力の完成」を宣言

「核武装の完成」を宣言した金正恩氏だが、ICBMの完成に不可欠な大気圏再突入技術の確立や核弾頭の小型軽量化、ICBMの射程距離延長を実現するため、さらなるICBM実験をする可能性も残されている。これまでの軍事パレードで登場した、3段式のICBM「火星13」の初めての試射もありえよう。

また、いまだ30代の若き独裁者の金正恩氏にとって、米国本土に着弾できる小型化された核弾頭搭載のICBMの完成は、技術面の確立だけではなく、内政面で自らの権威付けや箔付け、実績作りに役立つ。12月17日の故・金正日総書記の命日や12月30日の金正恩氏の軍最高司令官就任の記念日に合わせた、4度目のICBM発射実験の可能性も残されている。

2018年は北朝鮮の建国70年となる。この節目の年を控えて、金正恩氏は「核武力完成の歴史的大業」を高らかに宣言する格好となった。

金正恩氏はこれからどう出るか。2018年3月には毎年恒例の米韓合同軍事演習が控えている。北朝鮮が毎回、これに強く反発するなか、2月の韓国での平昌(ピョンチャン)五輪開催の機に乗じて、米韓に対し挑発行動に出る可能性もある。

北朝鮮問題は、今後何十年も続く、長期的な持久戦になると筆者はみている。米国は北朝鮮への軍事攻撃はできない。1994年の朝鮮半島第1次核危機や2003年の第2次核危機の際にも、米国は北朝鮮への軍事攻撃を検討したが、ソウルを中心とした被害リスクを考えて、手が出せなかった。当時と比べ、今の北朝鮮の攻撃能力は核ミサイル能力を含め、高まっており、日韓の被害はもっと大きくなる可能性が高い。

米議会調査局が10月27日に米議会に送った新たな報告書では、朝鮮半島で再び戦争が起きれば、核兵器が使用されなくても最初の数日だけで数十万人の命が失われる可能性がある、と指摘された。軍事衝突が起きた場合、「軍事境界線を挟む韓国と北朝鮮の両方で、少なくとも10万人の米国民を含む2500万人程度に影響が及ぶ恐れがある」と分析。さらに1分間の発射弾数1万発という北朝鮮の能力に言及し、同国が「通常兵器だけを使用する」場合でも、「最初の数日の戦闘で3万〜30万人の犠牲者が想定される」との見解が示された。

また、仮に米国が北朝鮮を攻撃し、金正恩体制を崩壊させても、最低26万〜40万人の地上部隊が安定化任務に必要になる、との2011年の試算がある。これは、イラクやアフガニスタンに米軍が派遣された際の約10万人規模をはるかに超える。米国がそれを担うだけの財政的、人的余裕があるとは思えない。

金正恩はフセインやカダフィにはならない

核兵器を持たずに崩壊したイラクのフセイン政権や、核兵器を放棄して崩壊したリビアのカダフィ政権を踏まえれば、北朝鮮の金正恩氏が米政権といかなる核合意も結ぶ可能性はきわめて低い。ましてトランプ大統領は、イランとの核合意はおろか、パリ協定も環太平洋経済連携協定(TPP)も、一気にひっくり返してしまう人物だ。米国が北朝鮮を信用していないのと同様、北朝鮮も米国を信用していない。したがって、北朝鮮が核開発を凍結したり、放棄したりする可能性は低いとみている。

もちろん、北朝鮮はトランプ政権の出方をうかがうために米国と対話はするだろうが、本気で核ミサイル放棄をするはずがない。自らの体制の維持のために、米国中枢部に着弾できる核弾頭搭載のICBMの実戦配備を、何よりも急いでいるはずだ。

思えば、米国は50年以上キューバに経済制裁を科し、バラク・オバマ政権でようやく制裁を解除した。北朝鮮はキューバのように、制裁を長年ずっと科され、封じ込めに見舞われることになるだろう。北朝鮮は「第2のキューバ」になる可能性が高い。